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後悔の念

ちょっと内容重めです。次回はライトになります。

どうして人は人を恐れるのだろう? 怪物を嫌悪するのは?


自然界では肉食獣は理由もなく命を奪わない。


しかしそこに理由があったのなら?


数年前に王宮の学者と討論した時の事を思い出していた。


人はきっとどの生き物よりも残酷になれるのだろう。その究極系を私は昨晩見た。


獲物を踏みつけている時のカリンの立ち姿。あまりの残酷性で周囲を圧倒していた。


だがそれもまた彼女の良さなのかもしれない。


私は2年ほど前に国内の内乱の討伐戦に参加した経験がある。


その時の感覚を昨日彼女に感じた。彼女は無論戦いの経験はないはずだ。


だが、彼女の立ち姿は歴戦の兵の風格を少しながらだが纏っていた。


一朝一夕に身につけれるわけでもないその姿。


彼女は日常から戦場に赴く気持ちで生きてきたのだろう。何が彼女を駆り立てているのか。


私は浅はかに邪推するつもりはない。


だが一つだけ分かったことがある。異常なまでの執念。それが彼女の優しさであり強さでもあるということ。


だが、そんな雰囲気を今まで周囲に気付かれずに彼女は力を蓄え続けてきたのだ。


恐らく、昨日の怪物は確かに彼女の命を奪うのには十分な戦力だったのだろう。


事前情報の通りならば。


だが、彼女は予想を軽く上回る強さを手に入れていた。


しかも、あの伝説のアサシンの下で何年も修業を受けていたそうだ。


淑女教育を受けながらだ。


そんな事は普通なら不可能である。だが、彼女はいつか来る逆境の為に爪を研ぎ続けていた。


誰にも気づかれる事も無く。


もともと優秀な人間は慢心しやすい。だが、そこに満足するという感情が抜け落ちていたならば。


どこまでも高みにのぼり続けるのかもしれない。


人々は彼女の美しさは神々しささえ感じるという。


なかなか今さらな事なので、最近となっては誰も言及することはないが。


だがそれもきっと、彼女の美への執着故だと、本能で理解させられている。


通常ならあの細足で首の骨をへし折るなんて芸当は不可能。


間違いなく、彼女は筋肉密度が常人の十数倍はあるのだろう。


こんな身近に規格外の化け物がいたのだ。


全能力が私より上の可能性がある。いや、恐らくそうだろう。


私は全身から対抗心が勢いよく燃え上がっていくのを感じた。


カリン君は素晴らしい。


だが、私もこのまま君の歯牙にもかけられない男でいるつもりはない。


いつか隣に立っても遜色ない男になってみせるよ。私は君にこの国で存分に能力を奮って頂きたい。


そんな君を支えられる能力まで私自身を引き上げていかなければ。


少しばかり退屈に感じていていた日常に光を差し込まれた気がした。


ただ一つだけ彼女の行動でずれているものがある。彼女のお気に入りのメイクのあのグルグル目は何なのだ?



*****



シャーロットは自室で荷解きを終え、昨日の惨状を思い出していた。


あたしだってRPGのゲームを1つや2つはやった事がある。


画面の向こうの世界では、ゴブリンなんて、数秒で倒されていた。


カリンさまは一瞬で倒されていたが、その数秒が時が止まってしまったのかのように感じた。


命の奪い合いのあの瞬間・・・。


あたしは死を覚悟した。まずカリンさま。次はすぐ近くにいる弱い私だと。


無事に討伐し、床に血しぶきが飛び散り、私は現実に引き戻された。


ああ。ここは私がいた平和な日本ではないと。


命がこんなにも儚く散る異世界なんだと。


全身の肌に恐怖は刻まれた。


あたしは今まで何を考えていた? 乙女ゲームであり、悪役令嬢であると。


その先の、自分が死ぬ未来なんて、想像もしていなかった。


いや。考えないようにしていたのかもしれない。


だって。意識しただけでこんなにも手は震えるのだ。


あたしは以前あの世界線で何かが原因で命を落とし、そして今ここにいる。


その意味を・・・。


何が新しいスタートだ。あたしは何も変わっちゃいない。


今ここにあるのは現実で。恐らくこの人生においてはあたしの人生に選択肢は多くは残されていない。


あの怪物の言葉があたしの胸をえぐり続けている。


”悪役令嬢をやめたな。死ぬがいい・・・”


そのセリフがただただ耳の奥で反芻していた。



*****



私は父親失格である。


何が娘をここまで強くした。


精霊の召喚に失敗をし、皇太子殿下との婚約を破棄されてもなお、カリンは健気に振る舞っていた。


だから安心していた。


いつアヌス様の弟子になっていたのだ?


私は自分の娘の事を何も分かっていなかったのだ。


しかし、彼女は強くたくましく成長していた。喜ばしい限りではあるが。


だが、淑女教育を受け、王が不在の場合は全権代理人として責務を全うする以外に王妃の仕事はないのだ。


なぜ、己自身の身体を鍛えねばならなかったのか?


娘の考えが分からない。今まで身の危険を感じさせるような環境にはおいていなかったのだけは確かだ。


今まで良く自分の娘の事に関心を持っていなかったツケがまわってきたのかもしれない。


積み重なる書類の山をかき分け、重くなった目頭を抑えた。


使用人に命じていた娘の成長記録を振り返る。


どこかしらのタイミングで異変が起こっているはずだ。


物事には大抵、因果関係がある。


うむ。このあたりが何か妙だ。


娘が商人や学者やらに何かの調査を依頼している明細書を見つけた。


なぜ。特に我が国との関わりのない遠方の国の情報が必要なのか。違和感を覚えるものの、これといった思い当たる事は無かった。
























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