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攻略対象

ごゆっくりどうぞ~♪

フフフフフ。


婚約者に婚約破棄を懇願された皇太子とは、私が歴史上初になるだろう。


生まれて初めて恋をした。我ながら情けなくなるくらいにカリン、君に惚れている。


そんな君に婚約の破棄をお願いされたのだ。


理由を訪ねても彼女は答えてくれなかった。


なるほどな。知ってたよ。君は私なんかに興味がないってこと。


「・・・。最後に確認だ。君は私に婚約破棄をすると、そう言って欲しいのだな。」

「無礼を承知でお願いしております。これは、人命にも関わる問題なのです。」


彼女の変わった目は真摯な光を放っていた。


「ただ、最後に確認させてくれ。あの約束は生きているだろうか。」

「ええ。それは絶対に守りますわ。」


「3年後にもしも・・・。」

「必ず守りますわ。もしも、3年後も私の事を選んでくださるのなら。」


彼女はそう言ってはにかむように笑う。


単なる口約束だ。守られるはずもない。何より私が彼女の意思を無視できるはずもないからだ。


私はキリキリとうずきだした胃を抑え、穏やかな笑みを浮かべた。


「ああ。分かった。私、ウィリアムはシルクフット公爵家令嬢、カリンとの婚約を破棄させて頂く。」

「父上には私の方から進言させて頂く。君に被害が及ばないようにね。」


「感謝しますわ。殿下!」


なんて可愛らしい笑顔だろう。だが、この時は素直に喜べなかった。


嬉々としながら、走り去る彼女を私は寡黙に見送った。


次の日。私はお腹を壊した。


だ、大丈夫だ。まだ間に合うはずだ。


彼女が恋愛したいお年頃(彼女はどうやら遅いらしい)になってらいつでもアプローチできるよう、念入りに準備をせねば。


一人廊下で拳を握りしめ誓った。


今年の学校行事を振り返る・・・。そう機会は十分あるはず。


ぼんやりと考え事をしながら歩いていると、ドアに頭をぶつけた。


「大丈夫ですか。殿下!?」

「体調が優れないのでは・・・。」


友人たちが心配をしてくる。


「何かあったのですか?」


「いや。何もない。」


おや。今日のカリン公爵令嬢のドレスはライムグリーンがちらべられており、薄い水色襞ひだ付きの襟が可憐さを醸し出している。


可愛らしいな。あの変な目も直っている。きれいな澄んだ空の色だ。


そう言えば・・・。以前カリン公爵家令嬢からファッションについて聞かれた事があった。


その時、私が少し気に入らない素振りをした時、彼女は嬉しそうな顔をしていた。


グッハッ。


「た、大変だ~! 殿下~!」

「やはり無理をされていたのですね!」


私は不覚にも致命傷を負ってしまったのだった。



*****


最近の王都の流行と言えば、国際交流である。


昔は帝国と隣国との貿易が盛んになっており、珍しいお菓子が入ってきている。


どうだろう。このお菓子を一緒にカリン公爵令嬢と食べたい。


かなり美味しい一品が手に入ったのだ。


あの可愛らしいお顔がこの魅惑の味で幸せそうな笑顔になる瞬間を見たい。見たいすぎる。


別に邪な感情ではない。いや、多分そう。


大好きな人が幸せそうな顔をするのは人類皆が望む事だろう。


いつ、お茶会に誘うべきか。


そんな事を悩んでいるうちに半年がすぎ去った。


その間、特になにもなかった。いや。知っていたけれども。(涙)


このままじゃまずい。大変まずい。


私の将来の夢は大好きなカリン公爵令嬢が幸せに暮らせる国を作る事なのだ。


出来れば、私のこともちょっとだけ好きになってもらいたい。


煩悩が消えない。私は剣術の練習に明け暮れるようになった。流す汗とともに少しばかり気持ちが落ち着いていくのを感じる。


剣は良いな。


強くなりたい。そう願う度に剣は応えてくれた。もしかすると多少は才能があったのかもしれない。


そんな事を思いながら、剣技場から帰ろうとしていたところ、会いたくてたまらなかった人物が現れる。


「殿下、いつも頑張っていらっしゃいますね。これ、よろしければ。」

「わざわざすまない。」


手渡されたのは小奇麗な濡れタオルだった。手にひんやりとした冷気が走り抜ける。私は有難く汗をぬぐった。


「お口に合えば良いのですが。」


そしてお次に頂いたのが、彼女が作ったという可愛らしいクッキー。


「良いのか?」

「ええ。友人へのプレゼントのほんのついでです。」


照れくさそうに微笑む彼女が女神に見えた。おい。それ以上は止めてくれ。もう自分の気持ちを抑えるのがいよいよ難しい。


「ありがとう。すっかり回復した気がするよ。君のおかげだ。」

「はい。それではごきげんよう。」


私の心を鷲掴みにする笑顔で送り出される。


あれで私に好意がないのだ。一人寂しく私は夜床の中で漢泣きをしてしまった。



*****


明日、帝国主催のお茶会がある。もちろん私は彼女をダンスのパートナーに誘うつもりだ。


「あら。殿下いかがしましたか。」

「明日のパーティーのダンスの相手だが・・・。君はもう決まっているだろうか。」


「もちろんですわ。」


何とも不思議そうな顔を向けてくる。


「殿下と、後トラファルガーさまにもお誘い頂いております。」

「そうなのか。」


「何組も入れ替わりで行われるからな。だが、最初のペアには私を選んではくれないだろうか。」

「謹んでお受けいたしますわ。殿下。」


可愛い笑顔だが・・・。おれはこの笑顔を知っている。まるで・・・。いやもうこれ以上自分をいじめるのはよそう。


深く考えない方が良い事も人生には多い。


「感謝する。」


私の固まった頬の筋肉が思わず緩んでいた。


































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