第85話 未経験組がやる事を決めました ー長尾栞編ー
女子高生のあざといラッキースケベ作戦は見事だった。
夜までゲームをして遠藤さんはかなりドキドキしたに違いない。
お姉さん組の健全トレーニングコミュニケーション
大人組のストレス発散系コミュニケーション
女子高生組のあざといラッキースケベコミュニケーション
3パターンの対応を見た。
どの組に混ざっていても遠藤さんは楽しそうだった。なんとなく遠藤さんが自分の殻を破って向かってきてくれそうな感じもした。
ただ同年代の優美さん麻衣さんペアはまだ動いていないようだった。
《やはり優美さんが失敗したと思っているからだろうか?慎重になっているのかもしれない。》
今日は昼食後にみんなで食料品を探し物品を回収する日。エネルギーはかなりのタンクローリーを確保しているのと、まだまだ生きているガソリンスタンドを確認しているため当分は大丈夫だった。
朝から翼さんの部屋に集まって話をしている。
「ありがとう栞ちゃん。で・・どうだった?」
「うん・・それぞれに趣向をこらして頑張っていたみたいです。」
私はこれまで見てきた各チームのやっていた事を話はじめる。
「みんな本当に必死に考えているんだね。」
「そうなんですよ未華さん。」
「私たちも練り直さないといけないわ。」
「趣味で盛り上がる以上の事を考えなくては。」
翼さんも思案し始めた。そして私が気になった事を言う。
「結構みんな積極的に動くんですね。私はもっと慎重になるのかと思ってました。」
「あまり気遣いしすぎるのも良くないってことかしら?」
「こういう時・・男性経験のない私たちは引き出し無いですよね。」
未華さんが言うと3人がうーん・・となる。3人は男性経験が無いのが周知の事実のため、もう未経験という事を隠さずに話せる相手だった。
そして未華さんが付け加えるように話す。
「肉食系女子の優美さんや大人チームが手こずる相手に、私たちが出来る事はほとんど無いと思うわ。」
「ですよね・・」
「あの・・私たち3人の共通点はなんだろう?」
不意に翼さんが言う。
「3人の共通点ですか・・」
また3人が沈黙して考え出す。それぞれが共通点を出そうとする。私も考えるが未経験ということ以外の共通点が思い浮かばなかった。
そして・・
「・・・気持ちはどうかな?」
翼さんがポツリと話す。
私には翼さんの言う気持ちが誰のどの気持ちをさしていうのか?その真意が分からなかった。
「気持ち・・ですか?」
「そう。私は彼氏も作らずに来てもう20代半ば・・言わばこじらせ系女子なのよ。」
「それを言うなら私も全く同じ・・20代のこじらせ系だわ。」
翼さんと未華さんが自らをこじらせ系だという。
「経験が遅れるたびにどんどん理想ばかり追ってハードルが上がってしまったの。」
「ふふ・・翼さんもですか。私もなんです。」
「ほんとこじらせちゃったわ・・」
「わかりますー。」
翼さんと未華さんが同意している。
「でも栞ちゃんはまだ違うわ。女子大生でまだこれからだった。」
「それは・・まあそうかもしれません。」
「彼氏とはキスで終わったのよね。」
「はい。でもおそらくは彼はもう・・」
そう唯人君は連絡がつかなくなり・・おそらく・・
「ごめんなさいね。その事を思い出させるつもりじゃ・・」
「いえいいんです。終わった事です。」
少し沈黙して翼さんが話し出す。
「私はもう友達に見栄を張る事もなくなった、遅れたという事実はここに居るみんなが知っている事だわ。」
「そんなことは・・」
「いえ栞ちゃんそうなのよ。」
「そうそう。」
「二人がこんなに綺麗なのに放っておいた男達に見る目が無いんだと思います!」
「それがね・・チャンスはあったのよ。それを自分でダメにしちゃったの。」
「翼さんもですか・・私もです。」
「そうなんですね・・」
「難しく考えすぎたのよ。結婚したらどうなるだろうとか、付き合っても長続きするかなとか・・」
「あと私は今は好きでも冷めたらどうしようとかも思いましたよ。」
「未華さんわかるわー。そんなこと付き合う前に考える事じゃないのにね。」
「本当にそうでした。」
なるほど・・確かに彼女らは、こじらせ系だわ・・
《私は少なくとも唯人君とは余計なことを考える前に会えなくなっている。ただ・・今はなんとなくそこに片足を突っ込んでいる気がする。気のせいかもしれないが。》
「だからわかるの。栞ちゃんがこじらせ系になっちゃう前にみんなで動きましょう!」
「ああ、そういう事ですか!」
「そう未華さん!もう私たちはこじらせてる場合じゃない。」
「はい翼さん!私も腑に落ちた気がします。」
翼さんと未華さんが、ある結果にたどり着いたようだ。私には何が決まってどう動くことになったのかが分からなかった。
「皆が積極的に動いているのは遠藤さんの気持ちを盛り上げるためよね?」
翼さんが私に言う。
「はい。」
「みんなが遠藤さんが自分たちに興味を持ち、そして自分たちに抵抗を無くすように仕向けている。」
「ええそうだと思います。皆はそれに向けて必死にやっていました。」
「私たちにそんなこと出来る?」
「!出来ないと思います。」
翼さんが言っている事をなんとなく理解して来た。
「出来ない事を頑張る事なんで不毛だわ。」
「翼さんの言うとおり私だってそんな器用な真似は出来ない。」
「未華さん・・翼さん、ということは?」
私がはっきりと分からなかったため質問する。
「決まっているわ。」
「「私たちが彼を好きになる!」」
翼さんと未華さんの声がそろった。
私は頭を殴られたようだった!
そう!何かが足りない気がしていたけどそれだ!
それは私たちの彼へ対する気持ちを本物にするという事だった。
彼じゃない。私なんだと。
モヤモヤが晴れた気がした。
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