第49話 ゾンビ出現実験 ー長尾栞編ー
それから私たち12人の共同生活が始まった。
家事を役割分担しながら華江先生の家で毎日を過ごす。
特に外に出かける事はせずにみんなが体調を整えることに専念した。
皆で集まってこれまでの事やこれからの事を話し合う事もあった。
そんな生活を続けた6日目の朝に華江先生が話し始める。
「皆さん。集まっていただいてありがとう。」
「先生。いよいよ検証を始めるんですね?」
「ええ。ただ良い案が浮かばないのよ。」
「それを話し合うという事ですね?」
「ええ。」
遠藤さんが言うと、みな話を聞く体制になる。
「まずは、おそらくゾンビが消える原因はこの二人にあるようです。」
遠藤さんと私を指さして華江先生が続ける。
「遠藤君なのか栞さんなのか、それとも二人が一緒じゃないとダメなのかを調べないといけません。」
「では二人バラバラに動くという事ですか?」
「でもそれぞれに動くのは危険よね。」
「それならば俺に考えがあるんですが?」
「どういう?」
遠藤さんが言う計画とはこうだ。
・車を2台用意して遠藤さんと私がばらばらに車に乗る。
・2台を少しずつバックしながら離れていき携帯電話で連絡しながら状況を確認していく。
・二人が離れてどちらにもゾンビが現れたら二人が一緒に居る事でゾンビが消えるという事。
・二人が離れてどちらかにゾンビが出現したら、出現しなかった方の人間が原因でゾンビが消えているという事だ。
・それが分かった段階で一気に車を走らせて合流する。
・そうする事でゾンビから囲まれる事もなく車から降りないで確認が出来る。
「なるほど・・それなら安全そうね。」
「だと・・車を調達しなければいけないわね。」
真下さんが言う。
「というわけで街に捨ててある車で動きそうなものをひろってきませんか?もちろんガス欠なんかになったら大変なので、新しくてガソリンが入っている車を探しましょう。」
遠藤さんが車の入手方法を考えたようだ。
「1台はマイクロバスで、1台は拾った車で試してみると良いんじゃないかしら?」
真下さんが言う。
「とにかく危険なので全員でやりましょう。」
華江先生が口をはさむ。
「それなら私の車を病院に取りに行きましょう。確かガソリンも詰めたばかりよ。」
「なるほど、それならキーもあるし万全ですね。」
私達は病院を目指す事になった。
皆でマイクロバスに乗り込んで走り出す。病院に到着するとやはり以前より荒れているような気がした。
しかしながらゾンビが全くいなかった・・何かが暴れたのは確実なのに・・不気味だった。
病院の従業員駐車場に華江先生の車を見にいく。
「え・・これが華江先生の車なんですか?」
「ええそうよ。」
「これ二人しか乗れませんよね?」
「まあそうね。ただ今回の実験には良いと思う。スピードが出たほうがいいでしょう?」
華江先生の車は私は良く分からなかったが・・スポーツカーだという事だけはわかる。
「まさかレンボだとは思わなかったです。」
遠藤さんが言う。
私でも、そういうスポーツカーの名前を聞いたことがある。すっごく高級な車だという知識くらいしかない。
「これなら距離をあけてゾンビが出てきても、すぐにもう1台の方に急接近できるわ。きちんと整備しているのよ。」
「たしかにこれならすみやかに合流出来ますね。」
「決まりね。」
マイクロバスを遠藤さんが運転して華江先生がレンボで後をついていく。
私は華江先生の隣に乗っていた。
携帯電話で連絡をとりあう。
「できるだけ長い直線で車などが散乱してないところを探しましょう。」
「どこがいいかしらね。」
「環状線が良いと思うんですが。」
「行ってみましょう。」
環状線に来た。
しかしこの道は長い直線があっても車が散乱していて、バックで離れていくのは難しそうだった。
「これじゃあ試すのは危険ですね。車がつっかえってしまったら事です。」
「ただゾンビがいそうな場所じゃなきゃ意味がないから、このあたりがベストよね?」
「みんなで固まって車を道の脇に避けれるだけよけますか?」
「やってみましょう。」
「鍵が開いてるのはギアをニュートラルにして押せば動くと思います。」
「はい。」
「動かせなさそうなのはマイクロバスで押してずらします」
遠藤さんが言う。
「とにかく作業中は遠藤君と栞さんから離れないように!あまり距離を取ったらなにが起きるかわからないわ!」
「はい!」
そして1日がかりで車のスペースをあけていって2kmくらいの直線を確保した。
すでに夕方の4時を回っている。
「このくらいの距離で大丈夫でしょうかね?」
「問題ないと思うわ、この前4人を助けた時より距離はあるはず。」
遠藤さんと華江先生が合意した。
2台の車の鼻先をつけて停める。マイクロバスの運転は遠藤さんがする事となり、レンボの運転は華江先生がやる事になる。
携帯電話でやりとりをするのはあずさ先生と私だった。
「じゃあゆっくりやっていきましょう!」
「わかりました!」
ゆっくり車をバックで放して行く。
100メートルくらい離れても変化はなかった。まだまだゆっくりと離れていく。
200メートル300メートル
緊張で手に汗がにじむ。
「こちら特に変化ありません。」
「今はこちらも何も起きてません。」
離れていく2台の車が見えなくなっていくのだった。
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