ヒロインの出番
最近悪役令嬢めじろ押しだったので、ヒロイン回です! この展開は予想出来なかったかな(〃▽〃)ポッ!?
私は今唐突に困っている。
この世界は乙女ゲームの悪役令嬢の世界だ。なのに・・・。
久しぶりに私の出番が回って来たかと思えば・・・。
ホラー展開になりそうな予感しかしないではないか!
*****
この通路をまがりまたあのサトゥーくんと顔を合わせるのが怖い。
昨日まであんなに優しかったのに・・・。今朝顔を合わせ挨拶をすると彼に無視されたのだ。
気付いていないかと思い、彼の肩をつんつんしようとすると、彼の身体はホログラムのように崩れだした。
それはまるでSF映画に出てくるドット絵のようで。
しばらくすると身体の崩壊はおさまり、何事もなかったように修復されていった。
今起こったなはいったい何なの!?
ものすごく嫌な予感がし、私はその後から彼へ接触を図ることをやめた。
ススッと何事もなかったように教室へと向かう。
なるべく関わらないように。視線を合わさないように。存在感を薄くしていようと決めた。
それなのに・・・。この男は・・・。
「マリアさん、今日はどうしたのですか? お疲れなのかな?」
なんともないような穏やかな笑みを浮かべて話かけてきた。
「ご心配ありがとうございます。サトゥーさん。少し気分が優れなくて・・・。」
嘘をつくのに罪悪感を覚えたみたいだ。こめかみの所が重くなった気がする。
「それはいけないな。良かったらこれどうぞ。」
差し出されたそれは、余りにも異質でこの世界にはないものだった。
私はその飲み物を知っている。
あなたはひょっとしなくても、いえ。だから私はあなたに親近感を覚えたのかもしれませんね。
深く考えるのはちょっと違う気がしたので、お礼だけ言って素直に受け取った。
*****
おれは一体何がしたかったのだろうか。この世界の知り合って間もない彼女にこの世界の迷い物のようなものを見せ、それをあげてしまうとは、不用心にもほどがある。
しっかりせねば。最近気が緩んでしまっている。
私の今の名はサトゥーだが、前世の名は佐藤だったりする。バリバリ働く社会人だった。
夢だった職業に就き、寝る間や食の時間を惜しみ、全てを捧げて来た。それこそ死んでしまうまで。
その日も新作ゲームのメンテナンス作業に追われ、3徹したあたりだろうか。
身体から魂が抜けていってしまった。おれは死んでしまったのだ。でもそれについては後悔はない。友人や彼女いない、そんな人生だったのだから。
でもおれは不幸とは思わないかった。自分の時間を謳歌する人生は楽しかったし、まさか転生したのがおれも開発に関わったこことのあるゲームだったことも幸いした。
この世界は何より自由でしがらみがない。社会の秩序は守られているし、私は特に周りから角もたてられる事もないモブ中のモブ。
まさかまた学生をするとは思っていなかったが、私は現実を甘んじて受け入れることにした。
だが、最近になってなぜがこのゲームのヒロインに絡まれて正直困っている。
確かに可愛い顔をしている。だが、キャラデザや設定はあの後藤がやったのだ。おれはその時別のゲーム開発にも関わっていたので、正直そこまでこのゲームについては詳しくない。
つまり私の理想のヒロインというわけではないのだ。本当に申し訳ないと思うけれども。
名前はそう、え~と。確かマリアさん。どうやら私に気があるらしい。
そんなバカな・・・。乙女ゲームの世界なだけあって、周りには私よりも容姿や性格が優れている者がいっぱいいるというのに・・・。
これはあれなのか・・・。悪役令嬢がらしくないから、ヒロインが暴走してしまっているのだろうか。
ダメだ。君はこの短い期間接しているだけでもわかるが、良い奴だ。気をしっかりともって欲しい。
そう思い、無意識に私の非常食をアイテムボックスから取り出して渡してしまっていた。
その缶にはモンキー・エナジーと書かれていた。
彼女にツッコまれ、詳しく詮索されると身構えた。だが彼女はただにこやかに微笑んだだけで、素直に受けとってくれ、その場で缶を開け飲み干した。
な、なんて良い娘なんだ・・・。私は思わずホッコリとしてしまい、飲み物を飲んだばかりの潤んでいる彼女の小さな美しい唇に目を奪われ、一人心の中で毒づいた。
後藤め。なんて可愛いキャラを作りやがったんだ。完敗だ。
何故か魂が震えた気がした。
「ごちそうさまでした。」
その言葉はこの世界にはないもので・・・。私は思わず目を大きく見開いた。
「ノーゲーム・・・。」
「ノーライフ・・・。」
ゲーム無くして人生はない。
それを知っている。私も君も・・・!
2人の情熱が熱く握手として交わされた。
「まさか同郷のものだったとは・・・!」
「私もびっくりです・・・!」
そんな嬉しさも私の指の先から始まっている崩壊に気がとられて邪魔されてしまった。
「どうしてこんな事に!?」
「どうやら私はこの世界のバグなのかもしれません・・・。」
少しばかり気弱な顔をしてしまっていたのだろう。
彼女が不安そうな顔をしている。おっとすまない。
「大丈夫です。私はこれについての専門家でしたから♪」
「やっぱりすごい方だったのですね!」
プログラマー自身がバグになってしまうとは。人生は小説よりも奇なりと言った偉人をぶちのめしたくなる。




