第98話 リスタート ー長尾栞編ー
結局一人も生きている人を見つけることが出来なかった。
生存者を探しに行ったが収穫もなくホテルに帰って来たのだ。
ホテル周辺にはもう何も変化が見られない。ホテルを離れた間にゾンビが来た気配はない。
《それだけこういう世界になってから時間が経ったって事かな・・人も消えゾンビも消えて・・》
皆が無言になっていた。
考える事がたくさんあったからかもしれない。
死んだ親子の事を考えていたからかもしれない。
だけどみんなの心に何らかの変化が起きたことは間違いなかった。
「それじゃあみんなで話し合うのは明日にしましょう。きっとみんな疲れたでしょうからいったん休むといいと思います。」
遠藤君が言うと、みんなが力なくうなだれた。
私も部屋にとぼとぼと戻っていく。
きっとまだこの街のどこかに・・そんな気持ちをみんなが噛みしめている。
仲間内でどうのこうの言っている場合じゃない。
私の部屋の前に付くと後ろに里奈ちゃんが付いてきていた。
「あの・・栞さん・・」
「里奈ちゃん・・」
「私、あゆみの所に行きます。」
「うん。」
「一緒についてきてもらえないですか?」
「里奈ちゃん・・その必要はないわ。」
里奈ちゃんが私の目線の先を追う。
「里奈・・」
「あゆみ・・」
「里奈ぁ!」
「あゆみぃ!」
いがみ合って距離を取っていた二人が泣きながら抱き合う。
《そうだ・・これで良いんだ。外の厳しい世界を目の前にして仲間内でどうこう言っている場合ではないのだ。》
きっと大人のみんなもそう思っているはず。
私も誰に何を言われても黙っていようと思っていたけど、何かあった時には思い切って自分の思っている事をぶつけてみようと思った。
《・・もうその必要もないかもしれないけど。》
私は二人に近づいて頭を撫でてあげた。
「みんな・・きっと今日の事でいろんなことを思ったと思う。私も思ったよ!外は本当に厳しい世界なんだって。遠藤さんの力のおかげでそれを見失っていたかもしれない。だから・・前に進まなくちゃね。」
「うん。」
「そうですね。」
「今日はもう休みましょう。」
「あの栞さん。今日はあの、3人で一緒に寝ませんか?」
里奈ちゃんが言う。
「私も栞さんと寝たい。」
あゆみちゃんが言う。
《よかった・・私も本当は一人で寝るの辛いなって思ってたんだ・・あの光景が目から離れなくて悲しくて・・辛くて・・》
「うん。一緒に寝よ。」
そして私と女子高生二人はみんな同じ部屋で寝るのだった。
《他の人たちはどうしているのだろう・・一人ぼっちで居れるのだろうか?もしかしたら飲んでいるかな・・仲のいい人と一緒に居るかな?》
私たちはまるであの亡くなった家族の様に、3人で寄り添うように眠るのだった。
次の日の朝。
皆で展望台に集まった。
「あの・・みなさん。集まってもらってありがとうございます。」
遠藤さんが話し始める。
「えー改めて、これからしなくちゃいけない事と大事な事を話していきましょう。」
「わかりました。」
「はい。」
「そうしましょう。」
それぞれが答える。
「まずは優先的に何をしなくちゃいけないか?それでは華江先生お願いします。」
「ええ。やるべきことは変わっていないわ。遠藤君の細胞の力が他に伝播するのか検証するわ?それがとにかく最優先課題よ。いまは人工授精などの設備も何もない、スタッフだってそろっていないわ。だから普通に性交をして受精する事が第一目標よ。」
華江先生が言いきる。するとあずさ先生も改めて話はじめる。
「それで課題になっていたのが、遠藤君の不能な状態をどうするか?私と華江先生で出した結論は、病院に行って治療薬を入手して投薬治療を行うという事です。」
「それでは、セントラル総合病院に?」
「はい。危険を伴うので全員で行って薬を入手します。そして明日の午後からでも治療を始めたいと思います。」
「あの・・」
「はい!麻衣さん。」
「私たちが遠藤さんにアプローチする件は?どうするんです?」
「もちろん継続よ。」
華江先生が答える。
「投薬しても女性の協力は必要よ。やはり簡単ではないと思うの。それで遠藤君はそれでどうかしら?」
「俺はかまいません。ただ・・明日の午後からという猶予はどうして?」
「それはあなたの気持ち次第なのだけど、あなたがその行為をすることを皆に知られているというのが、心のとげになってうまくいかない気もするの。だからあなたの方で勝手に順番を決めて勝手に進めてほしいわ。その心の準備の時間よ。」
華江先生が遠藤さん主体で進める事が大事と強調する。
「わかりました。俺が自分の心の思うようにします。それで皆さんはいいですか?」
遠藤さんの問いに。
私が答える。
「かまいません。」
あゆみちゃんが答える。
「大丈夫です。」
里奈ちゃんが答える。
「もちろん遠藤さんが望むのなら!」
麻衣さんが答える
「ふふっなんだかドキドキしますね。もちろんOKです。」
優美さんが答える。
「リベンジよ!いつでもどうぞ。」
沙織さんが答える
「あたりまえじゃない。」
愛奈さんが答える。
「絶対に喜ばせて見せるわ。」
奈美恵さんが答える。
「思いっきりどうぞ!」
翼さんが答える。
「つたないかもしれませんが・・どうぞよろしくお願いします。」
未華さんが答える。
「私も精一杯頑張りますね!」
あずさ先生が答える。
「私のあれやこれやを試してあげる。」
瞳さんが答える。
「ふふ。可愛い遠藤君ならうれしいわ。」
華江先生が答える。
「大人の魅力を教えてあげるわ。」
皆の心が一つになった気がした。
遠藤さんがいきなり性交しに来るのを、私たちが受け止める覚悟が固まったのだ。
《女性陣の意気込みが尋常じゃない。私もプレッシャーなんて言っていられないわ!》
いよいよ私たちの世界の未来に対しての挑戦が始まるのだった。
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