第09話:事件後 ー長尾栞編ー
その後・・救急車を呼び唯人君は、華絵先輩と陽治先輩に付き添われて病院へ行った。
深夜になってようやくタクシーで唯人君と華絵先輩と陽治先輩が帰ってきた。どうやら怪我は大したこと無かったらしい。
「よかった・・」
私は健先輩となっちゃんにつきそってもらい警察で事情聴取をされた。
警察から連絡先を聞かれ、状況に進展があったら連絡するとの事だった。
「事情聴取でも念入りだったけど・・進展があったらか・・つかまるといいんだけど。」
それでも警察は丁寧に対応してくれた。
しかし楽しいサークル合宿が一転して酷い思い出となってしまった。
「女子はみんな同じ部屋に固まって寝ましょう。」
華絵先輩がみんなに声をかける。健先輩がそれに合わせて男子にも声をかけた。
「俺達も彼女らの隣の部屋にいた方がいいだろうなあ。」
私はさっき警察に話をしたひと通りのことをみんなに伝える。
「今夜は一応ロッジの周りに、警官がパトカーで待機してくれるらしいです。」
「栞ちゃん怖かったよね。もう大丈夫だから。」
麻衣先輩が私の肩を抱いて慰めてくれていた。
「しおりん、ホント無事でよかった。」
なっちゃんがポロポロ涙を流していた。そのわきで梨美ちゃんも泣いている。
「少人数のグループを狙ったのね・・」
みなみ先輩が怒りをあらわにそういった。
「きっと犯人も捕まるよ。唯人も大丈夫か?」
「ええ、俺は大丈夫です。」
雷太先輩が唯人君を心配し唯人君が答えた。
「よく栞ちゃんを守ってくれたな。ありがとう。」
啓介先輩が唯人君を励ます。
結局・・みんな眠る事など出来ずに夜が明けてきた。夜が明けたらまた警察署にいって書類作成に協力して、それが終わり次第みんなで東京に帰らなければならない。
「許せないな・・」
陽治先輩はとにかく怒りが収まらない様子だったが、健先輩がそれをいさめるように話す。
「もう警察の手に渡ったんだ変な気をおこさないようにな。どうせ俺達じゃ見つけられないんだ。」
「わかってるよ。」
陽治先輩の様子に公佳先輩が言う。
「もう仕方がないですよ。私たちではどうする事も出来ないと思います。」
「そうだな・・」
ただただ・・気まずい雰囲気が流れた。部屋を分けて眠るはずだったのが、いつのまにか完全に夜が明けてしまった。
次の日はログハウスの方達もとても心配をしてくれていた。そしてこれからの事を考えて夜の学生の出歩きなどに制限をかけるような話もしている。
「怪我は大丈夫だったかい?」
唯人君にロッジの人が声をかける。
「ええCTも取ってもらいましたし、骨にも異常が無いということです。」
「あなたも怖い思いしてしまったねぇ・・」
私にも声をかけられる。
「いえ、無事でしたので本当によかったです。でも・・怖かった・・」
「うちにも君たちぐらいの年ごろの娘がいてね、いま大学でよそに出ているから他人事とは思えなくてね。」
「そうでしたか。もしどこかに泊まりに行くなどあったら、注意するようにお声がけしていいと思います。」
「そうね・・。それよりも・・本当にごめんなさいね。」
「いえ!ロッジの方達は全く悪くありませんから。」
私がそう答えると、ロッジの人たちは本当にすまなそうに頭を下げた。
そして清算をすませみんなでロッジを出る。
結局あんなことがあったので使用料というか・・実費だけの支払いとなった。
ロッジの人は悪くないのに申し訳なかった。
そのままもよりの警察署までロッジの送迎バスで送ってもらった。
「また警察署か・・」
「とにかく早く終わるといいわね。」
「はい・・」
そんなことを話して警察署に入っていく。
そして全員で事情聴取を受け、みんなが解放されて長距離バス乗り場まで歩いた。
その足取りは重く・・みんな言葉を発さないでいた。
でも・・なんだか私のせいのような気がしてきて声をかける。
「あの・・私、気にしてませんから!」
「しおりん・・」
なっちゃんも神妙にしてたから、雰囲気が明るくならなかったけど笑ってもらえるように微笑みかける。
「唯人君の傷は大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫だったよ。栞ちゃんが一番つらいよね。」
「大丈夫。何かされたわけじゃないし、見られたくらいどうってことないし。」
「ごめんな。俺達が肝試しをするのを強硬したばかりに」
「え?それは関係ないですよ!悪いのはやった奴らです!」
陽治先輩が謝ってくるけどそれは全く関係ない気がした。皆で楽しくやろうとしただけなんだから先輩たちは悪くなかった。
「栞さん無理はしないでね。」
華絵先輩が声をかけてくれる。
「怖かったけどもう大丈夫です。」
「栞ちゃんの荷物俺がもってやるからな。」
雷太先輩もめっちゃ気を使って来る。
「え、いいですいいです。」
「遠慮しなくていい!」
私のボストンバックをひょいっと肩に担いでくれた。
「すいません・・」
《ああ、なんだか私のせいで暗くなっちゃったなあ。確かにショックだけどみんなの思い出がつまらない物になっちゃった・・居づらい・・》
帰りの長距離バスは、昨日寝れなかった事と警察に行ったりした疲れで全員眠り込んでしまった。
私は窓側に座りなっちゃんが通路側に座ってくれたおかげで安心して眠る事が出来た。
私達の町の駅について私が帰ろうとすると、唯人君が言ってくれた。
「栞ちゃん夏希ちゃん!俺が家まで送るよ。」
「ありがとう!それなら安心!おねがい。」
なっちゃんがすぐさま答える。
唯人君だって怪我をしているのに・・そう思いながらもうれしかった。
家に帰るまで唯人君はずっとついてきてくれた。
《怪我が早く治ると良いのだけれど・・》
とにかく・・サークル活動に戻るの・・どうしようかなあ?
そんなことを考えながら歩いていた。
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