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悪役令嬢と攻略対象

いつも読んでくれてありがとう♪ 最近更新遅くてごめんなさーい! 作者は罰ゲームと戒めのため夜しか眠らない事にします!

かの戦闘民族のヒッタイト族。彼らは最強の存在である。


幾度と味あわされた死戦。今頬をかすめた一撃を食らえば私は2度と殿下には会えなかっただろう。


私の背をファルセダさまが預かっている。数週間まえには私の命を狙う敵だった女性だ。


なんともおかしな話だ。


「ファルセダさま。まだやれますか!?」

「当然ですわ。」


アイコンタクトで後ろの死角からの攻撃の目配せをしてくれ、私はまた数秒の命をつないでいく。


なんとしても帰らなければ・・・。


敵の矢の雨をかいくぐり、前線の魔獣の騎馬隊を押しとどめる。


力では到底かなわない。なんなら単騎撃破さえ不可能だ。


彼らの乗りこなす魔獣は普通は人類などには付き従わぬ存在だった。


それを彼らは何かしらの手を使い、通じ合い阿吽の呼吸で連携し軍隊へと昇華させた。


それはとても素晴らしい偉業だった。侵略戦争にさえ使わなければ。


私は師匠から託されている槍で敵の攻撃を薙ぎ払い、進軍をまた数秒遅らせる。


今できること時間稼ぎだけなのだ。


槍を握る手に力がこもる。ふざけるな。私はまだやりたいことがたくさんあるのだ。


この帝国のことも愛おしく思う。そんな私の幸せを奪わせやしない。


後退しながら、防衛戦の要塞へと足をはやらせた。


もう少し、で・・・。私の殿しんがりの役目は終わる。


足に激痛が走り、数歩よろめいてしまった。目に一筋の赤い線が走る。


不覚だ。頭部にもけがを負ってしまったのか。


あまりの余裕のなさに気がつかなかった。私の親衛隊の親衛たちが一人一人と減っていく。


「うああああああ!!!」


言葉にもならない声で吠え。私は仲間を一人でも逃がすべく少しばかりの時間稼ぎを試みた。


でもそれは弱った1匹の鼠がたくさんの猫にもてあそばれる事と変わりはしなかった。


あっという間に鎧を貫かれ、私はガクリと地に打ち付けられた。


ゴ、ゴハッ。


あまりの衝撃に肺が悲鳴をあげる。


私の親衛隊の動きが鈍った。ダメだ。みんなは自分の命を大事にして欲しい。あなたたちはこの国に必要な人材なのだから。


力が入らなくなった私を、多少強引に抱えて助けてくれる私の姿があった。



*****



沢山の敵兵を引き付けて来てくれたカリンたち率いる帝国兵たち。


パピリオその美少女のような整った顔に残虐な笑み浮かべた。


「殿下まだでしょうか!?」

「ああ。まだだ・・・。」


ゴクリ。みなが見守る中・・・。


敵があと一歩でカリンへの刃が届くというところで私は力を解放した。


スキル解除 ”胡蝶の夢” 


まるで一糸まとわぬ統率のとれていた敵があっという間に陣形を崩し、退却していった。


「何がおこったのでしょうか?」

「噓だろう。伝説だと思っていた。」


「実在したのか? あの悪魔の力は!?」


今にも敵兵からの攻撃に身構えていた衛兵たちにどよめきがはしる。


世界最強の精神攻撃の使い手がパピリオその人であった。乙女ゲームの攻略キャラは何かしら特別な力をもっている。


特に使う機会が用意されているわけでもないのに。


そんなゲーム会社が仕掛けた裏設定がここに活きてきていた。


敵は実在もせぬ幻覚に惑わされ退却を余儀なくされた。あたりに土煙をあげ敵は一時退却していくようだ。



張りつめていた空気が一気に解け、ファルセダは自身と全く一緒のカリンの顔を覗き込む。


なんとも奇妙なものだ。全く同じ容姿に同じ声。


でもきっと私が彼女と入れ替わってもあの帝国の第一王子のウィリアムには一目で見破られそうな気がする。


何故かそれだけは確信があった。



*****



「カリンさま、大丈夫ですか?」


耳元でジョバンニの心配そうな声が遠くに聞こえる。


意識がまだもうろうとしており、何度も手放しそうになる。


まぶたが余りにも重く、手足は一瞬たりとも力が入らない。


吹き飛ばされた時に脳や身体全体に深刻なダメージが入っていたようだ。先ほどまで戦場にたてていたのは奇跡だったのを思い知らされた。


とっくに体の限界は迎えていたのだ。


「早く起きないと殿下が来てしまいますわよ。」


少し意地悪にフォルセダさまが言う。


そう、殿下・・・。あなたに今どんなにお会いしたいか。


再び意識がもうろうとしてあの日の夢を見る。


夏ののどかな宮殿の噴水の庭園。殿下は私に両手一杯の花束を下さった。


「殿下。こういう事をされても困ります。」

「そう言わないでくれ。カリン。それでも受け取ってくれる君は優しいな。」


「どうしてそう婚約破棄にこだわるんだい?」

「私は殿下あなたの気持ちに答えられないからです。殿下は私にこんなにも思いを伝えてくれますのに。」


「何も君が謝る必要なんてないさ。私が好きでやっている事なのだから。」


「私には目に見えないものが分からないのです。例えば愛とか。」

「そうか。では君の心の準備ができるまで気長に待とうと言いたいところだが、私は諦めの悪い男でね。」


「それはもうしっかりと伝わっていますよ。」

「君の気持ちを一歩でも前進させたい。そうだなあ。」


それだけを言い、殿下は5分ほど席を外した。


戻ってくるなり不思議な事を殿下は突然言い出した。


「同じく目に見えないものだが・・・。例えば水。水流の流れは波でもない限りはっきりとは見えにくい。」

「それはそうですが。」


「噴水を良く見ていてくれ。」


するとどういう事だろうか。上流の方から流れ込んで水色の水があっという間に鮮やか噴水へと塗替えられていった。


「水の流れがこうすれば一目で分かる。」


私は一瞬では意味が分からず殿下の目を見返した。


殿下はいたずらを仕掛けた幼子のような茶目っ気のある笑みを浮かべているだけだった。


「私は君を気づけばいつも見ているよ。」


そう言って彼は少し照れくさそうに微笑んだ。



*****



血を流しすぎたのだろう。回復魔法でも完全には傷はふさがらず、私は死線を何度もさまよった。


何日たったかもはや時間の間隔はない。


その間何度もジョバンニさまとフォルセダさまはお見舞いに来てくれた。


私が死ぬわけない。死ねない。こんなところで終わるわけにはいかない。


唇を強く嚙みしめ次第に口に血の味が広がった。


コツコツコツッ。足音が聞こえる。また誰か来たのだろうか。もうそっとしていて欲しい。


少しだが回復して来ているのだ。まだ起き上がることも喋ることもできないが。まぶたが余りに重い。


だが心音は落ち着いて来ている。


「カリン。また君はこんなに無茶をして・・・。皆のために戦ってくれてありがとう。」


それは一番聞きたかった人の声で。そっと私の手が彼の温かさに包まれる。


「君のおかげでこの戦争を終わらせる事ができそうだ。今まさに各地から勝利の報告が上がってきている。」


落ち着いた声が響いてくる。だが内容が頭に入ってこない。


殿下あなたが無事で良かった。それだけで私は嬉しかった。


一筋の雫が頬を伝わる。柔らかなハンカチにそっと拭ぐわれた。この感触は私が昨年送ったプレゼントだ。


まだ使ってくれていたんですね。何故か嬉しくなり笑いがこみ上げてくる。腹筋がかすかに震えた。













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