第67話 コージェネレーションシステムを動かせる人 ー長尾栞編ー
遠藤さんからみんなに提案があった。
とにかく・・子供つくりの前にもっとする事があるのではないか?
という事だった。
そのことをリビングでみんなで話し合っていた。
「というわけで、俺はもう少し行動範囲を広げていくのがいいと思うんです。」
「まあそうね。この周辺ではもう人はいなそうだしね。」
「ええ。というわけで拠点を作るべきだと思うんです。」
遠藤さんは自分の能力を使って、子作りの他に出来る事をやりたいらしい。
「確かに・・ただここにはラボがあるわ。それにこの人数でも暮らせる環境もある。」
華江先生の言うとおりだった。ここに居る人数が暮らせるだけの環境がここにある。
「俺が思うに、これから人を助けていけばここでは手狭になると思うんです。もっと広い施設などを拠点にする方がいいと思います。」
「遠藤さんのいう事はわかりますが、その拠点を探すのも危険が伴いませんか?」
翼さんが言う。
「翼さん、現状それは大丈夫だと思うわ。かなりの変異種に対して遠藤さんの精子が有効な事が確認できている。おそらく遠藤さんと居る限りはゾンビを心配することは無いでしょう。」
華江先生が確信をもって答えた。
「あの・・・」
すると2週間ほど前に助けた畑部未華さんが口を開いた。
「私は施設管理の仕事をしていました。あの・・グランドコンチネンタルホテルにも一度仕事で行った事があるんですが、ガスタービンを利用したコージェネレーションシステムを動かせれば自家発電できると思います。」
「えっ!あのホテルに自家発電があるんですか?」
「はい・・ですが燃料を補給しないといけません。」
「じゃあ燃料を探せばいいという事ですか?」
「まあそうなります。」
遠藤さんと未華さんが話を進める。
「あのガスの入手ならば私の勤めていた警備会社が入っていた会社に、株式上場の大手ガス会社がありました!大手なのでLPガスのタンクローリーが数百台あったと思いますが・・」
ビルの警備会社の事務をしていた沙織さんが言う。
「おお!ではそこでガスを入手できますね。」
「それであれば、私がある程度の事は出来ると思います。」
未華さんが言うと遠藤さんが意気揚々と話し始める。
「よし!それじゃあ決まりじゃないですか?」
「ですね!」
私も元気そうな遠藤さんを見て嬉しくなって同意する。
すると華江先生もその話に乗ってくる。
「えっともしかしてだけど、セントラル総合病院にもそのシステムあるわよね?」
「はい確かあったと思います。」
あずさ先生が答えた。
「という事は・・病院設備が動かせるかもしれないという事ですか?」
「もちろん、電源が復旧すれば研究施設が使えるわ。」
「一気に展望がひろがりますね。」
華江先生とあずさ先生の顔にも光がさしている。
「実行するのは明日の早朝からという事でどうでしょう?」
賛成!!!!!!!
皆が同意した。どうやらエネルギーの供給問題は当分心配いらなくなりそうだった。これはかなり大きな進展だった。
次の日の朝になり全員がマイクロバスに乗り込む。
皆デニムパンツやブルゾンを着て動きやすい恰好をしていた。全員スニーカーを履いて髪もキリリと結んでいる。
華江先生宅から大手ガス会社までは結構時間がかかった。湾岸沿いにあるため車をよけながら来るのに時間がかかったのだ。
「タンクローリーの運転は俺がやってみます。」
「大型特殊とか持ってるんですか?」
「ないです。」
「じゃあ私の方がいいと思います。」
愛奈さんが言う。
「バイク便のメッセンジャーだったんじゃないですか?」
遠藤さんが聞くと愛奈さんが答える。
「ああ、つぶしが効くと思って大型の免許を持ってるんです。」
「ええー!すごーい!」
「本当に・・女の人ではめずらしいですよね。」
「頼もしいわ。」
「それほど大したことではありません。ただタンクローリーを運転したことが無いので不安はあります。」
「俺も助かりましたよ。内心どうしようかと思っていたので。」
湾岸のガスタンクが並んでいる会社の前についてみると、門も空いており守衛室などのガラス窓が割れているようだった。
そこいらじゅうに血痕がついていて不気味だった。
「ここも・・ゾンビに・・」
「そのようね・・」
会社の敷地内には普通に入り込めた。
マイクロバスで進んでいくとタンクローリーが並んでいるのが見える。
おそらく出発する予定だったものなどが放置されているようだった。急なゾンビの暴動で人々が逃げたのだろう。
「あの・・車体にLPガスとかLPGって書いてある車です。」
未華さんが言う。
「わかりました。」
「何台かあるようですね!」
「とりあえず一台見てみましょう。」
「はい。」
愛菜さんと遠藤さんがタンクローリーに乗り込んでいく。
「どうですかー?」
私が聞くと愛奈さんが大きな声で答える。
「キーがつけっぱなしです。これなら持っていけるかも・・」
「他にもあるか見てみましょう!」
遠藤さんが言うのでみんなでそれぞれ乗り捨ててある、LPガスと書いてあるタンクローリーをみる。
結局10台以上のLPガスタンクローリー車が放置してあった。
未華さんが言うには、ガスタンクから補給できれば何度も使えるだろうとの事だった。
「じゃあこれを持っていきましょう!」
最初に見つけた1台のタンクローリーに愛菜さんが乗り込む。
「・・道を空けないといけないですよね?」
「そうですね・・。」
道に乗り捨ててある車が邪魔で通れないところは車で押して避けるしかなさそうだった。
「すぐ近くに大型バスが乗り捨ててあったんですよ!俺がそれで車をよけていこうと思うんです。」
遠藤さんは来る途中で確認していたようだった。
タンクローリーとマイクロバスでその大型バスの所に行く。すると乗車ドアが開いたバスが乗り捨ててあった。
遠藤さんがそのバスに乗り込んでいく。
「よし!鍵が付いてるようです!バッテリーはきてるようですが・・」
チュチュチュブーン。
「エンジンがかかりました!」
遠藤さんが大型バスで車を蹴散らして進み始める。
先頭の大型バスに遠藤さんと翼さん。
最後尾のタンクローリーに愛奈さんと沙織さん、残りは全員真ん中を走るマイクロバスに乗っている。
私たちはマイクロバスの中であることについて話していた。
「なんか遠藤さんってハンドル持つとワイルドになりますよね?」
私が言うと、みんながコクリと頷いた。
「ワイルド・・ほんとね・・」
そのワイルドさが・・なぜ女子と一緒に居る時出ない!!
皆が同じ気持ちだった。
次話:第68話 ホテルに暮らす ー長尾栞編ー