第61話 股関節ストレッチ ー長尾栞編ー
華江先生から大人の話を聞いて、それも遠藤さんのストレス解消になる事を知った。
私にそれと同じ事が出来るかは分からないが他にもいろんな方法がある。
まず私は出来る事からやっていきたいと思うのだった。
それから数日がたったある日。
先日決まった遠藤さんのメンテナンス項目を一つずつやっていくことになった。
スポーツ、トレーニング
読書
アニメ、映画
ゲーム
ショッピング
これで遠藤さんを満たすのだ。
しかも11人の女子たちのストレス発散になる事が含まれていた。
これから生きるために住居や食料とライフラインの事も考えなくてはならなかったが、遠藤さんのメンテナンスが優先順位1位となった。
そしてまずはスポーツとトレーニングをすることが決まった。
・・ジムがあるところ・・
瞳さんが言うにはどうやら有名なジムがあるらしい。
「ええと・・私たちが隠れていたグランドコンチネンタルの2階にあります。」
「そうなんですね。」
私はジムとかにあまり行った事が無いので知らなかった。
「ね、里奈。」
「うん。私は嫌々だったけどね・・」
「だってこの子食べるの好きなんだもの、動かさないとすぐに肉になっちゃって。」
「美味しいもの好きなんだもん!」
とにかく瞳さんが言うには、会員制のそこのジムに里奈ちゃんは良く行っていたらしかった。
ということで・・
全員がマイクロバスでグランドコンチネンタルホテルまでやって来た。
案の定。入り口は開いたままだったのでそのまま中に入る。
遠藤さん効果でゾンビは消えていた。
「もう・・なんて言うか慣れちゃいましたね?」
私が言うとあずさ先生が答える。
「遠藤君がいればゾンビでないからねー」
「こんなに警戒を解いていいんでしょうか?」
「まあ今のところ大丈夫じゃない?」
「わかりました・・」
ホテルの周りにあった車バリケードもそのままでゾンビに荒らされた形跡もなかった。
ホテルの強化ガラスは割れてるところもなくジムも無事だと思う。
「じゃあ行きましょう!」
遠藤さんが言うと全員が遠藤さんから離れる事なく入っていく。
ジムは2階にあった。
凄く広いジムでいろんな機材があった。
これならみんなで楽しみながらできるだろう。窓側は上から下まで窓ガラスになっているので光がしっかり入って明るかった。
「結構いろんな機械がありますね。」
「本当ですね。」
ここなら思う存分運動できそうだったが、電気が入らないと出来ないものもあるらしかった。
「取り合えず電気無しでもやれるものをやってみましょう。」
愛菜さんが言う。
「わかりました。」
皆でトレーニング機器を使いながら適当に体を動かし始めた。
「結構汗かきますね。」
「本当ですね。」
翼さんが遠藤さんに声をかけている。
それぞれに体を動かしているうちに汗だくになって来た。
遠藤さんがジャージの上着を脱いだ。
「暑くなってきました。」
翼さんも上のジャージを脱いで、Tシャツ姿になり体を動かしていた。
みんなが久しぶりに体を動かせたのでとても生き生きとしている。
私もかなり汗ばんで来たので、ジャージの上着を脱いだ。
かなり汗をかいてしまっているのでちょっと恥ずかしかったが、みんなもTシャツ姿になって汗をかいているのでだんだんとなれてきた。
Tシャツが汗ではりついている。
「だんだんと汗がにじんできましたね。」
「Tシャツがくっつくわ。」
「でも気持ちいいです!」
60分くらいみんなで体を動かしてぼちぼち休み始めた。
「遠藤さん!ストレッチしましょう!」
愛菜さんが声をかける。
「ええ、やりましょう!」
遠藤さんが座って愛菜さんが体を押し始める。それを見よう見まねでみんなが座ってストレッチし始めた。
「交代しながらやりましょう。」
それぞれが押すのを交代してまたストレッチをする。
「愛菜さんめっちゃ柔らかいですね。」
「今もストレッチは寝る前にしてますよ。」
「沙織さんもやわらかーい。」
里奈ちゃんが言う。
どうやらこの二人は寝る前に部屋でストレッチをしているのだとか。
《やはり体は自分でメンテナンスしないとだめだなあ・・》
「それじゃあ・・」
愛菜さんがある機械を指さして言う。
あれで股関節の柔軟が出来るんですよ。
「へーそうなんですね。」
「栞ちゃん座って見て。」
私は言われるようにそれに足を伸ばして腰かける。
すると愛菜さんがクルクルとハンドルを回し始めた。
キコキコ音を立てながら足が広がっていく・・
「いっ痛、イタタタ」
「はい、じゃあここで止めまーす。」
しばらく足を開いたまま座っていると、少しずつ痛く無くなってきた。
「あ、だいぶ慣れてきました。」
「じゃあもう少し開きますよ。」
ハンドルを半回転回す。
「あ・・ちょ・・そのくらいで・・」
足の内側が伸びている。でも最初の時よりだいぶ開いてきたようだった。
「愛菜さんもやってみます?」
「そうね、じゃあ閉じます。 」
ハンドルを反対に回して股を閉じていく。
私に代わり愛菜さんが座った。私が代わりにハンドルを回していく。
キコキコキコキコキコキコ
「えっ!というか・・180度近くなってますよ。」
「ああ・・でもそろそろきついわ。止めて。」
「はい。」
すごい・・愛菜さんの足は両方に180度開いていた。
「柔らかいですね。」
「ストレッチは欠かせなくて。」
「私も柔らかくなりたいです。」
「地道にこれをやっていればいつかは180度開きますよ。」
「それを目標に頑張ってみようと思います。」
すると里奈ちゃんが近づいて来た。
「私もやってみたいです!」
「じゃあ交代しましょう。」
里奈ちゃんが座るのでキコキコと回し始める。
「里奈はある程度体のラインを保つためにやってたから、そこそこ行けると思うわ。」
真下さんが言う。
・・確かにそうだった。
愛菜さんほどではないが、きっちり足は広がっていた。
「里奈ちゃんも柔らかーい。女優さんって大変なんですね。」
「努力した分評価されるから・・」
里奈ちゃんが恥ずかしそうに言うのだった。
みんな思い思いに体を動かして、気持ちよさそうに汗を拭いている。
「シャワーは使えるのかしらね?」
華江先生が言う。
「たぶん・・ガスが来てないと思うんです。」
このホテルに閉じこもっていた真下さんが言う。
「そうなのね。でも水でもいいから浴びたいわ。」
「確かにこのまま帰るのもあれですよね。」
「俺も水で良いから浴びたいですね。気持ちよさそうだ。」
遠藤さんの言葉でみんなでシャワールームに向かうのだった。
次話:第62話 二つの命 .