第04話:テニスサークル ー長尾栞編ー
私は入学してまもなく夏希と一緒に軟式テニスサークルに勧誘され興味本位で入った。
高校の頃は進学校で部活はしていなかったのだが、軟式テニスサークルは初心者でも出来るという謳い文句を聞いて入ったのだった。
《今思えば、どんなスポーツも初心者から始めるんだけどね。》
サークルはみんな趣味程度にやる子たちばかりで、私たちも多分に漏れず緩くやっていた。男女混合のサークルで上手な人は大会に出たりもしていたが、部長は緩く参加している私達を盛り上げるため頑張っていた。
ある日、私達は学校の敷地内にあるテニスコートにいた。6面あるうちの2面を使って練習していたのだった。
「君たちは筋がいい!これから頑張って一緒に大会に出ようよ!」
「ま、まあ頑張ります。」
2人で基礎を教わっていくところからはじまった。
「と、まあ基礎はこんな感じかな?」
3年生の女子先輩からルールや基礎を聞いた私達が、早速素振りなどから初めてみる。
「じゃあコートに出てやってみようか?」」
「はい。」
とにかくうまくサーブが打てるかな?
「えい!」
スカッ!
思いっきり空振ってしまった。
「ハハハ。」
コートの外で誰かが笑った。
《だってしょうがないじゃない…初心者なんだから》
「笑うなよ!栞ちゃんは球技初心者なんだぞ!」
言ってくれたのは3年の男子の先輩で畑山陽治先輩だった。茶髪のイケメンで女子部員に人気の先輩であった。
でも正直そんなに怒る事じゃない。
「いやまさかあんなに見当違いのところ打つなんて、球からかなり離れてたから…つい笑っちゃったのよ悪気はないわ。長尾さんごめんね。」
「はい。気にしてません。」
2年生なのに3年生の畑山陽治先輩にタメ口をきいているのは、川村みなみ先輩だった。
「まあまあ、楽しくやろうじゃないか!」
仲裁したのは部長の3年生高田健先輩だった。
まあ私もそれほど気にしているわけでもないし、まあ初心者なのは事実なのでどうでも良かった。
「しおりんはそれほど気にしては・・・」
なっちゃんがフォローを入れる。そう!そのとおり!イグザクトリー!それほど気にしてないんです。おおごとにしないでほしい。
「ははっ・・」
「いや、健!そこは簡単に流すとこじゃないぞ!」
・・ながすとこです・・
「いえ・・」
陽治先輩が食い下がるが正直やめてほしい。どうでもいいことで私の傷口がなんか広がっていく。
「なんでそんなことで噛みつくの?うーん気分じゃないわ。今日は帰るわね。」
みなみ先輩がさらりと帰ってしまった。
「陽治せんぱーい。早く練習しましょうよー」
すると隣から2年の音無公佳先輩が言う。
「よし、やろうやろう。」
健先輩が皆をうながした。
「しおりんどーする?」
もちろんこのどーするは、続ける?辞める?のどーするだった。
「まあ来たばかりだし別に私は気にしてないよ。ほんっとどうでもいいし。なっちゃんがいいならやってかない?」
「いいよー。やろやろ!」
結局練習には参加した。今日参加したのは11人だったが、部員は20人いるらしい。
1年はまだ私たち2人だけだそうだ。
その日は簡単な基礎練で終わった。
それからは週一で練習があったが、上手い人達は毎日自主練してるようだった。大会に出れそうな実力者は、高田健先輩と川村みなみ先輩とあと2人くらいいた。
私となっちゃんはそんなレベルには達していなかったけど、友達と一緒に汗を流すのは楽しかった。
「しおりん、いっくよー!」
「はーい。」
パコン
パコン
パコン
スカッ
空振り・・
「あー!」
でも私はラリーが続くようになってきてうれしかった。
「うまくなってきたわね!」
最初わたしを笑った、みなみ先輩が声をかけてきた。
「いいえ、まだまだです。」
「初心者にしては上達がはやいわ。」
と言ってニコっと微笑んでくれた。川村先輩は綺麗なひとだった。日焼けも気にしないスポーツマンという感じで好感がもてる。
「おい川村、また長尾に絡んでるんじゃないだろうな?」
陽治先輩がまた声をかけてきた。今度は私がはっきり言おう。
「いえ、褒められていたところですよ。」
「そ・・そうか。ならいいんだが何かあったら俺に相談してくれよ。」
「はい何かあればご相談させてください!」
「おう。」
陽治先輩はそう言ってまた練習に戻っていった。するとその後から私に声をかけてきた人がいた。
「あら?陽治先輩となにを話していたの?」
公佳先輩だった。いつも2年の女子たちと一緒にいたが、みなみ先輩とはあまり仲は良くないようだった。
「私がみなみ先輩に褒められたという話です。」
「あ、そうなんだ。ふーん。」
「あ。じゃ私、練習しますね。なっちゃんお願い!」
「あいよー!」
そんなやり取りをして、なっちゃんと一緒に別のコートに移った。正直先輩のいざこざに巻き込まれるのはウザい。なっちゃんと楽しくテニスできればよかった。
そういえば最近もう一人男子の1年生が入ってきた。
「よかったら一緒にやろう?」
なっちゃんが声をかけると、嬉しそうに答える。
「ぜひ!」
彼は同い年、1年生の上原唯人君だ。ちょっと繊細な感じの男の子だけど、結構運動に自信があるみたいでテニスが上手だった。
それからは、私となっちゃんは彼にテニスを教えてもらうことが多くなった。
そしてある日サークルの練習に行った時だった。
部室は夏の合宿の話で持ち切りだった。今年はなんとに那〇高原に行くらしかった。
「なっちゃん、那〇高原だって!」
「楽しそう!しおりん行こうよ!」
「だね!」
ふたりは即決で参加を決定したのだった。
大学生活を充実したものにできると思って、私となっちゃんはめっちゃ盛り上がるのだった。
そのときはあんな事になると思わずに・・
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