皇太子との謁見
皇太子との初対面のシーン! 印象はアグレッシブが良き・・・。
カリンお嬢さまが珍しく朝からソワソワしている。
本日、将来結婚する予定の皇太子との謁見が予定に組み込まれているからだ。
おれこと御者ミトンは長い髪を後ろで束ね、お嬢さまに何か冗談でも言って気をまぎらわせて差し上げる事にした。
「お嬢さまは大変賢いですから、姉さん女房になったりしてな。」
「むうう。もうからかわないで。ミトンの意地悪・・・。」
「どんと構えて、目を見て舐められないようにして下さい。お嬢さま。」
「いつもありがとう、2人とも。」
「では行ってくるわ。」
先に到着していた公爵さまが、そろそろお見えになる。
「私、何か変な所はないかしら。確認お願い。」
「クルンとしてください、お嬢さま。はい大丈夫ですよ~!」
扉がノックされ、低い鋭い声が響き渡る。
「用意は良いか。カリン。」
「万全ですわ。お父様。」
「うむ。お前の事だから心配はしていないが。くれぐれも粗相はないように。」
「ご期待に添えるように頑張ります。」
コクリと喉をならす。
「こちらでございます。」
父と娘の大一番が目前まで迫っていた。
*****
ふうん。こんなつまらなそうなチビが婚約者か。はああ。ため息が出そうだぜ。
大して可愛げもなく、タイプでもない。甘やかされて育ったお嬢さまって感じがする。
チラリと見た第一印象がそんな感じだった。まあ。政略結婚てやつだ。おれももう5歳。軽はずみな事は口にしちゃダメだよなあ。
「私が皇太子のウィリアムだ。どうぞよろしく。」
上品の笑顔とともに挨拶を口にする。
「よろしくお願いします。」
丁寧なお辞儀とともに浮かべられた笑みにさえ何も心が動かされない。
熱心に語っている、お母様と公爵がもはや滑稽に見えて来る。本人たちの気持ちなんて鑑みる事はないのだ。
「公爵ご令嬢が、今世紀初のグレートベーリーというお噂が王宮内でももちきりですわ。」
「これは大変光栄でございます。王妃様。」
「もう数百年もの間、我が国では大精霊との契約の資格を持ったものが生まれなかったのですもの。大変期待していますよ。カリン嬢。」
「大変光栄であります。王妃さま。」
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。婚約の件のお返事をお聞かせください。」
「謹んでお受け致します。お妃さま。」
「まあ。しっかりした良い娘ですわ。オホホホホ。」
高らかな笑い声が室内に響き渡る。それがおれの神経を逆なでし続ける。
「そろそろお暇してよろしいでしょうか。お妃さま。」
「もちろんよ。ご苦労様です。公爵。」
もう、未来は勝手に決まってしまっているのだ。おれがこんな身分に生まれてしまったばかりに。
どうしようもないやるせなさに囚われてしまったおれは、大変なミスを犯す。
「一言良ろしいでしょうか。カリン嬢。」
「はい。もちろんですわ。」
手招きされたまま、耳を傾けてくれた。
「消えろよ。目ざわりなんだよ。ドブス。」小声で悪態をついた。
一瞬固まったものの、見事なまでに取り乱しもせず、彼女はふわりと花のような笑顔で
「その時が来るまでお待ちしております。」そう澄ました顔で答えたんだ。
おれのカリン嬢に取り乱して婚約破棄をしてもらうもくろみは成功せず、肩透かしをくらった気分だった。
ますますおれの怒りはグツグツと煮えくり返りそうだった。
「ああ、楽しみにしているよ。」
少し声が震えながらも、笑顔で見送った。
*****
「どうでしたか。お嬢さま。」
「うん・・・。結果としては悪くはないわ。」
「浮かない顔してますね。何かございましたか。」
「実は・・・。」
そうポツリポツリ話し出す彼女を誰が5歳の小娘と信じようか。
彼女は芯が強かった。人々が思っている以上に。
「別に好きでもない人から容姿について批判を受けたとしましても、何とも思わないです。」
「おい。おれはこの国にいずれクーデターを起こそうかと思う。」
「その時は一緒に参戦させて頂くわ。私も呼びなさい。御者。」
「ああ、大変心強いぜ。使用人。」
何故か周りの人が私の為に怒ってくれている。でも本当に私は全く気にしていないのだ。
「それより、明日から花嫁修業が始まるのよ。」
「お嬢さま無理しない程度に、頑張って下さいね。」
「ありがとう。」
「また、どこか抜け出して遊びに連れて行って差し上げますから。」
「そうですよ。そんな奴よりお嬢さまにはもっと相応しい男の方がいずれ現れますよ。」
「もちろん、そのつもりよ!」
お嬢さまの笑顔は今日もひまわりのような可愛らしさだ。
*****
謁見の日から数日後・・・。すっかりいつもの元気さを取り戻したお嬢さま。
今日は両親の目を盗んで遠出をしている。
「ミトン。私いつも頑張っているので、ご褒美に美味しいお肉が食べたいのです。」
「任せろ! お嬢さま。おれがとびっきりのおすすめの肉料理を振る舞ってあげましょう。」
鳥の声や虫の声、風の音が辺りを多い尽くす深い森。
おれは、クマと猪の魔獣とその他もろもの山の幸を探して回っている。
「ミトン。無理はしないで下さいね。」
「し~。お嬢さまはそこの木陰に隠れていてください。」
辺りの枝がガサガサと揺れ、わずかに地面が震える。
かなりの大物のようだ。獣臭が風に混じってきた。
後10m・・・。9、8、7。
間合いを正確に測り、おれは槍を投げつける。
首筋のちょうど柔らかい急所に深々と突き刺さった槍は、背の方へと見事に貫通した。
「ふう。成功しやしたぜ。お嬢さま。怖かったですかい。」
「ミトンかっこよかったです。」
「ハハハ。そうですか。それは光栄でございます。お嬢さま。」
「ミトン、照れてる~。」
2人の仲の良い笑い声が樹冠の緑をいっそうに際立たせた。
サラサラサラと風に揺れ、木々が涼しい風を届けてくれる。
「あ、それとさっきの通り道に罠を仕掛けたので、そろそろかかっている頃合いでしょう。」
さらにもう一品作るためのキノコと山菜を収集していく。
「これは食べれるの?」
「ああ、おれの故郷ではお年寄りも食べていたもんでさあ。」
「ミトンは何でも知っているのね。」
「お嬢さまほどじゃないですがねえ。お妃さま教育を頑張っているそうで・・・。尊敬しやす!」
「将来の為ですから。」
「しっかりしてますなあ。」
「これ美味しいね。お家にお土産したらマズいかしら。」
「そうですねえ。使用人はみんなお嬢さまの事が大好きですから、驚かずに受け取ってくれるとは思いますが・・・。」
「お父さまとお母さまにばれたらまずいのよね・・・。」
「はい。残念ながら・・・。」
少し残念そうにしたのは一瞬だけで、美味しそうにキノコのバーベキューや熊肉のシチューにすぐに夢中になったのだった。
こんなに幼げな表情を浮かべるカリンお嬢さま。いつまでも健やかに育って欲しいものだが。
こんな家系に生まれてしまった以上いつまでものんびりこのままというわけにはいかないのだろう。
それでも、おれも家の使用人たちもお嬢さまが大好きなのだ。できる限りお側で仕え、支えて行きたい。
読んでくれてありがとう♪




