魔力測定
人には持って生まれた才能と、明らかに周りとは違う特殊能力を持った人間がいる。
次第に成長するうちに次第に気付く。ああ、この子は天才だと。
「明日はこの国の王子様との謁見よ。」
「粗相のないようにな。」
「お任せくだせいませ。お母様、お父様。」
聡い我が子が誇らしい。私はふと娘の服のしわを手で伸ばす。
「まあ、今日のアイロンがけの当番は誰かしら? 手打ちにしないとね。」
「全く怪しからん。処罰はお前に任した。」
「お父様、分かりましたわ。」
この子はまだ5歳だ。そんな子にメイドの処罰の全権を委ねるなんて、普通では考えられない。
だが、これも幼少からの英才教育の一環だ。結果がどうなるにせよ、今のうちから経験をさせておくのだ。
いずれ来るであろう、この国の王妃となるために。今のうちから人一人裁けないでどうする。
「それでは、今日伝えておくことは以上だ。下がりなさい。」
「失礼しますわ。お父様、お母様。」
華麗なカテーシーとともに、ドアは静かに閉じられた。
「さて、例の件だが・・・。」
「全て順調ですわ。あなた。ただ、右大臣どのがどう動くのが心配ですわね。」
「うむ。」
口ひげをたくましい指でなぞる。真剣に考え事をしている時にする、我が夫の癖だ。
そして、私たちは気たるべく我が娘の社交界デビューに思いをはせる。
窓辺に飾てっていた、バラを生けてある花瓶が倒れ、子気味良い音を立てて割れた。
*****
乾いた空気が頬をなでる。お日様を見上げ、少女は緊張を紛らわすようにクスリと笑う。
「わ、私はシルクフット公爵令嬢よ。き、緊張してても、頑張れるんだから!」
「ええ、お嬢様はいつも頑張っていますよ。ばあやをかばってくれて本当にありがとうございます。」
「いつも、ばあやにはお世話になっているもの。それに、お母さまよりもっとお母さまらしいわ。」
「まあ。ありがとうございます。お嬢さま。でもそんな事を言ってははしたないですよ。」
温かい笑顔を送りあう2人。2人の絆は本物である。病気で伏せた時にもいつもお世話になってきた。
「お嬢さまなら、きっと良い結果が出せますよ。」
「ありがとう、ばあや。」
小刻みに震える小さな手ギュッと抱きしめた。こんなに健気に育っている子もなかなかいないだろう。
かわいそうに。こんなに小さな子なのに、一家の命運を背負わされて。
深呼吸を一つし、キリッと整えた目で、小さな一歩を踏みしめて行く。その小さな背中を見送りながら、もう一度念をいれなおした。
「頑張ってきてくださいませ。お嬢さま。」
*****
本日はもう一つの門出の日とも言われる、魔力測定である。
試験会場の魔法省までの道のりを幾人もの馬車が駆け抜けていった。
「お嬢さま、自信のほどはどうですかい?」
「もともと有るものを計るだけなんだから。」
気さくに話しかけてくれる御者のミトンにはカリンお嬢さまが大変懐いている。
「ハハハッ。こりゃあ将来大物になりそうだなあ。嬢ちゃん。」
「と、当然なんだから。」
「肩の力を抜いて、リラックスして下さい。これはおれの餞別ですぜ。」
ローズマリーの香り袋を手渡す。カリンお嬢さまの一番好きな匂いだ。
「ありがとう。ミトン。今度コッソリ山の頂上まで連れていって欲しいな。」
「お安いごようですぜ!」
「向こうから来る馬車が、ドメストリー家の家紋、雷電龍、そのまた隣がホライズン家の家紋暴牛です。同じ公爵家で今回来ているのは以上でしょうか。」
「だ、大丈夫なんだから。ちゃんと挨拶できるんだから。」
「お嬢さまにはまだ早いんじゃないかな~。」
「むうう。」
ほっぺをリスみたいに膨らませてみせる。
「はしたないですぜ。お嬢さま。」
「クスクス。ミトンのせいよ。」
いつもの可愛らしいお嬢さまへ早戻りした。
「後は頼んだぜ。使用人。」
「大人しく待っていなさい。御者。」
「2人とも、けんかしちゃだめ! ほっぺつねっちゃうんだから!」
一生懸命に背伸びをし、つねって来るお嬢さまの可愛さが眩し過ぎる。
「ヤバい。可愛すぎる。御者仲間に一生自慢できる・・・。」
「今日も天使ですね。お嬢さま。ハワワワ・・・。」
「もう、からかわないで。」
真っ赤な顔を見られないよう、背を向け会場へと歩き出した。
*****
「それでは、これより、第123回の魔力測定を行う。各自、台の上にある水晶玉へ手をかざすように。」
「どうしよう。初めてだよおれ。」
「おれもだよ。うわ~。緊張するわ。」
「ふふん。みんな子どもね。」
「そーよ。男子っておこちゃまなんだから。」
「ほんとよね。」
がやがやとおしゃべりの声が響きわたる。
「そこまで。各自水晶玉を手前の箱に戻してくれ。追って結果通知の書類をみなの領へ郵送する。」
「ドキドキするぜ。」
「全くだな。」
その日は特に何もなく、解散となった。
「お疲れ様です。お嬢さま!」
「お嬢さま、午後の姿もお美しいです。」
「ありがとう。2人とも。少し休んで良いかしら。」
「もちろんですわ。カーテン閉めて御者。」
「毛布だ。しっかりかけろよ。使用人。」
お嬢さまの安眠確保はこうして日々行われていく。
*****
あの日から、3日ほどたった頃だろうか。何やら使用人たちが騒がしい。
「お嬢さま、まさか稀代の英雄たちと同じ魔力値だったんですって!」
「最も少ない魔力量かつ、ポテンシャル・・・。さすがは完璧超人お嬢さまですわね。」
屋敷中のみんながお祭り気分になっていた。この3人を除いては。
「上出来だ。カリン。」
「これからもいっそう励むことね。」
「心得ましたわ。お母さま、お父さま。」
今日も家族会議は乾き切っている。
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