第94話 おそらくはこの人 ー長尾栞編ー
そして数日後、私は遠藤さんを探して歩き回っていた。
《遠藤さんはどこにいるんだろう?》
今日は遠藤さんに直接聞いてみようと思って探していた。
そして遠藤さんは部屋にはいなかったし、展望台でゾンビをチェックする仕事もしていなかった。
「どこにいるんだろう・・」
くまなく探してみたがやはりどこにもいなかった。
女子はみんないるようだったが、優美さんと麻衣さんが見当たらない。
という事は彼女らと一緒にいるのかもしれない。
ただこれだけ居住区を探していないとなると行くところは一か所しかなかった。
私はエレベータの鍵を入れて下に降りていく。
普段はエレベーターは停止するようにしていたが、その解除をするために鍵を使った。
そして2階のボタンを押して閉める。高速エレベーターは2階までスムーズに下りていくのだった。
《途中で止まったら恐怖だわ。》
つい・・ゾンビがたくさんエレベータに乗ってくる想像をしてしまっていた。
「大丈夫大丈夫・・」
チン
私が変な想像をしているうちに高層エレベータが2階についた。
そのまま目的の場所に足を運ぶと声が聞こえてきた。
声が聞こえた場所はトレーニングジムだった。
「もうちょいもうちょい!」
「頑張れ頑張れ!」
ガシャン
「やった!」
「すごおい!」
「ハハッ。」
私はジムの中に入っていく。
「皆さんお疲れ様ですー。」
「あ、栞ちゃーん!運動しに来たの?」
優美さんが気さくに話かけてくる。
「そういうわけでもないんですが、皆さんがなにやってるのかなぁ?って思って。」
「あー筋トレしてたのよ。」
優美さんがニコニコして言う。
「いま遠藤君ね!70㎏のベンチプレスを上げたのよ。」
麻衣さんが興奮気味に話した。
「えっ70㎏って凄いですね!」
そう言えばどことなく遠藤さんの胸囲が大きくなったような気がする。
「私たちも筋トレしないといけないとか思って。」
麻衣さんもどうやら一緒に筋トレしていたようだった。
3人とも軽く汗をかいている。
「俺もいざという時みんなを守らなきゃと思ってね、体を鍛えるようにしているんだ。」
「えらいです!」
「なんか私たちも守られっぱなしって言うのもダメじゃない?だから筋トレを。」
麻衣さんがニコニコしながら言う。
「たしかにそうですね。私もトレーニングをやりたくなってきちゃいました。」
「栞ちゃんも着替えてくれば?」
優美さんが言う。
でもまた上階の部屋に着替えに行って待たせるのも申し訳ないと思った。
「あの上はパーカーですし、下はデニムショートパンツなのでこのままできます!」
《ダメージジーンズのショーパンなので若干露出が多いけど・・》
「じゃあ、やろやろ!」
麻衣さんに手を引っ張られてルームランナーの方に行く。
ガー
ルームランナーに乗り走り始めた。
「ほッほっほっほっ」
《そう言えば皆がゴタゴタしてから体を動かしてなかったな・・》
体を動かすのは気持ちよかった。
「どう?」
「気持ちいいです!」
隣で麻衣さんも一緒に走ってくれている。
私の中では・・遠藤さんが好きなのは色白美人の麻衣さんか翼さんだと思っている。
《だってこんなにアイドルみたいな可愛さの人絶対好きになるって。》
「これ終わったらふたりで軽くストレッチしましょう?」
「はい。」
二人で黙々と走り続ける。
30分くらい走り続けていたら息が切れてきた。
一旦ルームランナーを止めて息を整える。
「ふうふう、はぁはぁ・・」
「息きれるよね。」
「ふうっ、はい・・ふうふう。」
「なんかね。最近さあ、みんなの様子がぎくしゃくしてると思わない?」
「してます。」
「なんかそれが息苦しくてね。それで3人で体を動かそうって言う事になったの。」
「そうだったんですね。」
すると優美さんと遠藤君も私たちの所にやって来た。
「ストレッチしよう!」
「やりますやります。」
そして私の背中を優美さんが押してくれる。
「あ・・栞ちゃんちょっと硬くなったみたい。」
「はい、きついです。」
「やっぱり普段からやって無いとダメよね。私もカッチカチで。」
「はは・・ホントそうですね。」
そうだった。体を動かさないといざという時に困る。
優美さんの言うとおりだなって思う。
「そういえばね、近頼くんね腹筋割れてきたのよ!」
「えー凄いですね。」
「ねー栞ちゃんに見せてあげてよ。」
「いや・・そんなに凄いものでもないけど。」
優美さんに言われて遠藤さんが照れる。
「減るもんじゃなし・・」
麻衣さんが少し呆れたように遠藤さんを促した。
「大した事ないっすよ!ほんと。」
スッと遠藤さんがTシャツの裾をまくり上げる。
腹筋が綺麗に6つに割れていた。
「えっ!凄くないですか!?」
「部屋にいる時には腕立て腹筋背筋をしてたるんだってさ。」
「えらいです。」
「真面目か!ってね。真面目もいい加減にしとけって。」
優美さんが笑う。
「でも、みんなが思うよりそんな堅物じゃないと思うんだな。わたしは・・えい!」
麻衣さんが遠藤さんの腹筋にパンチをした。
《麻衣さんのそんな仕草がかわいい。》
「うっ!」
「硬ーい。」
「えっ!私も私も!」
優美さんが遠藤さんの腹筋にパンチをした。
「ふっ!」
今度は不意を突かれなかったようで力を入れたみたいだ。
「本当だ。カチカチ!」
優美さんも惚れ惚れしながら腹筋を見ている。
なんとなく流れ的に私もしなくちゃいけないのかなと言う感じになって・・
バフッ
「オふぅ!」
遠藤さんには思いの外、効いたみたいだった。
「あ!すみません!」
「まさか栞ちゃんからパンチ喰らうと思ってなかったよ俺。そういうキャラじゃないと思ってたからさ。」
「ホントホント!不意を突かれて意外にきちゃってんの。」
「あははははは。」
麻衣さんと優美さんが大笑いしていた。
なんだろう・・皆のギスギス感が嘘のように和やかだ。
この雰囲気を見て私は思った・・
やっぱり遠藤さんが好きなのは、色白アイドル美人の麻衣さんじゃないかと。
「あとさー!この股割器懐かしくない?」
「最初に来た時にみんなでやりましたよね!」
「やってみようよ。」
「えっでもこれ痛いんですよねー。」
「今、栞ちゃんのパンチが一番痛かった俺の立場は・・」
《私のパンチが・・》
「わかりましたよ。私からやります。」
私はその椅子の部分に座って足を伸ばした。
キコキコキコキコキコ
「硬ーい。」
「いたたたたたたたた。」
私はチラリと遠藤さんをみると、赤い顔をして目をそらしていた。
・・・・私はダメージデニムのショートパンツだった。
股を開きすぎて股の隙間から何かが見えてしまったらしかった。
《キャー!》
心の中では悲鳴を上げていたが・・
遠藤さんの心の傷を広げてもいけないので恥ずかしくても我慢していた。
《いやあ!遠藤さん正面から避けてー》
心の悲鳴は続くのだった。
次話:第95話 ゾンビトラウマを克服する二人