相席
……まさかこんな時代が来るとは思わなかった。
お見合い文化が廃れ、結婚のチャンスを失いつつある昨今の男と女。
相席居酒屋など出会いの場として様々な取り組みがあるのは知ってはいるが
ふふふふふ。ここは最高だな。入るしかないだろう。
いやぁ、実に思い切った決断だ。
まあ、この業界も低迷していると聞くし、改革に踏み切ったのだろう。
料金は……ふうん、二種類か。いや、割と差があるな。高いと優遇されるのかな。
でも、初回だ。試しだし安い方にしておこう。
多分、通常料金より安いぞ。これだけでちょっと得した気分だ。
サービスのアイスまである。バニラがいいな。あとで貰おう。
これはいい穴場を見つけたかもしれん。
どれ、さてさて女の子、子猫ちゃんたちはどこかなーなんて
はははっ、ついオラオラいってしまいそうだ。
抑えて抑えて。いかにもそれ目当てだなんて思われたら……いや、いない。
え、どれだけ見回してもいないぞ……。
……まあ、それもそうか。
相席居酒屋と違ってタダで飲み食いできるわけではないんだ。
元々の料金も知れたものだし、それにやはり抵抗感があるだろう。
やれやれ、とんだデビューになったな……。
……仕方ない。寝たふりでもして少し待って
それでも来ないようならここは大人しく……なんだあの男たち。
どうして俺をニヤニヤ見ている?
別に変なところはないはずだ。
俺はちゃんと、ん、あのリストバンド……俺のと比べ高級感が……。
ああ、なるほど。あれが高い料金を払った、つまりVIPの証というわけか。
何か特典があるのかもしれない。
だから低料金で入場した俺を見て嘲笑っていやがるんだ。
馬鹿め。女の子がいないんだから大きく損をしたのはお前たちだろうに。
お仲間同士、せいぜい虚勢を張り慰め合ってろ。
……なんだ? ジャンケンを始めたぞ? まあいい。俺は俺でさっさと――
「やあ」
「え、あ、どうも……」
「ふふっ。君、イケるね」
「え? どこに」
「ふふふっ。じゃ、行こうか」
「いや、だからどこに」
「VIPルーム。楽しいよ? ほら、いこっ」
「え、じゃあ、まあ、はい」
急な事で驚いて、つい断りそびれてしまったがVIPルーム? ここにそんなものが?
まあ、興味ない事もないが……そうか! 女の子はそこにしかいないんだ!
あの男の腕にある鍵はその部屋のものなわけだ。
でも……なぜ俺を誘う? まあ若いし、体を鍛えているからな。
ウケはいいほうだ。上手くアシストしてくれということかもしれない。
「にゃんにゃんにゃーんと」
「ははは、ノリノリですね。うわ!」
「え、なに?」
「い、いえ……」
こいつ、なんで今、俺の尻に手を……。たまたまだよな?
たまたま手が当たっただけ……。
……待て、まさかこの銭湯。
相席……男、二種類の料金って……まさか、あ、あ、あぁぁぁ。