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ヒロインの正体

あるご令嬢の場合


ボクことジャバンニは一人午後の紅茶をたしなんでいる。


明日から学園が始まってしまうのだ。今日くらいゆっくり過ごさせてもらおう。


そう言えば、昨日のカリンさんカッコ良かったなあ。


ボクもあんな風になりたかった。いやそう思うのは傲慢か。


きっと並大抵な覚悟では彼女のようにはなれないだろう。


あ、そうだ。今度お茶してもっとカリンさんと仲良くなりたいなあ。


ボロを出さずに付き合えるかだけが心配だ。


長いドレスのスカートの裾を踏んづけながら、明日からの学園ライフを思うとちょっと気が滅入る。


「お嬢さま! またドレスを踏んづけてますよ! 以前はここまで酷くなかったのに!」

「すみません! ほんとすみません!」


世の中の令嬢はみんな超人なのか? ボクには無理だよ。日本帰りたい。


グスンと部屋で一人ホームシックにふけっていると


「どうかしましたか? ジョバンニ。」



突然人の気配が後ろに現れた。


「パピリオさま? 来て下さったのですね~!(今日も可愛い。アイドルなみ!)」


「突然、部屋に訪ねてすまない。」


「そんなことないですよ? お茶飲んで行かれます? 実は東洋から良いお茶が手に入りましてね~!」


ドタドタとドアを開け、外に走りだして行ってしまわれた。


「どうして、急に姿を現したりするのかとか疑問に思わないのだな・・・。」


私は一人呟いた。



*****


同じ頃・・・。


今でも、私は信じられない。


こうして乙女ゲームの世界で生きていくことになるなんて・・・。


空は青く、芝生を踏み歩く足の感触がまだ残っている。


夢にまで見たこの世界。


元の世界ではアンティークにでもありそうな陶磁器の高級なティーカップを傾けお紅茶を嗜んでいる。


そう。ここは天忍邪堂の乙女ゲームの世界。


ゲームの名前はヒロイン・ちょろいん・フォールインLOVEという、胸焼けのする名前であった。


友達のU子ちゃんのおすすめで始めたゲームで、何年もやり込んだものだ。


ネットの口コミサイトでは、


>>ふざけた名前以外は神ゲー。

>>悪役令嬢を殺してもなかなか死んでくれない。


>>悪役令嬢が強すぎる以外は良いゲーム。


とまあこんな意見が大半だった気がする。


そして今の私はヒロインであるマリア。


元は日本人である。


学園が始まって以来私は役目を全うするべく真面目に攻略対象(ウィリアム様)に接触を図っていた。


だが義務感であった。


もうそろそろ、自分のしたいように行動したいなあと思っている。


私はあまり主人公肌の男性キャラは好きではなかった。


いちいち演出のたんびにバラが散らばるのとか、キラキラすぎるのに耐性がないのだ。


そう。宝石でいったらダイヤではなくラピスラズリが良いというか。


そんな私の興味があるのは、攻略対象の男性たちではなく、モブ中のモブ、サトゥー君である。


彼は元のゲームでも画面のどこかにいた。壁のように。風景のように。


誰にも気づかれる事もなくいた。


いや。気づかれてはいるのだろうが、登場シーンが多い(見切れが大多数)わりにはセリフが少ない。


良く人にお手伝いを頼まれてはパシられている。そんな彼。


実世界でも彼はお人好しだった。


みんなにはパシリ君と呼ばれていた。イベントの度には毎回お助けキャラとして、一役買っていたからだろう。


そんな彼と私は今、隣の席どうしなのだ。


ゲームの製作者には本当に申し訳ないと思う。でも、私は自由に生きたいなあと思う気持ちに駆られている。


そう言えば、悪役令嬢のカリン様は私をいじめて来ない。


というか、普通に良い子である。


ちょうど今のこの歳に私は病室でひっそりと息を引き取ったのだ。


やりたい。青春を!


この大好きなゲームの世界で!


毎日が刺激的である。


元気に歩き回れるのが幸せである。


ただ、なかなか勇気が出てこない。出来れば今日こそはサトゥー君に話しかけてみよう。


彼のことがとても気になっている。


でも、趣味も分からないし。私のことがタイプじゃないのかもしれない。


ううう。意気地なしの私。せっかくの2度目の人生なのに。


いやいっそ告白しよう。そしていっそ粉々に玉砕してみせよう!


私は大和撫子であるのだ! 魂だけは!


そう思っていたら、突発的に私は行動してしまっていた。


放課後、私は彼と校舎裏で待ち合わせをし


「あ、あの。良かったら召し上がって下さい!」


手作りクッキーを差し上げていた。


「ありがとう。マリアさん。」


「ところで、君は僕に興味があるのかな?」


「はい。実はそのう。以前からお慕いしておりました・・・。(アセッ)」


顔を真っ赤にしながら告白をする。


恐る恐る顔を上げて彼と視線を交差した。


そこには、いつもの温和そうな表情ではなく、思わずゾッとするような能面のような顔をした彼がいた。


「・・・。あ、そのう。迷惑でしたよね! ごめんなさい。」

「いえ。君はてっきり殿下とご厚意であるとお聞きしていたものでして。」


一瞬にして取り繕うように彼のいつもの優しそうな表情へと変わる。今のは何かの見間違いだろうか?


「そうですね。ですがそれは過去の話です!」


我ながら酷い言い分である。


「そういう事か。だが私は殿下のように優しくない。それでも良いのか?」

「はい。サトゥーさんが良いんです。」


私は勢い良くそう言い切った。











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