魔術の合同訓練
カリン令嬢とウィリアム皇太子は別のクラスなので、接点が非常に少ないです。
ワレ・・・。寂しい。今少しだけカリンとおしゃべりしたい気分なのだが、彼女なんか妃教育だとかで忙しそうなんだ。
ワレ・・・。ワレ・・・。あれ。一人称はワレだったのか? 何故か違和感を感じる。
そうだ。おれだったかもしれない。おれ様は高位の精霊である。うん。やはりおれか。
だんだん話し方も流暢になってきた気がする。
カリンに思考が読まれないよう、パーソナル領域を意識感に作り出し、彼女との線引きをする。念話で全てが繋がれば良いってわけでもないしな。
本日は帝国立魔法学校の入学式とやらがあった。
なるほど。たくさんの若造どもが嫌いやがる。精霊の気配は30名ほどか。
ほうほう。高位の精霊もいるではないか。まあ。おれほどではないがな。
「初めまして。カリン様。」
「よろしくフローラ嬢。」
「お噂はかねがね。素晴らしい美貌をお持ちですね!」
「モテそうで羨ましいですわ~!」
まわりのみんなから慕われてる。
あれ? おれの知っている悪役令嬢と違うな!?
おれのスキル鑑定がバグっているのだろうか?
ふむ。もう一回やり直しても結果は変わらないではないか。
もしかして誰かが闇落ちさせるのか? 何かの事件にあってとか・・・。
この先の未来が読めない。
突如後ろから無礼なやつが声をかけてきた。
「良くもぬけぬけと殿下の前に顔をあらわせたものだな。」
「この帝国貴族の恥め。」
「シルクフット公爵家も落ちたもんだな。」
精霊の召喚の時にいた方々がわめいている。人間いつだって上手くいっている時は他人を見下しがちなのかもしれない。
別に私を悪く言われるぶんには構わない。それでも、我が公爵家を侮辱するとなると別だ。
「その言葉聞き逃せませんわ。シルクフット公爵家はこの国に多大な貢献をして来ました。それをあなたたち如きが評価することさえおこがましいわ。どうぞ。謝罪頂けるかしら。そうすれば、聞かなかった事に致します。」
「ぐ。言わせておけば。分かった。すまなかった。」
「でも、お前はいずれボロをだす。その時には覚悟をしておけ。」
将来が思いやられるほどの小物感のある捨て台詞を吐き、皇太子の取り巻きたちは消え去った。
「カリン嬢。かばってあげられなくてごめんなさい。」
「私たちみんなあなたの味方をしたいのだけれど・・・。」
彼らは自分の地位を利用して、こんな横暴を行っているのだ。
「いいえ。実害が私だけで収まるのならなにも問題なんてないわ。」
それでもカリンは無理に笑顔を取り繕って微笑んだ。
*****
数分後・・・。
「ウィリアム様。カリンさまはご学友と仲良くされていました。」
「元気そうであったか。」
「もちろんです。ただ、やはりウィリアム様がおっしゃっていたような横暴でわがままな性格がいつ出ても良いように、牽制だけはしておきました。」
「そ、そうか。ほどほどにな。」
大変気まずい・・・。ちょうど5年前だろうか。今となりにいるこいつらにおれは、カリン令嬢の悪口をある事ない事吹き込んでしまったのだ。
当時は帝王学などを学ぶ上で大変ストレスを抱え、それを1度しかあったことのない婚約者を貶める事で発散していた。
我ながらクズである。だが、それを言い出す勇気がない。
こんな風に真っ直ぐにおれの目をみて信じてくれている。言わねばならない。それも早急に・・・。
何かがあってからではもう遅いのだ・・・。
「お前に命じる。もうカリン令嬢にはかかわるな。お前たちの将来を思っての忠告だ。」
「さすがはウィリアム様!」
「一生ついて行かせて下さい!」
「ああ。頼りにしているぞ。」
これで彼女の学園生活が不快になる事はないだろう。我ながら打算的である。だがこうして乗り切るしかないのではないだろうか。
改めて個人的にカリン令嬢には謝罪させて頂こうと思う。これからの将来の為にも。
明日の放課後、カリン令嬢のお時間を頂いて腹を割って話し合おうと思う。
*****
授業が終わり、みんながそれぞれ馬車に乗り込み帰宅している中、私はカリン令嬢が教室から出てくるのを待ち続けた。
だが、その日はいくら待っても出会えなかった。何故だ。先程まで校内にはいたはずだ。
「ウィリアム様。本日もお疲れさまでした。」
「ああ。」
「もしかして探し人でもいらっしゃいますか?」
「いや。何も聞かないでくれ。」
「はい。それでは失礼いたします。」
「うむ。」
話しかけられながらも、出入口に目を見やる。今日はダメかもしれないな。どこか見落としがあったに違いない。
だがその待ち伏せ作戦はその週いっぱい試したものの、彼女と話す機会は得られなかった。
*****
「本日はとなりのクラスと合同で、魔術基礎の訓練があります。みんな心して臨むように!」
この機会に話しかけようと思う。後でカリン令嬢にお時間をとって頂くのだ。
なるほど。合同訓練となると人がかなり多いな。彼女の美貌は砂粒の中の真珠のようだ。すぐにどこにいるかが分かった。
「ウィリアム様一緒に参加して頂けるなんて光栄です!」
「う、うむ。こちらこそよろしく頼む。」
だが時間が取れない。先週いっぱい放課後を棒にふってしまったのだ。流石にもう時間が取れそうにない。
私はなんて愚かなんだ。自分の気持ちにも噓をつき。もうなにをやっているのだろう。
今回の課題はかなり初級のものだ。すぐに終わらせて、カリン令嬢のところに・・・。
突然の爆風に弾き飛ばされ、ウィリアムは気絶した。
「ウィリアム様大丈夫ですか? うわあああ。おれたちが壁になりますので・・・。ぐわあああ。」
「どうかお許しを!」
泣いて謝罪をする側近たち。彼らも例外無くあまりの衝撃に気を失った。
誰だ・・・。敵国の襲撃か・・・? 視線の先にはカリン令嬢の慌てている姿があった。
君が無事でよかった・・・。直ぐに意識はかききえた。




