第57話 男は寝込みを襲え? ー長尾栞編ー
遠藤さんのメンテナンス会議はその次の日も続いていた。
華江先生と奈美恵さん二人が、地下で遠藤さんの細胞を採取しているあいだに次の計画を練っていたのだった。
それは遠藤さんの意見を聞かずにうまくやってしまおうという計画。
お姉さんチームが考えた作戦だ。
「えっと、遠藤君と言えども普通の男だと思うんです。」
この話を推し進めているのは優美さんだった。
遠藤さんには女子から強制的にメンテナンスを受けさせようとしている。
そもそもマッサージするだけでこんなに皆が頭を抱え無くてはいけないとは。
遠藤さんって・・
「それでまずどうする?」
翼さんが優美さんに聞く。
「簡単です。寝込みを襲います。」
「まってまって!それって逆にストレスにならない?」
「いえ!問題ありません。私に任せてください!」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です!相手は男ですよ!」
優美さんはやたら自信満々だった。
彼女は百戦錬磨という感じなので遠藤さんもきっと陥落するだろうと思われる。
すると地下から足音が聞こえ遠藤さんが部屋に入って来た。
「お疲れ様でーす。」
皆が声をかける。
「お疲れ様です。」
「遠藤さんだけほんと疲れますよね?」
優美さんがあざとくかわいく仕掛ける。
「いえ、全然大丈夫です。」
「またまたぁーいつも無理してぇ。遠藤さん少し休んだらいいですよー」
「は、はぁ」
「遠藤さん!お腹すきません?」
「減りましたね。」
「とにかくお昼にしましょう!」
そして昼食は冷凍食品パスタをレンジで解凍して食べた。
お昼ご飯を食べて愛菜さんと翼さんが後片付けをしに台所に行く。
他の人はまったりとした時間を過ごしていた。
すると・・遠藤さんがウトウトし始めた。
「あーやっぱりぃ。遠藤さん疲れてるじゃないですかぁー」
そう言いながら優美さんは遠藤さんの肩に手をやり、本当に優しくマッサージをし始めた。
遠藤さんは珍しく抵抗しない。
気持ちが良かったらしくコクリコクリとし始める。
いよいよ優美さんが仕上げに入るようだ。
「じゃあ・・遠藤さん。部屋に行って休んだ方がいいですよ。」
優美さんは遠藤さんの手を取ってすんなり寝室に連れて行ってしまった。
「「「「すげえ!」」」」
全員が心の中でそう思った。
優美さんはやはり百戦錬磨だった。
誘われるままに遠藤さんは立ち上がって部屋を出て行ったのだった。
「行っちゃいましたね。」
「ええ・・」
「すごくないですか?」
「さすがだわ。」
「私の後輩ながらほんと・・」
皆がそれぞれに優美さんに対しての賞賛の言葉をのべている。
それからしばらくして・・
トントントンと階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
バン!とドアが開かれた。
「なんなの!なんなの!なんなの!」
えっ?えっ?えっ?えっ?えっ?えっ?
皆が驚いた。
ぷんぷんと優美さんが湯気を立てているからだ。
「優美、どうしたの?」
翼さんが聞くと、優美さんが答えた。
「本当にそのまま寝ちゃったのよ!」
「えっ?寝かしに行ったんじゃないの?それでいいんじゃない?」
「いろんな私のあれこれに反応することなく、ぐーっすりと眠ってしまったわ!」
「強者ね。」
あずさ先生が言った。
つわもの?
どういう事だろう。
疲れている遠藤さんを寝かせて帰ってきた時に優美さんは怒っていた。
そしてあずさ先生の言う強者とはどういう事だろう?
「優美さんのような可愛い子に反応なし・・」
沙織さんもしみじみと言っている。
すると里奈ちゃんが疑問が顔で聞く。
「えっと・・寝せに行ったんですよね?寝たんならそれでいいんじゃないですか?」
「ま・・まあそうね。」
真下さんが里奈ちゃんに戸惑うように言う。
私もどういうことなのかよくわからなかった。
すると私が分かっていないと気が付いて愛菜さんが私に耳打ちする。
ぼそぼそぼそぼそぼそ
「えっーーーーーーーー!」
皆が驚いて私に目線を向けてくる。
「どうしたの?」
「い、いえ。大丈夫です!」
「栞ちゃん顔が真っ赤よ。」
「そうですか?そんなこと無いですよ。暑いのかな?」
「エアコン効いてて涼しいですよ。」
あゆみちゃんが私の逃げ道を塞いでくる。
「とにかく大丈夫です。」
愛菜さんが耳元でささやく。
「驚かせてごめんね・・」
私はひそひそと愛菜さんに囁きかける。
「そういうことだったんですね・・私全然気が付きませんでした。」
「あ、そうなんだ。栞ちゃん・・もしかして・・」
愛奈さんに私が経験のない事がバレてしまった。
「あの!皆には秘密に。」
「もちろんよ。」
愛菜さんからの耳打ちで、優美さんが何をしようとしていたのかを聞いて思わず焦ってしまった。
《まさか?本当に?そんなことが二階で行われていたんだろうか?》
半信半疑になりながらも、お姉さんたちの考えている事と、自分の認識の食い違いを知った。
次第に・・遠藤さんが肉食獣に狙われている草食動物に思えてきた。
そうか。男の人をメンテナンスするって言うのはそういう事を含むのか。
自分には自信がなかった。
もちろん経験した事などないからだ。
唯人君・・
ふと唯人君の事を思い出してしまった。
皆があれこれと頭をめぐらせている間に・・
私は会えなくなった彼を思い出して落ち込んでしまうのだった。
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