待つものたち
ホラー展開です! なかなか更新出来ず申し訳ないm(__)m
戦争を始める時に人は何を思う。
家族や友人はたや恋人、守るべき大事な存在のことだろう。
だがこの物語は少し変である。
ここはそう。実際に戦場に赴く者ではなく、待つものたちの視点から語っていこうと思う。
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先刻・・・。王城に戦いが始まったとの報告の早馬が来た。
「ふむ。戦力差的には問題はなさそうだが・・・。」
「敵はあのヒッタイト戦闘民族が噂通りの手強さかどうか・・・。」
「早くにも小一時間程で結果が見えてくるはずだ・・・。」
家臣たちに緊張が迸る中、一人冷静に戦局を分析する大きな背が、王座を照らしていた。
*****
学園は当たり前であるが今日も平和である。
教室の空気は今日も賑やかで、和み深い。だが裏では・・・。
「ねえ。そろそろ戦争始まったころかしら?」
「そうよねえ。怖いわ。」
「我が帝国は最恐である! 敗戦などあるわけがない!」
「だが相手はあのヒッタイト・・・。」
「何があるかわからないな。」
みんなそれぞれ個人差はあるものの、心に暗雲を立ち込めさせていた。
「本当にどうなるのかしら。」
「あなたのお父様は詳しいのではなくて?」
「そりゃあ多少はそうよ!? でも家では機密情報だからって教えて頂けないし・・・。」
「私の家からも徴兵で兄様が連れて行かれたのよ。」
教室の端々でボソボソとみんなそれぞれの思いを口にする。
だがそれはあくまでも傍観者の立場で・・・。
みんなの無事を祈る心の声が虚しく響いていた。
*****
暗雲が暗闇を際立たせている夜空・・・。
帝国軍は無惨にも敗走していた。
おびただしい被害を出し、致命傷を負ったものも少なくはない。
夜道を進軍する者たちをフクロウが見下ろしている。
「ホ~ウ ホ~ウ ホ~ウ。。。」
夜空に鳴き声が寂しく木霊した。
それから数日後・・・。
戦闘態勢は解かれ、先日とはうって変わって前線は下げられた。
ある程度敗戦は覚悟の上での進軍だったので、敵のそれ以上の追撃は許さず、戦局は固直した。
*****
時は遡り数日前のこの草原の一角にて。戦局を分析しながら最前線で戦っている悪役令嬢がいた。
敵の血肉を切り裂き、獅子奮迅の活躍を見せたものの力尽き、カリン、君は行方不明になってしまった。
最後の言葉を思い出す。
それは鉛の矢のようで・・・。私の使命を奮い立たせた。
「殿下は追撃を振り切って、これを陛下に渡してください。それだけであの方には伝わるはずです。」
私はただ頷き、彼女たちを置き去りにした。
あの影武者とともに。
ウィリアムは自分の不甲斐なさを嚙みしめ、王都へと向かった。
*****
一方その頃。帝国学園の女子寮に不穏な影が迫っていた。
フフフ。カリン不在の今、奴を暗殺するための毒薬を化粧品にでも仕込ませて頂きましょう。
あの小癪な小娘は魔力はないくせに、勉強熱心なものだから、対魔法への結界を張り廻れせているようですね。
だが、私も暗殺のプロ。
魔法を使わずともキッチリと罠を仕掛けて見せましょう! 必ずや神に逆らう悪役令嬢に鉄槌を!
張り切って忍び込もうとしたその瞬間。
暗殺者は肩を硬直させ、腕や足をねじ切られた。
ハハハハハッ よくもまあ抜け抜けと図々しいヤツよ!
シーレ(カリンと契約している精霊。普段は眠っている)は嘲け笑った。
憎々しげに空を見つめ、暗殺者は最後の抵抗をした。
「ゴハアッ。お前たちはもう終わりなのです。ゲームにはイフルートというものが存在します。この戦争が起こった時点でカリンの死は決定的なのですよ。しぶとく生き残ったさに油断した奴を殺すのが私の役目なのです。」
「ざまあみろ!」
暗殺者の瞳から生気が抜けていった。
お前たちの方こそ勘違いしているぞ。私は思わずほくそ笑んだ。
確かにカリン一人なら今回の戦争を生き残れなかった。だがこの国の王子が味方で、さらにカリンとほぼ同等の戦力が側にいたとしたら!?
失敗したのはお前らだ。神よ・・・。カリンの複製品など作るべきではなかったのだ。
本人でさえ支配できないというのに。あまりにも似せてしまうと自分へ歯向かう展開になりそうなもんだが。
実際そうなっているわけである。
とにかくここは片付けた。後はよろしくな。カリン。
私はそろそろまた深い眠りにつくとしよう。
帝国学園で人知れずひと悶着あったのその直後。
王城の会議室へウィリアムが到着した。
鎧にはおびただしい返り血と自身の生傷が周囲をひるませる。
「陛下報告があります。帝国軍は敗れてしましました。如何様にもお裁き下さい。」
深々と頭を下げる。
「良い。ある程度の苦戦は覚悟のことだ。ただそれだけではないのだろうな!?」
「ハハッ。カリンからこの書類を預かっております。殿下に直接渡すようにと。お納めください。」
陛下は落ち着いた素振りで書類に目を通していた。
直後さもゆかいそうに
「はっはっはっはっは! これは愉快である! 流石はカリンじゃな! これでこの戦は勝ったも当然じゃ。」
「ご苦労であった。ウィリアム。」
「私は何もしておりません。陛下。全てはカリンの・・・。」
陛下の手の平が空をきり、否定の意を示した。
「これほど重要な情報をウィリアム、そなたに彼女は託したのだ。そなたの手柄でもある。何も自分を卑下するでない。」
いつになく優しい口調で陛下は諭した。
「後は彼女が無事で帰って来ることを願うばかりじゃな。下がって良い。休養をとり、再戦に備えておくのだ。」
「ハハッ。かしこまりました。陛下。」
ウィリアムは陛下に礼をする時に、自身の肩が酷く痙攣していることに気が付いた。
カリン君が心配だ。直ぐにだって君の安否を知りたいし、君の顔を見たい。
でもそんなこと言っても君は喜んでくれないだろう。
きっと自分の命を落としてでも、彼女は・・・。
殿下はこの国の事を第一に考え下さいませ、そう言うに違いないのだから。




