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第75話 第1期受精者 ー長尾栞編ー

遠藤さんに子作りする事を決心させた。


そのうえで私たちはその先の問題を話し合いすることとなったのだ。


妊娠中にも私たちの生活は続く。


医療やライフラインも自前でやらなければならない以上、この話し合いはとても重要なものになる。


デリケートな話も混ざるので、女性陣だけで集まって話をしているのだった。


遠藤さんには申し訳ないが席を外してもらっている。


「もうすぐ年が明けますね。」


「ええ未だに生存者は訪れてこないみたい。」


私と華江先生が話している。


「強盗なんかも現れないし安全とみていいんでしょうか?」


沙織さんが不安げに言う。


「いや断定はできないですよね・・状況も状況ですし、そうなると皆が妊娠するわけにはいかないんじゃないでしょうか?」


あずさ先生が言う。


「確かにそうですよね。身動きが出来る人が遠藤さん一人だけなんてさせるわけにいかないです。」


愛菜さんが意見をした。


「あとは皆さんの気持ちですよね。遠藤さんだって決心したものの躊躇いもありそうだし。」


瞳さんが言った。


どちらかというと大人の人達が中心になって話を進めているところだった。


最年少の高校生二人も含めて、それぞれに思っている不安やリスクを洗い出していく作業をしている。


このまま進んでいって大丈夫な事とリスクをはらむこと、いつまで何をしなければいけないかなどの会議をしていた。


リスクヘッジのために、いくつかの案を検討して準備しておかなければならない。


話し合いの時間をかなり費やしてリスクの提示がなされていく。


私は書記をしていた。


ノートパソコンで皆が話している事を書き記していく。


・外的要因と内的要因。


・すぐに解決できることや時間がかかる事。


・常に必要な事やどうしても外せない事項。


私は皆が話す事をとにかくパソコンで急いで打ち込んでいく。


どちらかというとパソコンの打ち込みは得意なのでこの役割を買って出たのだった。


「朝から始めてもう正午になりました。おおよその話は以上でしょうか?」


あずさ先生が司会となって話をまとめる。


「まあだいたいはこんなところじゃないかしら?」


華江先生が言うと皆が頷く。


「では簡単に解決できることは項目には入れません。」


「はい。」


「今後は何か気が付いたら都度、話し合いをもちましょう。必要な時は全員を招集して話し合い、現場で解決できる事は事後報告という形でいいかしら?」


「いいと思います。」


あずさ先生がしきり皆が納得する。


全員で重要な項目を決めた。


決まった項目は以下の通りだ。


(外的要因)

ホテル及び病院の防衛体制について

強盗が出た場合の対応 

生存者救出についての決めごと

生存者がいた場合のケア

無線による呼びかけ及び救助の呼びかけの継続


(生活)

エネルギー問題

食糧問題

室内の農業の分担

家事全般について

技術的な能力の継承

物資回収の役割


(医療と育児)

医療体制

年齢問題

メンタルケア

子供を取り上げる人材

生まれた子供の予防接種や食事と育児


(研究と検証)

ゾンビウイルスと遠藤さんの細胞の研究

妊娠中の母体の細胞検査

生まれた子供の細胞の研究

ゾンビに対する効果の検証


「おおよその想定されるリスクとやるべきこと、そして頻度や具体的日時なども決まりました。」


「そうですね。」


「かなりまとまったと思います。」


「そろそろ本題にはいるのですが、その前にいったん昼食をとることにしましょう。」


「ええ・・」


「わかりました。」


「はい。」


「ふぅー」


この子作りと継続した暮らしの為の計画はほぼめどがついた。午後にまた時間をかけて話し合いがもたれる予定となっている。


「じゃあ遠藤さんを呼んできてお昼にしましょう。」


「私が呼んできます。」



私は遠藤さんの部屋に向かう。


コンコン


遠藤さんの部屋をノックすると遠藤さんが出てきた。


「会議は順調ですか?」


「はい。決定事項を遠藤さんにお知らせする予定ですので、今日一日は我慢していてくださいね。」


「みんなに大変な思いをさせているようで申し訳ない。」


皆がレストランに集まって昼食をとっていた。


お昼は乾麺をゆでたお蕎麦と魚の缶詰。


里奈ちゃんとあゆみちゃんの高校生二人が、息詰まる会議にそれほど食欲がわかないという事でお蕎麦に決まったのだった。


「みなさんすみません。会議は俺も混ざらなくてよかったですか?」


「いいのよ。遠藤君は気にしないで。」


「そうね・・そしてどちらかと言うとこれからの話の方が、遠藤君にはもっと聞きづらいと思うわ。」


華江先生とあずさ先生が遠藤さんに話をしている。


「わかりました。では決まったら教えてください。」


「もちろんよ。」


むしろ遠藤さんは一人だけ仕事をしていない事が気になっているらしい。


「もしあれなら・・遠藤さんは2階のジムに行ってもいいんじゃないですか?」


私が言うと遠藤さんもそれに同意した。


「そうさせてもらおうかと思います。俺が2階にいれば上階は安心していられると思いますしそうしてもいいですかね?」


「問題ないわ。」


「はい。」


皆が黙ってそばをすすっている・・なんか静かになってしまった。


きっと皆が遠藤さんの心中を考えているのだと思う。


別に彼をのけ者にしているわけではない・・ただやはり私たちにも気持ちと言うものがある。


どちらかというと女性は受け身だ。


そして午後からの話が凄く大切な事だった。


午後になり女性陣が集まって再度話を始める。


「午前中の話から考えてどうすればいいのかを考えましょう。」


あずさ先生の仕切りから始まる。


「えっと・・私が思うのは、生存するためには食料とエネルギーが最重要だと思います。」


麻衣さんが発言する。


「たしかに・・そうですよね。私もそれが一番かと思います。」


翼さんも同意見のようだった。


「そうよね。ただし食料やエネルギー物資の回収の時に妊娠した人を連れていくのは危険ですよね?」


麻衣さんが心配しているのは、グループが二つに分かれなければいけない事だった。


それもそうだ・・遠藤さんが一緒に出かけなければ物資の回収は危険だ。


ここに妊娠している人を残していくとなると残された人が危険にさらされる。


「それはそうよね。」


あずさ先生が言う。すると華江先生も付け加えるように話す。


「あと医療従事者が3人とも同時に身動きが出来なくなるのも避けなければならないわ。」


「そうですよね。」


優美さんがうなずく。


たしかに医療従事者は皆の健康や怪我、更には出産まで見てもらわなければいけない。


「特に私は外科医。皆の命を預かる責任があるのよ。」


「はい・・・」


皆が華江先生の気遣いにシン・・となる。


「あと私が考えるに・・」


瞳さんが話し出す。


「エネルギーや設備に関しては未華さんの知識無くしては無理よね。それらを数名で引き継いで出来るようになっておかないといざという時に困ると思う。」


「確かに・・瞳さんのいうとおりですよね。」


奈美恵さんが同意する。すると沙織さんがそれに対して話す。


「私はビル警備の会社でしたから多少の理解があります。私が最初に未華さんから継承するといいと思います。」


「確かに沙織さんなら、設備の配置やどこに何があるかなど知っていますから教えやすいですね。」


未華さんが沙織さんに教える方向で同意する。


「もし・・医療の事でしたら、奈美恵さんから看護の事など教えていただければ、何とか私でもお手伝いが出来るかと。」


麻衣さんは保育士だったから、人の面倒を見ることに関しては多少覚えがあるようで名乗り出る。


「あとは・・エネルギーの運搬についてですよね。」


翼さんが言う。


「大型を運転するのが愛菜さんと遠藤さんだけでは厳しいので、私も覚えたいと思うんです。」


「わかりました。ではタンクローリーを運転する際の注意点などお伝えしようと思います。」


愛菜さんが翼さんに大型の運転を教える事を同意する。


話し合いが続いて夕方になった。


そしてようやく方針が決まったのだった。


「行動に最低限必要な人数。防衛拠点を守るために武器を集める事。重要な要素を含む医療やエネルギーに関しての人材は最低2名ずつ置く。という事になりました。」


「はい」


「次に人員についての結果を発表します。」


「はい。」


「おねがい。」


「どうぞ・・」


「初期段階では試験的に3名が妊娠をする。安定期になるまでだいたい5カ月を目途とし、その後に再度選定された人が妊娠をする。全員が終わるまでは最短でも25ヶ月が必要。ただし順調にいった場合です。簡単に妊娠するとも限りませんし、予備の人員も考えて5名が妊活をするという事でよろしいですか?」


「異議はありません。」


「そのようにしましょう。」


「わかりました。」


「ただしこれからの安全確認や状況などによっては、早く進めていく可能性があるという事でよろしいでしょうか?」


「問題ないと思います。」


「おそらく今の段階では危険は無いと推測されますよね。」


「もし遺伝細胞がゾンビに有効なら早めたほうがいいでしょう。」


臨床試験のスケジュールがだいたい決まっていくのだった。


最初に妊娠”できない”人材が決まった。


・最初に華江先生は医療従事者としてマストで残る事が決定した。


・もちろん麻酔科医のあずさ先生もそれに付随して妊娠しない事になる。


・未華さんも仕事を伝授して沙織さんが出来るようになるまでは残る。


・愛菜さんは翼さんに運転技術などをマスターしてもらうため残る。


・奈美恵さんは麻衣さんに看護の仕事を教えるために残る。


以上の8名が最初に妊娠できないグループとなる。この人たちが第2期以降での妊娠グループと決定した。



あとは拠点に残る人を防衛する役割の人が3人は必要だったが、妊娠しない人たちが兼任でそれを行う事となった。


最初に妊娠する候補は現在5名。


私(長尾栞)あゆみちゃん、里奈ちゃん、瞳さん、優美さん。


決まったところで里奈ちゃんが言う。


「あの・・わたししたことないんです。不安で仕方ありません。」


「そうよね。あゆみちゃんは大丈夫?」


「えっと、私はあります。」


結局処女で高校生の里奈ちゃんは除外された。


どうしよう・・私は言えなかった。


里奈ちゃんより2歳も年上だ・・


だけど私も・・経験が無かった。


でもこんな大変な時にそんなことを言ってる場合じゃないと考えて・・


「じゃあそう言う事で決まりですね。」


私はあえてこれで会議を切り上げてもらう事にした。


《いまは言える雰囲気じゃない。大丈夫・・きっと遠藤さんが何とかしてくれる。》


希望的な思いを抱いて会議を終えた。

次話:第76話 高橋優美さんが行く

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