第81話 未経験組のやるべき事 ー長尾栞編ー
とにかくすぐに行動に移す事が先決だった。
華江先生がいうには・・時間との勝負との事だった。
放置すればするだけ心のしこりが大きくなる可能性があるらしい。
遠藤さんに分からないように全員に通達をして、チームに分かれて作戦を考え始めたのだった。
分けられたチームとは以下の通りだった。
・私と翼さんと未華さんが未経験組
・華絵先生とあずさ先生と瞳さんが大人組
・奈美恵さんと沙織さんと愛菜さんがお姉さん組
・麻衣さんと優美さんが同年代組
・里奈ちゃんとあゆみちゃんが未成年組
「とにかくうちは遠藤さんに気を使わせない作戦にしましょう。」
私と翼さんと未華さん3人が同じ部屋で話をしていた。
翼さんがチームの目標を提示する。
切り口を変えるために、ほかのチームの手法や考えを入れないという事で決まった。
「他のチームのやる事は正直気になりますけどね・・」
私がポツリと言うと未華さんも頷く。
「華江先生のいう事はもっともだと思うのよ。皆同じ切り口で接してしまったら最良の案が見えなくなる可能性もある。」
「ふう・・なんか、簡単なようで難しいです。」
「はい・・私も実際どうしたらよいのもか?」
「・・そうよね。私だって実際に経験したことが無いわけだし、私たちは未成年チームよりも引き出しが少ないかもしれないわよね・・」
「とにかく決まった事ですのでやるしかなですよね?」
「皆で頑張りましょう。」
私たちのチームが掲げるのは遠藤さんに変な意識をさせないようにすること。
趣味や彼のしたいことをとにかく一緒にやって、気持ちを理解するという事を心掛けることにする。
「ただプラスな部分としては、自分たちが一番遠藤さんに近い意識を持っていると思うのよ。」
「確かにそうですよね。」
「気持ちが分かるからこそ殻を破る事が出来るに違いないわ!」
「翼さんにそう言われるとそう思ってきました!」
「私と翼さんと栞ちゃんで気持ちを分かり合える間柄になる作戦。という事でいいですかね?」
「いいと思う。」
「じゃあ彼の趣味を知っているのは私だと思います。」
「栞ちゃん頼もしいわ。」
そう・・ゾンビの世界が始まってから最初に部屋で一緒になっていろんなことを語り合って、一番彼の趣味を知っているのは私かもしれなかった。
読書という共通の趣味があるし彼は私の趣味を理解してくれていた。
「とにかくそれを念頭に置いて行動すれば糸口は見えると思います。」
「そうしましょう!」
「彼が私たちを見ていてくれたように、とにかく私たちが彼を知るという事ですね。」
「まあだいたいそんなところでいいんじゃないかしら?」
「分かりました。」
「頑張りましょう!」
私たち未経験組の話し合いはだいたいそんなところだった。
《正直なところあとは引き出しが無さ過ぎて、何をしていいのか分からないというところが本音だが・・》
他のチームは既に行動に移しているようだった。
みんなが検証した結果を知るのは2週間後。
そしてその間に他チームが実践している事も見えるから、2週間の間に各チームは毎日のようにミーティングをすることになる。
私は今日の未経験組の話を踏まえて、遠藤さんの部屋に行ってみることにした。
コンコン
・・・・・
返事はなかった。どこかに行ってるのかもしれない。
私はホテルの中をウロウロと遠藤さんを探し始める。
「栞ちゃん。」
「ああ、瞳さん。」
「何か話は決まった?」
「とにかく私たちに出来る事をやってみようという事になりました。」
「そう・・どのチームが遠藤さんを解かすことが出来るのか楽しみね。」
「はい・・」
「遠藤君を探しているの?」
「はい。」
「それなら今はお姉さんチームとトレーニングジムに言っているわ。」
「ありがとうございます。」
なるほど、お姉さんチームはお姉さんチームの得意な事をやろうとしているんだ。
「ちょっと行って見ます。」
「ええ。」
そして私は自分の部屋に戻りジャージとTシャツに着替えた。
廊下に出てエレベーターに向かう。
「あら?ジムにいくの?」
「はい。麻衣さんもですか?」
「ええ。」
私と麻衣さんは同じようにジャージとTシャツ姿になっていた。
「遠藤さんの所にですか?」
「そうよ。栞ちゃんもかな?」
「そうです。とにかく彼の側に。」
「まあ相手を良く知るのは当たり前よね。一緒に行きましょう。」
「はい。」
エレベーターに乗り込み2階のボタンを押した。
トレーニングジムでは奈美恵さんと沙織さん愛菜さんが、遠藤さんといろんな器具を使ってトレーニングをしていた。
「あら栞ちゃんと麻衣さん。トレーニング?」
「はい。私たちもまぜてください。」
「すみません。私もトレーニングを。」
「一緒にしましょう!」
愛菜さんが私の背中を押してトレーニングジムの奥へと連れていく。
「ああ二人も来たんですか? 」
遠藤さんが汗を流しつつルームランナーで走っていた。
「隣・・いいですか?」
麻衣さんがすぐに遠藤さんの隣のルームランナーで走り出す。
《なるほど・・そうか・・じゃあ私も!》
「反対側使っていいですか?」
「どうぞどうぞ!栞ちゃんもストレス発散かい?」
「遠藤さんもですよね?」
「本ばかり読んでいても滅入るのから。」
「同じです!」
いつものような会話をいつものようにしているが・・私の心の中はいろんな思いが渦巻いていた。
とにかく遠藤さんと麻衣さん、私が一心不乱にルームランナーで走り続けるのだった。
「体を動かすのっていいもんですね。」
「だね。」
どうやら遠藤さんはいつもの遠藤さんに戻っているようだった。
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