第43話 12人分の物資 ー長尾栞編ー
救出した人も含め全員で業務スーパーの駐車場に到着した。
「前より荒れてませんね。」
「人々がスーパーや薬局は危険と分かっているので、もう誰も来ないんじゃないでしょうか?」
スーパーや薬局にゾンビが人間を待ち伏せする話は、あゆみちゃんしか知らないので一通りみんなに説明してくれた。
「あゆみさんの言う通りなら業務用スーパーの中には、ゾンビが潜んでいる可能性があるってことよね。」
華江先生が言う。
「そのはずです。でも私が遠藤さんと栞さんから聞いた話では、ゾンビは一切いなかったらしいんです。」
あゆみちゃんが答えるが、みんな不安そうに顔を見合わせる。
「危険なのでは・・」
「本当に大丈夫でしょうか・・」
「ゾンビがいたら逃げられないんじゃないですか?」
新しく助けた人たちが口々に言う。たしかに保証はない・・
「すみません。ただ・・私も遠藤さんも一度もゾンビに会った事がないんです。」
「本当なんですよ。このスーパーにもゾンビはいなかったんです。」
私と遠藤さんが言う。私と遠藤さんは近くでゾンビを見た事がないため、緊張感に欠けているだけなのかもしれない・・
「私達の病院に来た時もゾンビが燃えていなくなっちゃったの。だからここでも同じ現象が起きている可能性もあるわ。」
華江先生が言う。
「もしかしたら、さっきのようにゾンビが消えてるかも知れないですよね?」
あずさ先生も重ねて言う。
すると不安に満ちた顔でみんなが頷いた。
「それでも油断は禁物よ。みなさん注意を怠らないようにしましょう。」
華江先生が皆に釘をさす。
業務用スーパーの自動ドアはまだ電源が通っていて普通に開いた。
「ここはまだ電気が生きてるみたい。」
真下さんが言う。
みんな適当な武器を握りしめてスーパーに入っていく。
中に入ると前と同じように電気がつけっぱなしだった。
ずっとつけっぱなしだったからか、一部が切れかかってパチパチしているところもあった。それがみんなの恐怖を掻き立てていく。
全員でカートを押す。
みんな恐怖で震え一人ではまともに歩けなそうだったが、堪えて皆で固まり中に入っていく。
「冷凍庫が生きててくれてます!」
遠藤さんが言うと皆が集まってくる。
「まだ肉の種類によっては食べられそうね。牛肉なら冷凍で1ヶ月は持つと思うから消費期限を見ながら持っていきましょう。少しぐらい切れてても食べれるはず。」
真下さんが言う。すると里奈ちゃんとあゆみちゃんが肉の日付を見始めた。
「ただ・・私の家の冷蔵庫にはこんなには入らないわよ。」
華江先生が言う。すると遠藤さんが提案をする。
「じゃあ家電量販店も行きませんか?」
「うん?ああなるほど・・冷凍庫を確保するのね?」
「これだけ人数がいればなんとか運べると思います。」
「ではそうしましょう。」
「じゃあ冷凍ものは冷凍庫を回収した後で取りにきませんか?」
奈美恵さんが言う。
「私もその方がいいと思います。溶けて食べられなくなったら悲しいわ。」
真下さんが奈美恵さんの意見に同意した。
「じゃあ念のため冷凍が必要な物以外は、今持っていった方がいいんじゃないかしら?」
華江先生が提案する。
「俺もその方がいいと思います。この人数の食料となればかなり大量ですし、いま持っていける物は持っていきましょう。」
米、パスタ、乾麺、粉もの、乾物、お菓子、缶詰、水、ジュース、
お酒、レトルトパック、袋ラーメン、カップラーメン、コーヒー、ココア、
砂糖、塩、醤油、ソース、調味料、ハンドソープやシャンプー、
割りばしからマグカップや皿まで、棚にあるだけどんどんカートに乗せていく。
カートは15台ほどになった。
全員で駐車場のマイクロバスに全て運び込んだ。
「結構な量になりましたね。」
車を運転しながら遠藤さんが隣に座った華江先生に話しかける。遠藤さんはどうやら物資が大量でテンションが上がっているみたいだ。
「ええ。マイクロバスで良かったわ。」
「本当ですね!真下さん!このバスは軽油ですか?」
「だと思います。」
真下さんが答える。
「じゃあガソリンスタンドに軽油もつめに行きましょう。」
「そうしましょう。」
「その前に薬局に行って必要な物を大量に入手しましょう。」
「では薬局に。」
テンションの上がった遠藤さんが運転するマイクロバスは、ひとまず薬局チェーン店に向かうのだった。
薬局の駐車場についたが、ここも特に荒れてる形跡はないようだった。
「前に来た時と変ってない・・」
「本当ですね。」
遠藤さんがつぶやいて私が答える。
「もう人間が来ることはないからでしょうか?」
「どうなんでしょう・・」
「前と同じなら、たぶん裏からじゃないと入れないですよね?」
「だと思います。」
また12人でぞろぞろと薬局に入るがやはり中にゾンビはいなかった。
みんなで必要な物をかき集めていく。
「生理帯やトイレットペーパー、ティッシュ、絆創膏、傷薬、化粧水やクレンジングなど皆さんが必要だと思うもの集めましょう!」
私が一度取りに来た経験から皆に伝える。
化粧品やローションなどはそれぞれの肌に合うあわないがあるので、それぞれが自分の好きな物を選んでいく。
それをみんなで駐車場のマイクロバスまで、つぎつぎと運び込んでいくのだった。
ダンボールで入手したものもあって結構かさばる。
「ゾンビはこないようです。」
遠藤さんが言うと皆がホッとする。
マイクロバスの後ろ座席が物でいっぱいになり、全員が真ん中より前に座った。
「えっとガソリンスタンドに行く前に、服屋さんに向かいましょう。」
遠藤さんが楽しそうに言う。
「今つめていかないの?」
華江先生が言う。
「まだ半分以上あるようなので、最後でも大丈夫だと思います。」
「わかったわ。」
《遠藤さんは本当に買い物が好きな人なんだな・・お金を払わないでどんどん入手できるのが楽しそう・・》
マイクロバスは洋服などのショップがある繁華街に向かうのだった。
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