表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

十話

——戦況は瞬く間に悪化した。更に素早く、更に強靭になったキングラビリスウルフ。『恐怖』によるデバフは受けていないものの、レイドメンバーの士気は見るからに弱まっていた。


 ただ一つの救いは、これまで彼らが与えてきたダメージは、確実にボスの体力を削っていたということ。ボスの傷は癒えてはいない。つまり、残りHPは三割。


 『早く倒れろ、死んでくれ』。そんな想いを抱きながら、レイドメンバーは徐々に数を減らしていく。



「ごぇっ」

「タケルッ!」


 支援職の護衛をしていた中衛の男が、ボスが弾き飛ばした瓦礫に吹き飛ばされる。壁と瓦礫との間で挟まれた男は、全身の骨が砕けたように歪な形をしていた。


 攻略が始まった時には16人いたレイドメンバーは、ボスの形態変化と同時に1人。そして、それからまた1人、2人と死に……遂には10人を切って、9人になってしまった。

 前衛からは、5人中3人いたうちのタンクが2人死亡し残り3人。中衛ではアタッカーとディフェンダーがそれぞれ1人ずつ死亡し残り3人。後衛はモチモチを残して死亡し、支援職は苺大福ともう1人が残っているだけ。辛うじてパーティバランスは保てているものの、それがいつ崩壊するかも分からない。


「こんなの……初見で勝てるわけがないだろッ……!」


 そう呟いたのは、後方にいた中衛ディフェンダーだ。誰もが感じていたことを、改めて言葉にしてしまった男の手は、武器を取りこぼしてしまいそうになるほど震えていた。


 地下迷宮の主であり、この場においての絶対的王者。赤い稲妻のような閃光を放つ瞳には、一切の慈悲はない。それでもおっさんたちが戦い続けたのは、『終わり』がそこに見えていたからだ。



「はぁぁああッ!!」

「ぉぉおおッッ!!!」



 タンクの数が減ってしまったことで、もはやダメージ管理が不可能となった賢人と剛は、超人的なセンスでボスの攻撃を避けながら攻撃を仕掛けている。そして、前衛の数が減ったことで一時的に前衛アタッカーに加わったおっさんも、果敢に攻め込んでいた。

 形態変化したキングラビリスウルフには、魔法攻撃の効果が薄くなってしまった。それ故、後方からダメージ狙いで攻撃を仕掛けていたモチモチは、爆撃で煙幕を発生させてボスの視界を奪うなど、妨害行為に徹している。その隙に、ダメージ倍率の高い長剣を持つ賢人たちと、ウェポンスキルで高ダメージを狙えるおっさんがダメージディーラーを務めているのだ。


 ダメージは蓄積している。倒せない相手ではない。しかし、それはあくまでも万全の状態で、敵の行動パターンを把握した上で挑んだ場合での話だ。


「ッ、来るぞ、避けろッ!」


 キングラビリスウルフが右の前脚を大きく振り上げる。纏わりついていたドス黒いオーラのようなものが膨張し、ボスが前脚を地面に叩きつけて砕くのと同時に、膨張していたオーラが砕かれた地面の隙間を縫って噴き出し、おっさんたちを襲う。


「ぐッ……!」


 オーラそのもののダメージは即死に至るほどではない。しかし、あまりにも広範囲すぎて支援職の援護が間に合わない。


——そして、最悪なことに、ボスは次の攻撃の予備動作に移行していた。


「あの構えは……まずい、突進だッ!」


 少し後退りして力を溜めるような動作。形態変化の直後に放たれた攻撃だ。広範囲攻撃による行動制御と、その直後に放たれる超高速の突進。現状考え得る中では最悪の『即死コンボ』だ。


 おっさんの警告に、それぞれが全力の回避行動をとる。が……逃げ遅れたものが2人いた。残り1人だった前衛のタンクと、同じ直線上にいた中衛ディフェンダーだ。


 超高速の突進を受けた2人は、あえなく死亡。ボスは2人の肉を咀嚼しながら、荒い息を立てていた。


「おいおい、奴さん、いつになったら倒れんだ……!」

「本当に……冗談がキツイな……」


 剛と賢人は、息を荒くしながらぼやいている。形態変化してからここまで、かなりのダメージを与えているはずだ。キングラビリスウルフだって、明らかに疲労が増え、攻撃の精度が落ちている。


 残された人員は7人。前衛と中衛が2人ずつで、後衛が1人。支援職は2人だが、1人は補助スキル使いで1人はヒーラー。

 既にレイドパーティは崩壊している。ここから先は作戦など立てようもない、『どちらが先にくたばるか』の持久戦だ。


「剛さん、リキチ、マコト……ここから先は前衛も中衛もない。食われるより前に、俺たち4人で奴のHPを削り取る。いけるか」


 賢人が、おっさんたちにそう告げる。3人は賢人の言葉に力強く頷いた。


「おう。やるしかねぇな」

「それしかないなら。僕は異論なし」

「ああ……作戦立ててる暇なんてなさそうだしな」


 決意が固まったのか、あるいは諦めがついたのか。賢人は後方にいるモチモチたちに視線で合図を送った。それだけで全てを察したのか、モチモチと苺大福、それから残った支援職の男は頷いて、覚悟を決めたような顔をする。



「皆……行くぞッ!」



 アタッカー4人の突撃を合図に、苺大福はありったけの回復魔法を、もう1人の男はありったけの補助魔法を4人にかけ、モチモチは隙を作るために爆撃魔法を放つ。


「フレアボムッ!」

「ッッ!!」


 キングラビリスウルフの足場を次々と爆破していくモチモチ。足場が崩れ不安定になった上、土埃が舞って視覚での索敵を妨害されたボスは、嗅覚と聴覚に頼りながら他の人間を探した。そして、4つの人影が接近していることに気がつく。


 ボスは前脚を振り上げ、叩き付けようとする。広範囲攻撃なら、全方位から敵が来たとしても関係はない。まさに振り下ろされようとした瞬間、賢人と剛のウェポンスキルが発動する。 


『パワースラッシュッ!』


 振り上げられていない前脚に同時に斬りかかる2人。流石にそれはこたえたのか、ボスの攻撃は中断される。振り下ろしていた脚を下ろし、なんとか姿勢を整えるキングラビリスウルフ。一時的に動きが止まった瞬間を、リキチは見逃さなかった。


「そこだ! インパクトシュートッ!」


 リキチの持つ短弓は、取り回しや連射速度に優れる分、後衛アタッカーの持つ『長弓』に比べて射程距離と威力が劣る。たとえスキルを使っても、リキチのステータスではキングラビリスウルフの毛皮は貫けない。

 しかし、殆どの生物には共通する弱点がある。『眼球』だ。前衛に出た今のリキチならば射程距離の短さは問題ではない。あとは一時的にボスの動きを止め、正確に狙いを定めて眼球を射抜くだけ。


 彼の放った2本の矢は、真っ直ぐとボスの両眼球を射抜いた。ボスは突然訪れた激痛と暗闇に悶絶し、体勢を崩されていたことも相まって、そのまま地面に崩れ落ちる。



「崩れたッ!」

「マコト、決めろッッ!」



 おっさんはボスに向かって駆け出し、瓦礫を踏み場にして大きく跳び上がる。空中で一回転し、槍を構えて、ボスの首元に狙いを定める。


「終わりだ……レイジ——スラストッ!!!」


 スキルを発動して赤く輝く槍。おっさんは柱を強く蹴り、稲妻の如き速さでボスに飛来した。

 レイジスラストの隠し効果……それは、空中からの強襲時に威力を上昇させるというもの。元々高いダメージ倍率に、更に付加された追加効果。視覚を封じられたボスは必死に逃げようともがくが……ここまで蓄積したダメージが大きいのか、その願いは叶わなかった。



 空中から飛来した赤い閃光。それは確かにキングラビリスウルフの首を貫き、奴を絶命させた。転がりながら着地し、女の子として見ればみっともない姿で止まったおっさんは、絶命したキングラビリスウルフを見て、ぽっと呟いた。


「た、倒……した……?」


 おっさんは立ち上がり、起き上がってこないキングラビリスウルフの姿を見て、仲間たちに視線を向ける。

 そこには、今にも爆発しそうなほど歓喜を露わにしている仲間たちがいた。特に後方……女性陣2人は抱き合って、涙を流している。




「た、倒したぁ!!!」




 おっさんの歓声を皮切りに、その場にいた全員の喜びが爆発した。喜びを肉体で表現するもの、疲れのあまり渇いた笑みを浮かべるもの、相変わらず目元はよく見えないが口元を綻ばせているもの、抱き合って涙を流すもの、安堵したようにその場に崩れ落ちるもの。


 スキルの影響で少し離れた場所にいたおっさんもその席に同伴しようと、痛む腰を押さえながら、よろよろと歩き出す。一番近くにいた剛と目が合うと、彼はハイタッチを求めるように手を挙げた。いや……身長差を考えれば、降ろした、と言った方が正しいか。


 おっさんは、そんな剛の手に手を重ねようと、笑みを浮かべながら近づく。







——次の瞬間、誰かが怒声を放った。それは恐らく後方にいた女性のどちらかだったが、おっさんには判別ができなかった。



「皆、後ろッ!!」

「え?」



 おっさんが振り返ると、そこには絶命したはずのキングラビリスウルフから放たれたドス黒いオーラがあった。まるで巨大な槍のような、触手のような。人を確実に貫き、殺すための一撃が迫っていた。

 オーラは2本。1本はおっさんを狙っていて、もう1本は賢人を狙っているようだった。


 眼前まで迫るそれに、けれどおっさんは反応できなかった。地面に激突した反動で手足が痺れていたからか、ただただ、その瞬間(・・・・)が訪れることを待つことしかできなかった。




——そして、キングラビリスウルフから放たれたオーラは、2人を貫いた。赤く、鮮やかな血が、2人からの体から噴き上がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ