第72話 パーティー本番 ー長尾栞編ー
そう・・無事に遠藤さん攻略クリパが始まったのだ。
遠藤さん攻略パーティーは全て、優美さんが仕組んだシナリオに沿って進めていく手筈になっている。
きらびやかにクリスマス一色に飾られた高層ホテルの展望台は、外の荒廃したゾンビの世界など忘れてしまうようだった。
「じゃあいくわよ!」
シュポン!
華江先生がシャンパンの蓋を開ける。
華江先生は脚立の上に立ってシャンペンタワーにピンドンをそそいでいく。
脚立に立った華江先生のスリットからのぞく綺麗な足がみんなの目の前に来る。
一番上から順番にグラスがシャンペンに満たされて、キラキラと綺麗に輝いていた。
華江先生のスリットからのぞくスラリと伸びた長い足が、妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「わーっ!」
「イエーイ!」
パチパチパチパチ
皆が拍手をしてシャンペンタワーを眺めている、何本も開けてどんどん注いで全部のグラスがなみなみに満たされていった。
みんなでシャンペンタワーを囲んでワイワイと談笑を始めた。
「じゃあいただきましょう!高校生の二人はどうする?」
「私たちはジンジャーエールにしまーす。」
「私もお酒は飲んだことが無いので・・」
「1杯くらい大丈夫じゃない?」
あずさ先生がいう。
「そうね・・いやじゃなければ。」
瞳さんも許可を出す。
「えっ?どうしよう。じゃああゆみ!一口だけ飲んでみようよ。」
「じゃあ飲んでみます。」
「まあほんとに一口だけ。」
一人一人グラスを取っていく。
「俺ピンドンなんて初めて飲みますよ。」
「私もですー。」
「私も―」
「実は私も。」
遠藤さんと私と未華さん愛菜さんが言う。
医者の先生方は高級レストランで
瞳さんは映画の打ち上げなどに参加した時に
優美さんはパパ活で
麻衣さんは彼氏とデートで
ピンドンを飲んだことがあるらしい。
グラスの中の赤みがかった琥珀色の液体に、細かい気泡がたちすごく綺麗だった。
「では!メリークリスマース!」
あずさ先生の掛け声でみんなが乾杯をする。
チン!
チン!
私も軽くグラスを合わせて飲んでみる。
フルーティーな香りでさっぱりとした味わいだった。微妙な炭酸も美味しい。
「おいしい。」
「でしょ?」
「いろんな料理にあいそうですね?」
「そうそう!合うのよーこれが。」
みんなでピンドンの感想を言いながら、高校生二人にも感想を聞いてみる。
「里奈ちゃん。お酒はどう?」
「えーっと。ジンジャーエールの方がいいかな。」
「そうかー。まだお酒は早いよね。」
「私も苦手かも。」
里奈ちゃんあゆみちゃんコンビは早々にお酒をやめて、ジンジャーエールを飲み始めた。
「じゃあいただきまーす!」
あゆみちゃんがフライドチキンに手を伸ばす。
カリッ
「うわっ!チキンおいしい!意外にジューシーですね。」
「もちろん・・市販の粉の力よ!」
「ふふふふふふ」
「あははははは」
私の正直な答えに二人の女子高生は笑った。
そんな私たちをしり目に・・
「遠藤さぁーん。」
おお・・早速、優美さんバニーガールが仕掛けている。
「飲んでますぅ?」
遠藤さんの肩に腕を回して言う。
「ええ、飲んでますよ。」
「はい、お代わりのグラス。」
「ありがとうございます。シャンペンも美味しいですね。」
「ですよねー。」
するとその反対側にはさらに料理を盛り付けたミニスカサンタの麻衣さんが座る。
麻衣さんは足を組み、遠藤さんの前に惜しげもなくミニスカの足をさらす。
「どうぞ!みんなで作った料理ですよ。」
「ああ、ありがとうございます。」
「どうです?」
「うまいです!」
二人にちやほやされながら遠藤さんが料理を食べていた。
しばらくは歓談を続け、和やかなムードになって来た。
「遠藤さーん。」
新星の様に現れた天使すぎる女優の里奈ちゃん。どうやら女優スイッチが入っているようだ。
空気を読んで優美さんバニーガールと麻衣さんミニスカサンタが、スッとその場を離れた。
里奈ちゃんはうるうると上目遣いに遠藤さんを見ながら微笑む。
「私たちがぁ作ったケーキぃ食べてくださいよぉ。」
めっちゃかわいい。
「ああ!食べる食べる!俺!甘いのも好きだし!」
そして女優になった里奈はお皿にケーキを盛り付けた。
「じゃあ。」
遠藤さんがフォークを取ろうとすると、里奈ちゃんが指で遠藤さんの唇にノンノンと人差し指で遮る。
「こうしてぇー。あーん。」
ごく自然にすーっと目の前にケーキの刺さったフォークを突き出されて、遠藤さんは自然にそれをパクっとやってしまう。
「おいしぃ?」
「う、うん。お、美味しいよ!」
おおお!さすが女優。やりおる!!!
するといつの間にか反対側にやってきていたあゆみちゃんが言う。
「えーっ、私のも食べてくださいよ。」
「あ、あの自分で・・」
「えー、里奈のは食べたのにぃ?」
「た、たべるよ。」
スッと目の前に差し出されたケーキに思わずパクっとやる遠藤さん。
うるうる目で女優、里奈ちゃんが話す。
「遠藤さんって凄い勇気がありますよねー。私たちはどれだけ救われたか。ヒーローって案外こういう普通の人なのかもしれないって思うんです。」
「ヒーローなんかじゃないけどね。」
「いえ。普通の男の人より前に出て歩いて行く感じが素敵だと思います。」
「ありがとう。」
「いつも、あゆみといいなぁって言っていたんですよぉ。」
「そうかな・・照れるな。」
二人の高校生に良いようにやられている遠藤さんの所に、愛菜さんと沙織さんが近寄って来た。
「どうですかぁ?私たちのピザ」
「ああうまいっすよ。」
「遠藤さんが喜んでくれるならうれしいなぁ。」
「沙織さん?酔ってます?」
「ほんの少しだけぇ。」
二人は少し絡み酒っぽくなって遠藤さんに近づいた。
高校生コンビは二人にバトンタッチしてその場所を自然に離れて行く。
「さあさあー。お酒のみましょうよぉ。」
「ビールにしますぅ?」
「じゃあ、俺ビールもらいます。」
プシュ!
「缶ビールでごめんね。」
愛菜さんがゆっくりとビールをグラスに注いでいく。
「でもキンキンに冷やしておいたからおいしいはず。」
遠藤さんはビールをごくごくと飲んだ。
「ぷはぁ!うまい!」
「ピザやポテトにはビールですよね!」
「わかります!やっぱうまいわぁ。」
「私も飲んじゃおうっと。」
沙織さんもぐびぐびとビールを飲んだ。
「おいしぃー!!」
「ですよね!」
なんだかお友達同士の様に3人が話し出す。どこか会社の同僚の飲み会のようにも見えた。
遠藤さんもざっくばらんに話しだしているようだった。
愛奈さんと沙織さんも、ミニスカから出た膝を遠藤さんに向けるように座っている。
《二人の距離も近いな・・》
腕を絡めたり膝に手を置いたりしながら話をしている。
料理も半分くらい無くなってきたころ、大人たちが最後の仕上げに入るうようだ。
遠藤さんの所に華江先生とあずさ先生がやってくる。
「ロマネ開けちゃおうかなって思うの。遠藤君も飲む?」
「えっ?飲んでみたいです。」
華江先生が遠藤さんに高級ワインを勧めてみる。
「これ・・この前行った高級レストランのセラーにあったのよ。」
「このワイン凄いものなんですか? 」
「ええ、1971年は当たり年よ。おそらく1本400万円くらいするかも。」
「そんなに?」
「ええ。」
「遠藤くんは飲んだことないんですよね?」
あずさ先生が反対側から聞く。
「もちろん!そんな高いもの飲んだことないですよ。というかワインの味がわからないですけど。」
「あら、じゃあ丁度いいじゃない。高いワイン知るいい機会かも。」
そしてあずさ先生がワイングラスを遠藤さんに渡して、華江先生が上品に注ぐ。
「少し回して香りをかいでみて。」
華江先生が遠藤さんのワイングラスを持つ手に手を添えて、ワインを回すように教える。
「うーん、ワインの匂いです。」
「ふふっ。かわいいわね、じゃあいただきましょう。」
「かんぱーい。」
3人は舌で転がすようにワインを口に含んだ。
「ああ・・おいしい。」
「はは、俺には味が分からないです。でもこれが高いワインかあ。」
「ええ、遠藤君とこんなお酒が飲めるなんて楽しいわ。」
「私も。」
いつのまにか華江先生とあずさ先生の手が遠藤さんの太ももに置かれている。
するとスッと遠藤さんの首の後ろから奈美恵さんが腕を回してきた。
あのビックリするほどのおっぱいが遠藤さんの後頭部に押し付けられていた。
「遠藤さんと先生達だけで、ずるいですよぉ。」
「あら、奈美恵さんものむ?」
「いただきますぅ。」
「じゃあ俺が注ぎますよ。」
「いいんですかぁ?」
そして奈美恵さんが遠藤さんと向かい合ってワイングラスを重ねる。
チン!
「かんぱーい。」
正面に座る奈美恵さんの胸の谷間が・・遠藤さんの眼に映っているだろう・・
とにかく驚くほどのダイナマイトボディから目をそらせるわけがない。
「私も、高ーいワインなんて私も飲んだことないから。」
「そうですよね。」
いつの間にか華江先生とあずさ先生はその場からはけていた。
遠藤さんは奈美恵さんと二人でお酒を飲み始める。
その時・・私と翼さん未華さんの3人はドキドキしていた・・
もうすぐ出番が来るからだ。
なぜにトリに男性経験の少ないこの3人を、とにかく優美さんの考えた作戦を遂行するだけだった。
《優美さんが仕組んだ計画に狂いはないはず。それを信じて頑張ろう。》
そう決心するのだった。
次話:第73話 重要ミッション.