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第89話 行き詰まり解消の第一歩 ー長尾栞編ー

2月になった。


外はまだ寒いが高層ホテルの上層部は快適だった。


ガスタンクローリーの残量もまだまだあり、コージェネレーションシステムが稼働しているため電源に困る事もない。ただ人が使う部屋と共有スペースだけ暖房を入れて、まめに切るようにしている。暖房を切っていても服を着ていれば問題なく過ごせた。


ここまでゾンビが襲ってくる事もなく生存者が訪ねてくる事もなかった。


毎日が平和ではあるが・・


私たちの子作り計画が暗礁に乗り上げてしまっている以上は身動きが取れなかった。


「暇だわ・・」


今日は回収日では無いので役割のない人はフリーデイとなっている。私が休みの日だったので暇を持て余していた。今日は私と沙織さん瞳さんが休みだった。


私はせっかくの休みなので遠藤さんの仕事を手伝うことにした。住居フロアにしているカーペットに業務用の掃除機をかける仕事だった。


これが意外に大変で広いと時間がかかるのだった。長いコンセントが届くところまで掃除機をかけたら一旦コンセントを抜いて、次の場所のコンセントに挿し直してまたかける。


6フロアを3人で2フロアずつやることになっていた。


「あの。遠藤さん!今日の遠藤さんがやる仕事を1日手伝います。」


「えっ?いいよいいよ!だって栞ちゃん休みですよね?」


「いえ、どうせやることないし。」


「栞ちゃん、読みたい本とかあったじゃないですか?」


「今日は気分じゃないって言うか、遠藤さんを手伝うのが楽しいんです。手伝いは迷惑ですか?」


「いやそうじゃないけど。」


「じゃあ勝手にやります。ひとつ上の階は任せて下さい。下はお願いします。」


遠藤さんがやっても良いと言う前に、勝手に階段を上って行こうとした。


すると遠藤さんは後ろに来て私の手を握った。


「本当に休みなよ。大丈夫だから。」


彼が敬語じゃないだけで嬉しかった。私は遠藤さんの手をぎゅっと握りしめて言う。


「最近、暴飲暴食過ぎたから、少し体を動かしたいんです。」


「本当に?」


「本当です。遠藤さんと同じことがしたい気分なんです。」


「俺と同じこと?」


「はい。気分が晴れるというか落ち着くというか・・そんな感じです。」


「そうなんだね。わかった任せるよ。」


「はーい。」


遠藤さんの手の感触とぬくもりが残っている。優しいぬくもり・・


そして私は業務用エレベータ前に置いてある、掃除機を取り出してきてカーペットにかけ始める。


ガーガーガー


「うん!やっぱり掃除は気持ちいい!」


ガーガーガー


と掃除をかけていると、里奈ちゃんが上の階から降りてきた。


「あれ?栞さん今日はお休みじゃないんですか?」


「うん。やることないし手伝いでもしようと思って。里奈ちゃんは上の2フロア―担当?」


「今日はそうです。」


有名女優さんと言えども作業分担はあるのだった。ここでは働かざる者食うべからずのような決まりごとがあった。


「やることないから手伝ってるの。」


「わかります!みんなが休みだと相手がいるから、なんか遊びたいなって気分にもなるんですけど、決められた人だけが休みの日って私も仕事手伝っちゃいます。」


「そうよね。」


「じゃあ業務用エレベータホールからゴム手袋を持ってきます。」


「あら?破けちゃったの?」


「はい。」


「じゃあ行ってらっしゃい。」


「はーい。」


里奈ちゃんが私の横を通り過ぎていく。


続けてフロアに掃除機をかけていく。やはりフロアは広いのでワンフロアやるだけでも午前中いっぱいかかりそうだった。


少し汗ばんで来たのでハンカチで首元をおさえる。


「あ・・やっぱり。」


後ろから声をかけてきたのは沙織さんだった。沙織さんはトイレットペーパーが10個くらい入った袋を持っていた。


「あれ?沙織さんも手伝ってるんですか?」


「いや・・だって仕事してる方がいいのよ。気がまぎれるし。」


「ふふっ!同じですね。」


「本当だ。ふふっ!」


ほのぼのとした空気が流れて沙織さんはそのままトイレの方に向かう。


午前中ずっと掃除機をかけ続けてようやく終わった。


「やっと終わった。さてとお昼か・・皆のところに行こうっと。」


毎日、昼の12時には飲食フロアのレストランに集まる事になっていた。今日の食事担当は華江先生と麻衣さんだった。華江先生もほとんど自炊をしなかった人だったらしいが、一通り料理が出来るようになった。


「栞ちゃんお疲れ様。やっぱり掃除してたんだ。」


「はい。皆が動いている時には、なんか休めないです。」


「そうよね。皆がそんな感じよね。」


先に座って待っていた奈美恵さんが言う。


「あの・・交代制の休みの制度やめない?」


隣に座っていた瞳さんが言う。


「本当にそうですね。皆で休んでみんなで働いた方がうれしいです。」


あゆみちゃんも同意していた。


「お疲れ様です。」


そこに遠藤さんが入ってくる。


うん・・そうだ。このやり方だとコミュニケーションが取りづらくなったり、みんなで集まるときが少なくなるかもしれない。夜は望めば一人の時間があるわけだし、休みは統一したほうがいいかもしれない。


「私は賛成です。皆で働いて皆で休みをとりませんか?」


「賛成!」


里奈ちゃんも同意する。


すると皆も同じ思いを抱いていたらしく、満場一致で休みと働く日を統一する事にした。


「近頼君もあまり気を使われるのもあれだろうしね。」


優美さんが遠藤さんに言う。


「まあ、全然うれしいですけどね。」


「ならいいけど。」


「誰かに何かが偏ってしまう可能性もあると思いますしね。」


未華さんが言う。


「あの・・私みたいな最年少が言うのもあれなんですけど・・」


あゆみちゃんが言うと華江先生が促す。


「別にいいんじゃない。自由に話していいと思うわ。」


「それぞれ一人一人が遠藤さんと二人きりになる日を設けるのはダメなんですか?」


「それは・・」


皆が口を閉ざした。


「俺は・・いいですよ!というか一人一人とじっくり話したこと・・いままでは最初の頃の栞ちゃんとしかなかったから、そうしてみたいです。女の人同士は結構1対1があったと思うんですが俺には無かったので。」


!!


そうだった!今まで数人が彼の側にいるか、彼がひとりの事しかなかった。


「じゃあ・・順番は名字のあいうえお順で始めようか?」


あずさ先生が提案しみんなが賛成した。


二人きり・・そういえば私だけかもしれない。


遠藤さんが言えなかった事を最年少のあゆみちゃんが言ってくれたのだった。

次話:第90話 遠藤さんと二人きりの日

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― 新着の感想 ―
[一言] 遠藤君引っ張り出して、漁港で魚釣りとか生鮮食品を 魚や貝で賄えばいいのに!岸壁や船底に結構貝が居るし、 川で鯉やブラックバスが居るので いい気晴らしと食料調達になるし、ボートや漁船入手しても…
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