ヒロイン登場
念願のヒロイン登場回!
どうして、こんな高威力の衝撃波を送り出すんですか!
あ、またおれ何かやっちゃいましたか?
いいえ。精霊さまの初仕事です!
知ってるって。なんかすまん。
どうしましょう。どうしましょう。たくさんの人たちを巻き添えにしてしまいました。
大丈夫だ。怪我人は出ていない。
そうだとしても。これからどうしましょう。
よし、カリンお前も気絶したふりでもしておけ。
それしかなさそうですね。
教師含め、合同魔術訓練に参加している全ての生徒が気絶している。
私は狸寝入りをすることにした。皆さますみません。本当に申し訳ない。
*****
1時間くらいたっただろうか。幾人かの生徒が目を覚まし始めた。パラパラと降り出した雨粒がお仕事をしたのかもしれない。
「ウィリアム様、そんなに急いでどちらへ行かれるのですか!?」
「悪い。今余裕がない。」
「待って下さいよ~!」
「カリン大丈夫か? しっかりしろ?」
「ウィリアム様。そんなに揺すると首がもげてしまいます。く、苦しい。」
「すまない。どこもけがはないか?」
「だ、大丈夫です。」
そんなに真っ直ぐな目で見つめられると気まずい。なんせ犯人は私なのだ。
本当に申し訳ないわ。
「それより、私のことは気になさらないでください。いつも殿下をしたっている、あの子の下へ行って上げて下さい。」
「だ、だが・・・。」
「善は急げです、よ?」
微笑む彼女は、もはや話す気はなさそうだった。
私は仕方なく彼女を支えていた手を手放し、マリア嬢の下へ向かう。
最近公爵家に養子縁組を果たし、貴族社会への仲間入りを果たした彼女。
金髪のカールしたハーフアップがチャーミングな彼女。私も昔は彼女のような華やかな女性が好みだった。
先程のように丁寧な仕草で彼女を気づかう。
「大丈夫ですか。マリア嬢。」
「殿下、ご心配をおかけし誠に申し訳ございません。」
「なぜ謝る? それよりケガはないか?」
「私はなんとか大丈夫です。」
「殿下こそお怪我はございませんか?」
「マリアさん、大丈夫ですか?」
「マリアさん! いったい誰がこんな真似を!?」
みんなが互いに心配しある中、私は思う。
ほんっとうに申し訳ございませ~ん!!
おい。カリン。あれが、攻略対象たちらしい。
どういうことですの?
もう攻略済みらしいな。
モテる女性は大変ですわね~。
元凶である彼らは高みの見物であった。
それより後から調べられたりしたら大変だわ。
証拠隠滅とは、たやすい。おれに任せてくれ。
精霊さま頼みました。
おう。頼まれた。
「全員が無事か確認を急げ!」
教師陣が慌てて動き出す。
みんなに手を引かれながら、カリンと生徒たちは避難するのだった。
その晩、精霊さま証拠隠滅の為にいろいろしてくれたようだが、私にはなにも教えてくれなかった。
ああ。人は殺してないから、安心してくれ。
その言葉を信じるしかないのだ。
*****
「カリンさま、先日は大変でしたわね。」
「その後、具合は悪くなったかしら。」
「クラスの人たちで、異常があった子はいないそうですわ。」
教室にはいると次々と話しかけられる。
「それは何よりですわ。」
何も素知らぬようにふるまえるのは王妃教育のまさに賜物だった。
ふっふっふ。お主も悪よのう。
笑えない冗談ですわ。精霊さま。
こちらは頭の中との対話もあり、いつボロを出さないか心配なのです・・・。
自嘲気味に、クスリと笑った。
「何か面白いことでもあったのか。」
「殿下がお気になさる事もない砂塵でございますわ。」
少しだけ突っぱねるように言うのは仕方がないのかもしれない。
全くこの方自身には興味がないのだ。この国の平穏にこそ関心はあるのですが。
少し残念なお顔をされても知りません。
ペコリと一礼をし、私は友人たちとの会話に混ざりにいった。
「最近王宮では、このハーブティーが流行っているそうなんですわよ。」
「何も隣国の商人が仕入れてくれた志向の一品らしいわ!」
「カリンさまも良かったら、我が伯爵家へおいでませ! 美味しいお茶菓子と噂のハーブティーのご用意がございますわ。」
「ありがとうございます。ぜひお伺いいたします。」
ニコニコと学友と戯れる彼女の背中を少し恨めし気にウィリアム殿下は見送った。
*****
その夜・・・。
おかしい。何もかもが・・・。
なにがですの?
この世界は乙女ゲームなんだ・・・。なのに、まず、お前! 悪役令嬢の素質が皆無!
ひ、酷いですわ! 私だって、懸命に生きてますのに! ”アクヤク令嬢”が何か存じませんが。
それから、ヒロイン! 何で攻略キャラの攻略をさぼって、殿下一筋でめちゃくちゃ控えめのアプローチしかしてないんだよ!?
おかしいって・・・。なんだよ、天然系のたらしヒロインって。
そうですわ。彼女は素敵な女性なのよね~。
ぐぐぐ。それは認めねばな。別に・・・。おれはお前が死んでも構わないしな。
ひ、酷い。なんで私が殺される前提ですの? 本当にピンチになりましたら、最強の守護精霊のシーレさまもいらっしゃいますのに。
いいか。おれがいくら強くてもな・・・。
はい。
多勢に無勢って状況もある。何かしら妨害をうけでもしたら。
そんな意地悪なさる方はいらっしゃらないわ。
・・・。(あきれ顔)
皆さまは本当に私に良くしてくれるのよ。
そうだろうともさ。お前は良いやつだからな。
シーレさまこそですわ・・・。スヤア。
何ともあどけない寝顔だ。本当に将来が心配でしかない、お人好しである。
読んでくれてありがとう♪




