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こんなのは絶対ニセモノです

前衛職を一人欠いて、本格的な戦闘に不安のあるパーティバランスになった私達は、採取や調査依頼を受けながらアークの行方に関する手がかりを探していた。


その依頼は、拠点にしている街よりもやや北にある森の調査依頼だった。

魔物の目撃報告があったので見てくるだけの簡単なお仕事だが、なんでも、先に依頼を受けた低レベル冒険者の二人組が帰ってこないらしい。周辺の村を回って話を聞いてくるだけで良く、討伐までは求められていない仕事なのに、期日になっても帰ってこないので、手頃な仕事がなくて暇を持て余していたうちに話が回ってきたようだった。

ほとんど儲けにはならないが、まだ探しに行けていない北の森の周辺で村人に話を聞いて回れる仕事なので、私達は二つ返事で引き受けた。


「魔物の目撃情報の大半は見間違いだが、今回はその他の獣や魔獣の動きが少しおかしいという話も有るのが気になるな」

「消息がわからない冒険者のお二方がどうなったのか心配ですね」

「あまり腕も評判も良くない奴らだから、サボっているだけかもしれないぞ。あるいは、うっかりミスで怪我をしたとか」

「……ごめんなさい」

まさにそのうっかりミスで最近ちょくちょく怪我をしている私はうなだれた。皆は笑って許してくれていたが、今更、そんな初心者みたいなミスをして、それほど危険でもない仕事で足を引っ張っているのが恥ずかしかった。

「仕方がないですわ。マナミは高レベル魔法は使えるけれど、冒険者になってまだ1年も経っていないんですから」

「もともとが野外で生活したことのないお嬢様育ちだしな」

「僕達がもっと注意してあげるべきだったんだ。これまではアー……」

言いかけたグレンの脇をアゼリアがつついた。

「反省の終わったミスを何度も話題に出しても問題の解決にはなりませんわ。これからの話をしましょう」

私はホッとして、アゼリアに感謝した。




私達は、森のことに詳しい薬師のお婆さんがいるという村に向かった。

他の村から更に森の奥に入ったところにある村は、本当に小さな集落で、全員が知り合いというところだった。


「ミネア婆さんを訪ねてきたのか。ならその先の屋根に苔が生えた家にいるよ」

目的の人物はすぐに見つかった。

「ただなぁ……兄さん方、せっかくこんなところまで来てもらって申し訳ないが、婆さんとまともに話ができるかどうかはわからんぞ」

「よそ者とは会ってくださらない方なのだろうか?」

「それともご病気とか?」

「うーん。そういうわけじゃないんだが……」


薬師のお婆さんはかなり認知症が進んでいるらしかった。


「結構前から物忘れが多くなってはいたんだが、最近では本格的におかしくなっちまってな」


ちょっと前にふらっと現れた素性のわからない男を「息子が帰ってきた」と言ってせっせと世話しているらしい。

たしかに婆さんには村を出ていった息子はいるが、生きていればとうに中年で、その男とは年格好が合わないし、そもそも似ても似つかないという。

男の方も男の方で、少々おかしなところがあって、婆さんにされるがままになって居ついているそうだ。


「ナリはでかいんだが、おつむの中身は子供みてぇな男でな。悪いやつじゃないんだけどもよう……ウチのやつなんかは、それで婆さんが喜んでいるならいいじゃないかって言うんだが」


歯切れの悪い村人の言葉に、不安を感じながら訪ねたミネア婆さんの家で、私達はアークを見つけた。




その男は、まったくアークに見えなかった。

グレンやアゼリア達が彼を見た途端に「アーク!」と叫んで駆け寄ったのが、私は不思議だった。

男はグレン達に話しかけられても、なんのことかわからない様子で、返事もせずぼんやりしていた。苛立ったグレンが大きな声を出したところで、家の中から年老いた女性が出てきて「うちの坊やに何をするんだい!」と金切り声を上げた。

アゼリアがなんとか彼女をなだめて、皆は詳しい話をするために家の中に入ったが、私はとてもそんな気にならなくて、外に残った。




小さな家の脇にぼんやり座っている男の前に座って、同じようにぼんやりとその様子を見る。

男は手に持った小枝をゆるく振って小鳥を追いながら、なにかの植物を干したものの番をしているのだが、おおよそそれはこんなに体格のいい男の仕事だとは思えなかった。しかし男の顔つきを見たら、誰もが彼がこの程度の仕事しか任されていないことに納得しそうだった。


アークはこんなに締まりのないゆるい顔はしないよ。


いつも眉を寄せていて、射抜くような鋭い眼差しをしていた目元は、ボーッと焦点が合わない様子だった。鼻梁の高い鼻や、男らしい頬骨から顎の様子はそのままだったが、口がだらしなく半開きなせいで、全体に緩んだ締まりのない顔に見えた。


これは酷い。


なんだか無性に腹がたって、私は男を睨みつけた。

彼は、来てもいない鳥を追うために小枝を適当に振りながら、ふとこちらを見て、私と目が合うと、にぱぁっと笑った。


私は耐えきれなくてその場を立ち去った。


アークの笑顔はあんなんじゃない。

と思った私は、アークがまともに笑った顔をちゃんと見た覚えがないことに気がついて愕然とした。


物言いたげな苦笑。

嫌味っぽい嘲笑。

自己満足気味な鼻先だけの笑い。


あとはいつでも仏頂面で、私に小言を言う以外は、グレン達ともろくに話していなかった。


あんなのはアークじゃない。アークじゃないけれど……。


アークによく似た顔で、無邪気に好意を差し出す笑顔を向けられて、私の気分はぐちゃぐちゃになった。

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