悪役令嬢の三重奏
「ここに三国が同盟を結んだのを記念し、祝杯を上げよ!」
うおおおおおお! 帝国ばんざーい! 王国ばんざーい!
「お初にお目にかかります。本日から各国でも特に頭一つ飛びぬけている帝国で学ばせて頂きます。」
「同じく、我が国を同盟に加えて頂きありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します。」
「こちらこそあなた方が我が帝国の同盟国に名乗りを上げて頂き、大変心強い限りです。双方とも義に厚い国と歴史が証明しておりますし、今後とも末永いお付き合いをさせていただきたく存じます。」
ある一つのテーブルで、各国の皇太子たちが会談を繰り広げていた。
だが、中に一人美少女(?)らしき人物がいる。
それぞれが初対面であるだけに、2方は動揺を隠すので必死だった。
う、噓だろう? あんなサラサラな長髪と小柄な体格、整った小さな顔・・・。まつ毛は長く、目は妖艶な光を放っている。いや。男。た、多分そうだ。
ハスキーな声が若干女らしさを和らげているが。うん。男だ。だ、だよな? 本当にか? いかん。失礼な事を考えてしまっているぞ。私。
2人の王子はお互いに同じことを考えている事に気付き、目配せをしあった。そして生まれた謎の信頼感。
「ところで、本日は大変多くの方々がご出席されていますねえ。」
いや。声まで可愛いか?
おい。おかしいだろ? そこまで完璧だと?
2人は動揺を隠し通す為にお互いに力強く握手をしあった。
「どうかしましたか?」
「い、いや。何でもない。」
「お互い気が合いそうだな。君もどうだ?」
いや。でもカリンの方が可愛いな。間違いない。
おい。おれどうした? いつもの冷静さを取り戻すのだ。あの不器用な婚約者をおれがフォローせねばならんのだ。
「ウィリアムだ。よろしく。」
「ウォルターだ。」
「パピリオといいます。よろしくお願いします!」
彼の手は小さかった。
そしてなかなか気の合う彼らはお互いに、そっと振り返り、向かい側のテーブルを盗み見た。
そこには穏やかに談笑し、手をつなぎあい、途中退出していく彼女たちの姿があった。
「・・・。」
「また、アイツは。」
「すっかり仲良しのようですね!」
*****
「あ、あの? どちらまで行かれますの?」
「ちょっとお話し良いかしら?」
「ボ、ボクも二人にお話しが!」
廊下を3人の影が渡り歩く。
「どこか静かにお話し出来るところはないかしら?」
「で、でしたら、そこの会議室を貸切ますわ。」
「ありがとう! 気が利くね~!」
静かに扉は閉じられ、人気がないのを確かめ、小さい声ながら悲鳴を上げあった。
「どどど、どうして悪役令嬢が3人もいるんですか?」
「あんたこそ何で悪役令嬢なのよ!?」
「あら。悪役令嬢なのですの。どうぞよろしくお願いしますわ。」
「有り得ないでしょうが!」
「はー。もう。心臓に悪いですよ!」
「日本って分かる?」
「分かりますよ!」
「何ですかそれは?」
「アハハ。という事はあなたが本家本元なのね!」
「は、初めて見ましたよ!」
「??? そうですか?」
「こうしてられないわ! あたしたち、早速同盟を組みましょう!」
「それは良い考えですね!」
「なるほどです! もし、国外追放されたのなら!」
「いずれかの国で住ませてもらえるよう!」
「私はこの命に代えても誓います!」
「同じく!」
「ボ、ボクも!」
こうして結ばれたのが、俗に言う悪役令嬢3ヶ国同盟である。
「そのう。そろそろパーティーに戻らないとまずいんじゃないかしら?」
「そうなんだ。はあ。仕方ないな。」
「めんどくさいけど。まあ、仕方ないわね。カリンがそういうのなら!」
ウインクをして見せる。3人は軽やかな笑い声と共に、パーティ会場へと向かった。
「あ、そうだ。今度キッチンをお借りしてもよろしいかしら? とびっきりのスイーツを作って上げますわ!」
「アハハ。すっかり悪役令嬢が板について来てるね!」
「??? 楽しみですわ。」
わ、私も負けないように悪役令嬢した方が良いのかしら?
つい浮かれて本筋を見失いそうになる。いいえ。やはりそれはまちがっている。慌てて髪型を整え、気持ちをリセットする。
「そうですわ。皆さまもよろしければ、婚約は・」
「何の話しをしているのかな?」
「あら。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。私、シルクフット公爵家令嬢のカリンと申します。」
「これはご丁寧にどうも。これからは同じ学校へ留学生としてお邪魔させてもらうのです。出来れば、崩した口調でお話し頂きたい。」
「ええ。そうですわね。すみません。殿下以外の殿方とはあまり話した事がないものでして。」
「ハハハ。これはお熱い。それでは君が楽な方でどうぞ。」
「承知致しましたわ。ウォルターさま、ところで、もう一方のパピリオさまのお姿が先ほどから・・・。」
「ああ。彼は先ほど東の見晴らしの良いベランダがいたく気に入ったようで、そこにまだいると思う。」
「そうでしたか。それでは、ご挨拶にお伺いしなくては。」
「私も一緒にお供しよう。それでは行こうかカリン。」
コクリと頷く彼女の手をエスコートする。
辺りに響いていたピアノの伴奏の音が心地よく耳をくすぐった。




