第73話 重要ミッション ー長尾栞編ー
攻略パーティーの出番はいよいよ・・私たちにまわって来た。
奈美恵さんの後に瞳マネージャーがタレントの気分を持ち上げるかのごとく、遠藤さんをだいぶヨイショして気分良くさせていた。
「ほんと、俳優さんにもなれそうよ。遠藤君は。」
「そんな・・俺に俳優なんて・・」
おだてられても今までの流れがあり、テンションが上がっている様子でまんざらでもなさそうだった。
そんな中で翼さんが動く。
翼さんは・・・あまり男性とお付き合いした事が無いそうだ。
畑部未華さんも地味目な見た目通り、男性との交際経験が無いに等しいと言っていた。
そして私だ・・唯人君とはそれほど深い関係になった訳じゃない。
ようは・・男性経験なしトリオという事だ。
しかし・・優美さんはそれがいいのだと言っていた。遠藤さんはその方がいいという優美さんの勘だった。
3人はそれを信じて動く。
「あの遠藤さん楽しいですね。」
「はい。こんな楽しいクリスマスは生まれて初めてです。」
「私も!」
ミニスカサンタの翼さんは素で楽しそうだった。
「そうだ!俺そろそろプレゼント配ろうかなと。」
「あ、手伝いますよ!」
「あはは、サンタの夫婦みたいですね。」
「ホントだ。」
「はい翼さんにはこれ。」
「え・・ありがとう。」
ホワイトのヘッドホンとポータブルCDプレーヤーだった。すでにインターネットも動いていないため音楽を聴くにはCDプレーヤーが必須だったのだ。ホワイトのヘッドホンがかわいい。
そう。翼さんは音楽も好きだしゲームをするときはいつもイヤホンを着けていた。きっと遠藤さんはそれを見ていたのだろう。
翼さんはサンタクロースの帽子を取って白いヘッドホンをつけてみる。
「すごい・・周りの音が一切聞こえてこない。」
遠藤さんがCDプレーヤーに繋いで電源をつけてあげる。
「え・・凄い音がいい。臨場感があります!」
「これは周囲の音を完全カットして凄い音質が良いと評判のヘッドホンなんですよ!」
翼さんが凄く喜んでいた。ヘッドホンを外して遠藤さんにお礼を言っている。
「ありがとう・・」
二人はいい雰囲気になった。
男性経験なし3人組はただ遠藤さんの言うとおりに動き始める。
遠藤君はみんなにプレゼントを配り始めた。
「私も手伝います!」
「私も」
私と未華さんが遠藤サンタの手伝いをする。
「可愛いトナカイさんだこと。」
華江先生が言う。
そして遠藤さんは里奈ちゃんにプレゼントを渡す。
「あー!うれしい!私が欲しかった獣ハンティングワールドの森だ!」
里奈ちゃんがゲームソフトをもらって喜んでいた。
「喜んでもらえてうれしいな。」
「遠藤さんも一緒にやりましょー!」
「ああ、やろうやろう。」
遠藤さんが進化している!いつの間にか女子高生には敬語をやめたようだ。というかだいぶほぐれてきた感がある。
華江先生の所に来た。小さい箱に入っているようだった。
「え?いつの間にこれを!?」
「どうです?」
「うれしいわ。」
どうやら腕時計のようだった。
「やっぱり!よかったです。」
「カルドーレックスの時計じゃない!よく私の好きなブランドまで・・」
「華江先生の家でチラッと見たんです。」
「ありがと。」
先生は腕時計をつけて見つめていた。ダイヤがちりばめられた綺麗な腕時計だった。
次に優美さんの所に行く。
「あの・・いろいろ迷ったんですけど。」
「えーなにかなあ?」
「はい。」
「わあかわいい!」
優美さんに渡したのはアクセスタンドとジュエリーボックスだった。
こんな世界でも優美さんはアクセサリーをたくさん回収していたから、それを綺麗に見栄えよく収納するためのピンク色のスタンドと水色のジュエリーボックス。
「よく見てくれてるんですね・・遠藤さん。ありがと!」
優美さんは素直に喜んでいるようだった。
全員にひととおり配り終えて最後に私と未華さんの所に来た。
最初に未華さんに渡したのは小さな箱だった。
「これ・・どうかな。」
「え・・よくわかりましたね。」
「いろんな百貨店に行った時にこっそり嗅いでいたんです。やっとみつけました。」
それは未華さんがいつもほのかに香らせている香水・・エルムスのマイルの庭だった。
「すごい・・ありがとうございます。うれしい。」
まさかの自分の好きな香水を当てられたことに滅茶苦茶感動しているようだった。よっぽど
確かにこんなこと見てくれていないと分からない。
遠藤さん・・すごいかも・・
そして私の番だった。
「栞ちゃんにはこれ。」
それは・・本とブックスタンドとブックマーカーだった。
「この本・・”カルルとお月さま”・・タカオ・イサシロの。」
なぜだか涙が出てきた。
本当に最初に遠藤さんに出会った時に話していた読んでみたい本。
そして読むときに首が疲れると話していたから・・読みやすいようにブックスタンド。
角度も調整できて本の開きも調整できるものだった。
「栞ちゃん読みたいって言ってたから。首も疲れるってね。」
「うん・・うん・・」
周りをみたら・・みんなが泣いていた。
ぽろぽろぽろ
華江先生が・・あずさ先生が、奈美恵さんが、愛奈さんが、里奈ちゃんが、あゆみちゃんが、沙織さんが、翼さんが、優美さんが、未華さんが、麻衣さんが、瞳さんが・・・
・・そして私が・・遠藤さんの心遣いに泣いていたのだ。
こんな究極の世界に生きるのが精一杯だったはずなのに、私たちが欲しいものをきちんと知ってくれているこの人の優しさに涙を流していた。
私と未華さんはつい衝動的に遠藤さんにしがみつくように抱きついていた。
「ありがとう・・ありがとう・・見ていてくれてありがとう・・」
「私の言った事、覚えていてくれてありがとう!本当に素敵な人・・」
遠藤さんはちょっとドギマギしながらも、私たちに抱かれるままにそこに立っていた。
皆が感動していた。
感動に打ち震えながら・・
思い出した!!優美さんからの指示を!!
もう少しで忘れるところだった。
「あの・・遠藤さん・・作りましょ・・私たちの。」
「え。」
「未来のために。子供を・・」
「・・・・・はい。やります!それがみんなで生き延びる道なら。」
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