第51話 冷凍ゾンビウイルス ー長尾栞編ー
次の日の朝、細胞の検体を取りに全員でセントラル総合病院に来た。
検体の冷凍保管庫は華絵先生研究室の隣部屋にあるらしい。
「・・・・・・」
皆が息をのんで歩いていた。
ガラス張りの実験施設を静かに歩いて行くのだが、極度の緊張で嫌な汗が出てくる。
なにか・・人体実験でもしてるんじゃないのかとか思えてくる。
「とくに怪しい実験なんかしてないわよ。」
華江先生が緊張している私に話しかけてきた。
《びっくりした!心の中が読まれているのかと思った!》
「いえ・・怪しい実験なんて思っていないですよ!」
「まあこのゾンビウイルスはいくら実験しても全く分からなかったの。それが解明できるかもしれないのは素晴らしい事よ。」
「よかったです・・」
実際それがどれほどの事なのかはよく分からないが、もしゾンビウイルスに対して何か対抗策が取れるのだとしたら華江先生は救世主だ。
12人でぞろぞろと病院内を動き回る。
が、
結局怖いので全員遠藤さんの周りに居たいようだった。
《私だってそうだ。》
遠藤さんがゾンビを消す人だと知って、皆が彼から離れなくなった。
華絵先生の研究室に来ると華絵先生とあずさ先生、奈美恵さんがいろいろと研究に使う機材などを集め始めた。
それをみんなで分担して持つようにする。
作業があらかた終わり隣の細胞保存部屋に向かう。
隣の部屋は寒かった。
「あれ?電源が来てるんですね。」
「そうね。ここは非常時のためにお役所とラインが繋がっていてね、電源供給は間違いなくされるようになっているのよ。非常電源を遠くから引っ張ってきているようなものかしら。」
それだけこの研究は国も注目していたようだ。
「国からは早く解決するように言われていたんだけどね、政府からの連絡も途絶えてしまって研究はそれから中断していたのよ。」
「人々を救う研究ですか?」
「ええ。最初はあの風邪のようなウイルスを治すためのワクチン開発だったわ。でも急激にゾンビパンデミックが起きてからここに閉じ込められてしまってね・・そこにも引き続き緊急回線で国からの指示が出ていたのよ。ゾンビウイルスを駆除する事が出来ないかと・・」
「そんな研究を・・」
「政府からの連絡が途絶えてからは栞ちゃん達に話した通りよ。ここでゾンビから隠れて必死に生きていたのよ」
「辛かったでしょうね・・」
「それでもこの病院には緊急食料が常備されていたから、なんとか助かったようなものね。」
いくら強い華江先生とはいえ、相当恐ろしかっただろうと思う。
そして華江先生は冷凍保存室のドアを電子鍵で開ける。
ドアを開けるとエアシャワー室になっていて防護服がぶら下げてあった。
「みんなは入れないからここで待ってて。」
「華江先生、気をつけてください。」
「ここの中は安全よ。ただし閉じ込められたら凍死するわね。」
ガシャンとドアが閉められ、エアシャワーの音が聞こえる。
プシュー
しばらくすると中のドアが開く音がした。
ガチャン
ガラス越しに華江先生がみえる・・私達に手を振っている。どうやら心配しないでの合図らしい。
先生は白い煙の中に消えていった。
沈黙が流れる。
すると華江先生が戻ってきた。また手を振っている。
ガチャン
プシュー
音がするがすぐには出て来なかった。おそらく滅菌処理中なのだろう。
結構時間が過ぎた。大丈夫なのかな・・
「せ、先生!」
あゆみちゃんが声をあげる。
ガチャ
冷気と一緒に白い煙がドアから漏れてくる。
「おまたせ。」
「ああ・・良かったです。」
そして華江先生の手にはアタッシュケースがあった。
「それは・・」
遠藤さんが聞くと、華江先生が答える。
「これは・・言いにくいんだけど、冷凍ゾンビウイルスよ。急いで家の地下の冷凍保管庫にもっていきましょう。アタッシュケースは特別な金属で出来ていて、中に入っているカプセルも特別なものだから安全よ。」
「えっと遠藤さんの影響で消えるのでは?」
「ケースは特殊なものだから、それもたぶん大丈夫なはずだけど・・でもこればかりは分からないわね。」
そのままアタッシュケースやいろいろな機材をマイクロバスに積みこんで帰る。
華絵先生の家に近づいて来た。
やはり家の近くに帰ってくると少し変化がある。
家の周辺が少し荒れているようなのだ・・それを見るたびに全員が緊張してしまう。
結局・・ゾンビはどこにもいなかった。
門から敷地内にマイクロバスを入れて表の門を閉める。
家の敷地内が全く乱れていないのを確認してみんながバスを降りた。
「皆はリビングにいてちょうだい。私は地下のラボにこれを置いてくるわ。」
「はい。」
そして華江先生が地下に冷凍ゾンビウイルスを持っていく。
「ふう・・これで進展しそうですね!」
「本当です。」
「華江先生の肩にかかっているわけですね。」
少し経つと華江先生が足音が聞こえてくる。
しかし先生は・・浮かない顔で戻ってくるのだった。
「あの・・ゾンビウイルスが消えてしまって・・おそらくアタッシュケースから取り出すまではあったのだと思うけど、出して分析器にかけたらあっというまに消えてしまって。」
「それじゃあ・・遠藤さんの・・」
一瞬皆ががっくりと肩を落とす。
今日の作業がすべて無駄になったからだ。
「いえ、消えたからダメって言う事はないけど。」
「どういうことですか?」
遠藤さんが聞き返す。
「分析器にかけて消えるまでにゾンビウイルスのデータが取れたの。」
「それで?」
「疑似的にゾンビウイルスに似たものを作る事は可能かもしれない。」
「えっ!!そんなことが出来るんですか?」
「まあ仮説ではおそらくできるわ。あと他のカプセルに入っている冷凍ゾンビウイルスはまだ確認していないし、出さなければ保有されているはず。」
皆びっくりしている。
あずさ先生がみんなに華江先生の説明をする。
「大角先生は天才と呼ばれているんですよ。世界的なバイオ研究の権威なんです。」
ほへぇ〜
全員が唖然とした顔で華江先生を見つめていた。
世界の第一人者なんだ・・
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