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第62話 二つの命 ー長尾栞編ー

ジムでトレーニングをした後で全員がシャワー室にむかう。


シャワー室は長く使われていなかったせいで乾いた感じがした。


「これ、水出ますかね?」


「以前立てこもっていた時は上階の水道は出ましたよ。」


遠藤さんに真下さんが答える。


「ポンプとか止まってるんじゃないかしら。」


華江先生がいう。


「電気止まってますもんね・・」


遠藤さんがぽつりと言う。


そう言われてみるとそうだ。上階の貯水タンクにすでに水がないかもしれない。


「使われていなければ出るんじゃないですかね?」


「とりあえずひねればわかりますよ」


私が言った。


水は・・・


出なかった。


「やっぱりだめみたいね。」


「もうポンプが動いてないんだわ。」


「仕方ないですね、家に帰って浴びましょう。」


「ですねー。」


優美さんの返事を聞いてみんながジムの出口へ向かった。


電源が入らないと高層ホテルは機能しないだろうし・・どうしようもないと思う。


私たちはジャージを着てホテルを出ようと廊下に出た。


その時だった。



ガサッ



「えっ!?」


「いま・・音がしませんでした?」


私が驚くと、一緒に居た奈美恵さんも気が付いたようだった・・


「まさか・・もしかしたら・・ゾンビ・・・?」


あゆみちゃんが青い顔をして言う。


優美さんもこわばった顔で言う。


「え、怖い・・無理・・ゾンビなんて。」


「優美、まだゾンビと決まった訳じゃないわ」


「でも翼さん・・・ 」


後ろから華江先生が近づいて来て私に聞く。


「本当に何か聞こえたの?」


「はい確かに私たちの足音じゃないと思います。物音が・・そうですよね奈美恵さん。」


「ええ、聞こえた。空耳じゃないはずです。」


「でも遠藤さんがいれば・・ゾンビは。」


里奈ちゃんが言うが、華江先生がその意見に待ったをかける。


「里奈さん・・遠藤さんの細胞がゾンビウイルスを消滅させることはわかっているのだけど、全部のウイルスに効くとは限らないのよ・・」


「ということは・・俺がいても。」


「万が一があるわ。」


「ぶ・・武器を取ってきましょう・・」


みんなでジムに戻りダンベルや消火器をもって戻って来た。


「じゃあ・・行きましょう。」


遠藤さんについてみんなが息をひそめて歩いて行く。



音がしたのは階段の方だった。


《・・階段・・また暗いあそこを歩くのか・・でも今回は懐中電灯も持ってきてるし大丈夫・・》


みんなで恐る恐る1階への階段を下り始める。


全員が1階の階段の踊り場についたときだった・・


トタトタトタトタトタ!


「きゃっ!!」

「えっ!」

「足音?」

「ですよね・・」


どうやらさらに下の階・・地下に向かって足音が聞こえた。


今回の足音は全員が聞いたようだ。


「ゾンビにしては足音が速かったような気がしない?」


「そうですか?」


「そうか・・遠藤さんと栞ちゃんはゾンビの歩く音を聞いた事無いんですよね。」


「はい・・」


「もっとゆっくりで、ズズズズ、ズリズリって感じの音。」


「ほんとそれです。怖い・・」


「という事は誰か生存者がいるんじゃないんですか?」


「そうかもね。」


「俺についてきてください!」


全員で少し早い足取りで階段を下っていく。


2階から足音を追って、地下2階まで降りて来ると自動ドアが見えてきた。


近づいてみると自動ドアはほんの少し開いていた。


暗い中で懐中電灯に照らされる半開きの自動ドアは恐怖でしかなかった。


しかしみんなで進んでいく。


「あそこが・・開いてます。」


「あの先は?」


「あそこからは地下駐車場ですよ。」


瞳さんが言った。


「里奈とこのホテルに入館する時には、追っかけ対策で必ずこの地下駐車場から入ってましたので。」


「ああ、なるほど。そうか・・」


《でも・・地下駐車場にさっきの足音が消えた?どういうこと?》


パタパタパタパタパタ


《また聞こえた!》



「行きましょう!」


みんなで駐車場の奥まで足早に移動する。


すると照らしていた懐中電灯の明かりの中を何かが横切った。


サッ


「いま・・誰かいました!」


あゆみちゃんが見つけたようだった。


さらにみんなが遠藤さんの近くに固まって進んでいく。


車もまだ普通に置いてあるが・・たまにある血痕が恐怖を煽り立てる。



「あの呼びかけてみましょう!」


「そうね・・ゾンビならこんな風に逃げるという事はないわね。」


「そうですね。普通ゾンビは寄ってきますから・・」



「あの!助けに来ましたよ!私たちは人間です!大丈夫ですか!」



・・・・沈黙が流れる。



特に動きはない・・と思っていたら。



奥からスタスタと足音が聞こえてきた。


懐中電灯のライトの中に人が2人浮かび上がる。私たちが息をのんでいると・・


「あの!人ですか?」


むこうの懐中電灯の中に浮かんだ人から女性の声が聞こえてきた。



「そうです!俺達は人です!助けに来ました。」


それを聞いた二人はこちらに向かって歩いてくる。


見れば髪はぼさぼさで衣服は汚れていた。一人の女性にもう一人がしがみついているようだった。


「もう大丈夫ですよ!」


すると私たちの前に来た二人はペタンと座り込んでしまった。


髪ものびきって汚れて痩せていた・・あまりものを食べていなかったのだろうと思う。


遠藤さんが二人に近づいて行き、かがみこんで話しかけた。


「大丈夫ですか?歩けますか?」


二人はコクコクと頷いている。



みんなで近づいて、彼女らを抱きかかえようとすると女性は口を開いた。


「あの・・大丈夫です。歩けます・・」


彼女らはだいぶ風呂に入らずにいたのだろう。


・・臭いがした。


過酷な状況を生き抜いて来たのだと思う。


「私たちは協力しあって一緒に生きているんです。私たちと一緒に行きましょう。」


私が声をかけると、二人はうつむきシクシクと泣き始めた。


「ウッうぅっうっ‥」

「ひっくっ、ひっくっ・・」


「大丈夫です。もう大丈夫ですよ。」


「ぜひみんなで帰りましょう。食料も確保しています。」


二人は立ち上がってうつむきながら歩きだす。


私は女性の汚れた手を握り引っ張っていくのだった。


もう一つの手は翼さんが握っている。


少し小さい女の子の手を沙織さんとあずさ先生がひいてあげる。


また・・命を救う事が出来たのだった。

次話:第63話 汚れた体を洗い流す.

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