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銀狼をモフるか?家に帰るか?それとも……って選択肢がひどい  作者: 雲丹屋


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8/10

悪いモヤモヤはさっぱりしたいです

魔素溜まりに近づくと、様子のおかしな獣が度々現れるようになった。

私達はそんな獣を撃退しつつ、問題の場所にたどり着いた。

そこはどうということもない窪地だったが、とても嫌な力が淀んでいた。


でも、これまでみんなでアタックしてきたダンジョンの奥地と比べたら、どうってことないわ。


私は窪地に現れた真っ黒で大きな熊っぽい魔物を睨みつけた。

お前なんかレベルアップのための経験値にしてやる!

グレンが、ゴーサインを出したので、私達は熊の魔物を袋叩きにして退治した。




「いや、つえぇな。さすが”猛炎の紅蓮隊”。草一本残らないというのは本当だったんだ……」

焼け焦げた窪地でヨルンさんが呆然と呟いた。そりゃぁ、王都あたりならいざしらず、うちのパーティはこの近在ではトップクラスの攻撃力を誇るアタッカー揃いだ。一見、サポート役みたいに見えるアゼリアさえも強力な炎魔法使いなのである。「攻撃は最大の攻撃だ」みたいな戦闘スタイルのグレン達を、私が後ろから回復するというフォーメーションなので、私をフォローできる前衛が一人いれば、みんな攻撃に専念できてとても強いのだ。


「みんな、残ってる怪我はない?」

「ありがとう。大丈夫だ」

「私も平気よ」

「ヨルンさんは?」

「俺はおこぼれで昇格しちまったみたいだから全快だ」

言われてよく見てみると、たしかにレベルアップしたとき特有の淡い光が全身から立ち昇っている。ゲーム画面のようにステータスの数値が見えるわけではないが、この現象が起こると、少々の怪我は全快するし、魔力もそれまでの上限以上に回復するのだ。だから、強い魔物を倒してこの”昇格”を積み重ねる強い冒険者は、総じて肌ツヤが良くてシャッキリしている。

「まさか10年も前に諦めた上位クラスに上がる日が来るとは思っていなかった」と言って、ヨルンさんは、ははは……と力なく笑った。


「さあ、マナミ。いつもみたいにパァっと浄化しちゃって」

エイゼルに促されて、私は窪地に浄化の祈りを捧げた。

風が渦を巻き、炭化した地表から煤と灰と煙が黒い柱のように巻き上げられた。

時折、赤く燻ぶる火種が混ざった黒い竜巻は、私の祈りに合わせて下から徐々に灰白色から白色、そしてキラキラ光る氷のような細薄片の吹雪に変わった。

浄化の完了で風の渦が消えると、小さな花びらのような薄片は、ひらひらとあたりに舞い散って、空中に溶けて消えていった。

私の体からも、細かい光の粒が一筋二筋うっすらと立ち上った。レベルアップが近い兆候だ。あともう少し魔物を倒すか土地を浄化すれば、私は念願の高レベル神聖魔法である”奇跡”を手に入れることができるだろう。

大規模な浄化の魔法で魔力は底をついていたし迷いもあったが、私は充実した気分だった。


あと少しで……。


そう思ってぐっと拳を握ったとき、エイゼルが叫んだ。

「みんな気をつけて!まだ魔獣がいる」

ハッと顔を上げた先には、あの銀狼がいた。


「それは退治しちゃダメ〜~っっ!」

「どういうことだ?!」

「斬りかかりながら聞かないでーっ」


私はグレンと銀狼の方に駆け寄ろうとした。

「危ない!」

ヨルンさんが横手から私を庇って飛び出した。腕をつかまれて引き寄せられる。

「離して」

銀狼が切られやしないかと気が気でない私は、彼を振り払おうとしてもがいた。下手に離すと転びそうな私をヨルンさんはしっかり抱えなおして「暴れるんじゃねぇ」と悪態をついた。


銀狼は恐ろしい牙を剥き出しにして唸り、グレンの剣を躱して大きく跳躍した。

「どっわぁああっっ!…ぶねぇっ!!」

ヨルンさんは私を担ぐようにして、後ろに下がった。

一気に間を詰めた銀狼は食い殺さんばかりの形相でこちらを狙って来た。

インターセプトしようとしたエイゼルが弾き飛ばされ、魔法を発動させようとしたアゼリアは体当たりを受けて倒れた。

「逃げろ!」

飛び蹴りからの連撃という離れ業で、銀狼の注意を引き付けてくれたグレンが叫んだ。ヨルンさんは私を担いだまま走り出した。


待って、違うの。あれは悪い魔物じゃない。


私はそう叫ぼうとしたが、それより早く、銀狼はすべてを恐怖で凍りつかせるような声で吠えた。

どう見ても”無害な優しい狼さんです”と言って信じてもらえそうな感じではなかった。


違うのに……どうして……。


窪地の悪い気にあてられたのか、怒り狂っているようにしか見えない。

ヨルンさんは私を担いだまま、窪地を浅く横切って、来たのとは別の方角に逃げ出した。

グレンに足止めされた銀狼は、殺意を感じる目でこちらを見た。


「下ろして」

窪地の端の足場の悪い上り坂を必死に駆け上がっていたヨルンさんは、ちらりと私を見た。

「この先の沢に沿って行けば村に出る」

「え……」

「あんたは、リーダーの指示に従え」

坂を登りきったところで、彼は私を下ろして、ベルトにつけていた短剣を渡した。そして自分は腰の小剣を抜いた。

「面倒見てやれなくてすまねぇ」

彼はグレンの方に駆け下りて行った。


小さめのカルデラかクレーターのような窪地の縁は、弧を描いた低い稜線になっている。稜線を越えて向こう側に降りれば、少しの間、姿を見られることなく、無事に森に紛れられるかもしれない。

グレン達が稼いでくれた僅かな時間を無駄にしないためには、早く逃げなければならない。

頭ではわかっていても、すぐに動けなかった私を嗤うように、窪地の外側……私が向かおうとした先で、巨大な影が鎌首をもたげた。


それは双頭の蛇の魔物だった。

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