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見えてくるもの

月明かりなのか、銀狼の姿だけが、暗い木々の間で白く光っていた。


付いてきちゃたの?

……というか、そういえば私の方がこの村の近くまで送ってもらった立場だったっけ。そりゃ、普通に来られるか。


だとしても、村の人や冒険者のみんなに見つかれば、魔獣が出たと大騒ぎになるだろう。

声をかけようかどうしようか迷っていると、銀狼は真っ直ぐ薪置場の方にやってきた。扉のない出入り口なんかなんの境でもないというように、足を止めすらせずに入ってくる。

狭い薪置場は銀色でいっぱいになった。


声も出ない私に、銀狼は鼻面を寄せてきた。

「ちょ、ちょっと。やめて……」

くすぐったくて、小さな声で抗議すると、銀狼はおとなしく引いて、一歩下がった位置で横たわった。

「え、だめだよ。こんなところで」

銀狼は素知らぬ顔で、前脚の上に顎をのせて目を閉じた。しかし、尻尾はゆらゆらと揺れていて、明らかにこちらの出方をうかがっている様子だった。


どうしよう。


私は膝を抱えて、銀狼を見つめた。

銀狼はそっぽを向いたまま、片目だけを薄く開けてこちらを見た。

目が合うと、銀狼は何食わぬ様子で目を閉じた。……完全に面白がっている。


そっちがそのつもりなら。


私は銀狼に背を向けて、先程と同じように薪の山にもたれてマントにくるまった。出入り口側を大きな獣の身体が塞いでくれているせいか、先程までのように寒々しい感じはしなかった。




根競べはあっという間に私の惨敗で終わった。フワフワであたたかそうな魅惑の毛並みがすぐ隣りにいるのに、硬い薪の山にもたれて凍えているなんて、我慢できるわけがない。

私は誘うように横腹で弧を作って横たわっている銀狼ににじり寄った。


そっと手を伸ばすと、止まっていた尻尾がふぁさりと揺れた。

恐る恐る脇に触れると、ぴくりと耳が動いた。

そのまま白い毛並みをそぉーっと撫でると、太い脚先がびくんと震えた。


これだけ反応しているくせに、このに及んでも、銀狼は知らんぷりゴッコを決め込んでいた。


私は、本格的にこの最高の毛並みを堪能することにした。

指先で毛をすくようにして撫でてみる。背中の毛の流れに沿って、ゆっくりと手を動かしていると、少し身構えていた感じの銀狼の体から、だんだん力が抜けていくのがわかった。


これは楽しい。


増長して大胆になった私は、銀狼の下っ腹を撫で回そうとして、怒られた。


大人しくしていてくれても獣は獣。

一声小さく「ガウ」っと咎められただけで、私はすぐにお腹から手を引っ込めた、

どうやら狼さんはお腹よりも背中や首周りを触られるほうが気にいったらしい。私は怒られない範囲をたっぷり撫で回し、心いくまでその手触りを楽しんだ。


「あ~、狼さん大好き」


抱きついて、フカフカの首周りの毛に顔を埋めてそう呟くと、銀狼はくすぐったそうに耳をぷるぷるさせた。


至福。


傍らに身を寄せて、大きな体を抱きしめていると、嫌な胸の痛みが嘘のようになくなった。


優しい慰めの言葉がなくても、こうやって隣りにいてくれると、それだけでこんなに気分が楽になるのか。


そんなことを思ったとき、ふと私は、この世界で私を初めに見つけてくれた相手のことを思い出した。

彼は私がつらいとき、全然優しい言葉はかけてくれなかったけれど、それでもそばにいてくれた。私は「一人にしてよ」と八つ当たりをしたけれど、あれは彼なりの気遣いや優しさだったのかもしれない。


「言葉がないとわからないよ」


銀狼に頬を舐められて、私は自分が泣いているのに気づいた。

声をころして泣く私を銀狼は、ただ黙って見守ってくれた。

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