第70話 遠藤盛り上げ作戦 ー長尾栞編ー
それからまた数ヵ月が経った・・気温も下がり秋から冬になりつつある。
《来月はクリスマスか・・》
私は唯人君とのクリスマスを思い出す。
騒動が始まってから激動の数ヶ月だった。
もう12月になる・・クリスマスが近づいても都会は暗黒に包まれていた。
すでに街からは光が無くなった。
いま私達がいる高層ホテルの屋上には、ソーラーパネルを一面に設置しそこからも電気を取るようにしていた。また軽油のポータブル発電機もかなり集めてある。壊れてもいいように各地のホームセンターから30台も回収した。ガソリンスタンドではまだ軽油が取れるためこれも併用して使っている。
ガスタンクのストックはまだまだ大丈夫だが永遠ではない。そのためソーラー発電や軽油発電機も併用で使うようにしていたのだった。
夜には高層ビルの最上階の展望台に定期的に光を灯らせ、周囲にいるかもしれない生存者に知らしめようとしているが、周りにも高層ビルがあるため遠方からは気づき辛いかも知れなかった。
未だにここを訪れる生存者はいない。
素人の私達に出来ることは、このあたりが限界なのかもしれなかった。
「キレイですね。」
「そうね。」
「気分が明るくなります。」
「これでプレゼントがあればなあ。」
「好きなだけ物はいくらでも手に入れられるじゃない?」
「確かに、物だけはたくさんあるわよね。」
私達は展望台にもみの木の鉢植えを持って来た。
もみの木にイルミネーションをこれでもか?と言うくらいつけて、展望ルームの壁にもイルミネーションを張り巡らした。
それを点灯させて14人全員で周りを囲んで話していたのだった。
私はまた唯人君との去年のクリスマスデートを思い出していた。
《あのときもっと進展させていたら・・》
しみじみと思ってしまう。
みんながそれぞれ思いに耽るようにクリスマスツリーを眺めている。
「俺、クリスマスを家族以外の女性と過ごすの生まれてはじめてです。」
あ・・遠藤さんが女子の話に混ざろうとして、彼女いない歴イコール年齢・・の爆弾発言。
みんな優しく気がつかないふりをしてあげていた。
そのかわりの沈黙が流れる。
・・・・・・・・・・・・・・
「あ、あの。飲食店に家庭菜園はナイスアイデアでしたね。」
私が話題を切り替える。
「そうね。食べるところに緑があるっていいわよね。」
「どんどん増やしていきましょう。」
遠藤さんがさっきの不用意な発言を取り消そうとしている。
「そうですよね!次は何を植えますか?」
「ミニトマトとか?」
「いいですねー」
みんなこの暮らしの不安は大きかったが、それを口にする事はない。
それを言っても始まらないからだ。それより建設的な話をするように心がけていた。
「外は寒そうですね。」
「本当よね。暖がとれるだけでもありがたいわ。」
「星が更にキレイに見えるようになった。」
「ほんと、人間がどれだけ汚して来たかってところですよね。」
当たり障りのない話をしながら女性陣は待っているのだった。
もう数ヶ月も・・
実はしばらく遠藤さん細胞増殖子作り計画の話は頓挫していた。本人の気持ちが無ければ難しいからだ。
しかし・・それほど皆にも余裕があるわけではない。遠藤さんもそれを重々わかっているからプレッシャーになっているようだった。
彼女いない歴イコール年齢・・おそらく会話をしながらも遠藤さんの発言がみんなの頭の中を回っていた。
会話に身が入っていない。
気晴らしのクリスマスツリー。
みんなただそれを眺めるだけだった。
「来月24日のイブにパーティーしましょうよ!」
明るく里奈ちゃんが言う。
「私も賛成!」
「ケーキ作りましょうよ。だって本格厨房もあんなにあるんですよ。」
あゆみちゃんと里奈ちゃん女子高生二人組が場を盛り上げようとしてくれている。
「いいねー!フライヤーがあったし、真空パックの冷凍鶏肉の消費期限はまだあるから、フライドチキン作りましょうよ!」
「賛成!フライドポテトも揚げちゃおう!」
私と未華さんも話にのった。
「私!生地を練って、トマト缶と真空パックチーズと真空パックベーコンでピザ作ります!」
「トマトパスタもいいですよね。私も作りますよ。」
真下さんと奈美恵さんがのってきた。
「ピンドンとロマネも開けちゃいましょ?」
「賛成!景気よくやりましょう!」
華江先生とあずさ先生もノリノリになってきた。
「サンタコスプレしましょうよ!」
「もちろんミニスカでね!」
「いいねー」
翼さんと真衣さん色白美人コンビがのってきた。
「私バニーガールしちゃいまぁーす。」
優美さんがイケイケになってる。
「クラッカーとかも用意しないとね。」
「そうそう、キャンドルもいるわね!」
「ケーキ何種類も作ったらよさそうね。」
「楽しみ!」
沙織さんと愛菜さんも楽しそうに話している。
皆がクリスマスの準備をあれこれ話はじめた。
ガヤガヤと展望台がにぎやかになって凄くいい雰囲気に包まれていく。
窓ガラスに映るイルミネーションが暖かく皆を包み込むようだった。
「じゃあ、俺はサンタクロースですね。」
「ええーいいんですかぁ?」
優美さんが明るく聞いている。
「皆と一緒にいろいろ回っているうちに、趣味や好きなものが分かってきたんです。」
「え!凄い凄い!」
麻衣さんも驚いていた。
「遠藤さんってすごく思いやりあるんですよね・・」
私が言うと皆が頷いた。
「男の人って身勝手なイメージありましたけど、なんかいいなぁって思います。」
あゆみちゃんが素直に遠藤さんを好んでいるらしかった。
皆もしみじみと同意している。
そして・・皆の頭の中では同じことを考えていた。
決戦はクリスマスイブ
と。
気がつけば70話ですか・・ここまでお付き合い下さいましてありがとうございます。女達が一致団結し始めました!さて遠藤君はどうなるのでしょうか?
ブックマークもびっくりするほど増えて涙しています。本当にありがとうございます!相変わらず高評価くださり感謝でいっばいです!
次話:第71話 決戦のクリスマスイブ