第38話 女優と女医のシャワータイム ー長尾栞編ー
全員かなり慎重にマンションに入っていくのだった。
出て行った時は3人だったが今は8人になったため安心感が増した。
恐らく暴徒が来たらひとたまりもないのだろうけど・・
1階のオートロックは問題なく開いた。
「あの、念のため階段で行きます。エレベーターが止まったら閉じ込められてしまいますので。」
遠藤さんが言うとみんなが頷く。
マンション内は全室無人なのを確認しているので安心して歩ける。
新しく加わった人たちはそれを知らないので恐怖で顔が引きつっていた。
「あの・・マンション内は安全が確認できていますので大丈夫ですよ。」
私が言うがみんなの緊張は解けないみたいだった。
遠藤さんの部屋の鍵を空け全員で入った。
「お・・おじゃまします。」
「すみません。」
「失礼します」
・・私は一緒に女優の橋本里奈がいるのが不思議でしょうがない。
医療関係者の皆も気が付いているみたいだが特に声をかけなかった。
《そして分かっていた事ではあったけど・・》
ワンルームには8人は多くて、ぎゅうぎゅう詰めだった。
「すみませんいったんそのあたりに座ってください。」
遠藤さんが言うのでそれぞれに座る。皆が部屋の真ん中を見るように座った。
「飯を作りますのでちょっと待っててください。」
遠藤さんがキッチンに向かう。
座り込む人はみな疲れ果てていた。
「あなた達はここに隠れていたの?」
女医さんが私に聞いてくる。
「はい・・最初は私と遠藤さんが二人で、あゆみちゃんが途中から。 」
「あの、お二人はお付き合いをしているのですか?」
真下さんが聞いてきた。私と遠藤さんの事を聞いているのだろう。
「ちがいます・・私達はたまたま隣に住んでいました。」
「力を合わせて何とか切り抜けていたわけね。」
女医さんが納得したようだった。
真中さんも感心している様子だ。
「料理は彼が?」
「はい、料理が趣味らしく彼がいつもしてくれます。」
「なんだか・・普通に文明的な生活をしていたみたいで驚きだわ。」
皆がうんうんと頷いている。
しばらくすると
8人分の牛肉を塩コショウしオーブンでチンした物と、ご飯の付け合わせに冷凍野菜のほうれん草へ醤油をかけたおひたしが出来上がった。
凄くおいしそうな匂いがした。
私とあゆみちゃんが運ぶのを手伝う。
「普通に・・料理が・・」
「本当に」
「う・うう・・」
女医さんが驚き病院から出てきた女性が感動している。橋本里奈ちゃんに至っては泣いていた。
「どうぞ食べてください。」
遠藤さんが言うと皆が一心不乱に食べ始めた。
とにかく全員が黙々と食べていた。
「そろそろ食べ終わったみたいなのでちょっと待っててください。」
「あ、私手伝う。」
私は遠藤さんが何かを用意するようだったので、台所に行く。
遠藤さんがパイナップルの缶を2つあけたので。私がフォークで取り出しそれぞれに2つずつ出してあげた。
「パイン缶・・」
「デザートまで?」
まさかと思っていたのだろう。これもあっという間にみんな食べた。
「ふぅ・・」
「助かりました・・」
「あゆみ・・本当にありがとう」
病院から来た人達と真下さん橋本里奈ちゃんがお礼を言う。
「あの・・遠藤さん。皆さんにシャワーをお貸ししてあげたらいいかもしれません。」
「あ・・ああ!そうだよね。皆さんべたべたして気持ち悪いでしょうから、順番でシャワーをお使いいただいていいですよ。」
みんな髪がゴワゴワで顔もベタベタしていたので、私たちがシャワーをすすめた。
「じゃあ、若い人から・・というか聞いていいですか?橋本里奈さんですよね?」
「私も驚きました・・なんで女優さんが?」
「もしかしたらお知り合いなんですか?」
病院関係者の3人が里奈ちゃんを見て驚いている。
ご飯を食べて余裕が生まれ、里奈ちゃんに話しかけたのだった。
「私と里奈が友達なんです!いま助けてきたばかりで・・」
「そう言う事だったの・・」
「はい、あゆみのおかげで助かりました。私が先にシャワーを浴びてもいいんですか?」
「ああハイどうぞどうぞ!ただ・・ガスが止まってしまっています。電気湯沸かしでお湯を差し入れますので、たらいで水と混ぜて入ってもらっても良いですか?」
遠藤さんがお湯をたらいで丁度良く作って洗うように勧める。
「十分です。」
「あの遠藤さん。みんなのために私の部屋からバスタオルとフェイスタオル、あと着れるならTシャツとかジャージもあるから取りに行きたいんだけど一緒に来てくれる?」
「ああ、もちろん。」
私と遠藤さんが二人でベランダ伝いに私の部屋に戻って、服や下着ジャージやパジャマなどを全部持ってくる。
「みなさん!よかったらこれ使ってください。」
「あ、俺のTシャツやジャージも着れると思う。緩いかもしれないけどどうぞ・・」
「皆さんのお洋服は洗いますので下さい。」
「それなら洗濯機を貸していただければ自分たちでやります。」
女医さんが答えた。
里奈ちゃんが一人でシャワールームにいるのは怖いと言うので、マネージャーの真下さんも一緒に入る事にした。
彼女らが入っている間にも残ったみんなで情報交換をしていた。
「じゃあ次は、あなたたちが入ってきたら?」
「先生がお先に・・」
「気遣いなんていらないわ。私は一人でいいし」
「じゃあ私は怖いので・・一緒に入る?」
「うん。」
病院から逃げてきた後の二人が一緒に入ることになった。
里奈ちゃんとと真下さんがさっぱりしてシャワーから出てきた。
綺麗になった里奈ちゃんは芸能人オーラが出てきた気がする。普通の女の子だけどやっぱり違う。
その後もみんなが代わる代わるシャワーを浴びて上がってくる。
私とあゆみちゃんが電気湯沸かし器でお湯を沸かしてせっせと差し入れた。
最後に女医さんがシャワーに入る。
「あの・・お湯です。」
「あ、はいすみません。」
私がお湯を差し入れた時にはすでに女医さんは服を脱いでいた。
慌てて目をそらしたがバッチリと裸を見てしまった・・私が慌てて目を背けるのを見て女医さんが言う。
「同じ女性同士じゃない、別にみられても恥ずかしくないわよ。」
「は、はい!」
《やばいくらい・・ナイスバディ・・女医?モデルの間違いじゃないの?》
嫉妬するくらいのボディラインだった。これで女医だというのだからさぞかしモテるだろう。
シャー
お湯を混ぜずに水のシャワーを浴びているようだった。きっと何かを洗い流すようにしているのかもしれない・・
ガチャ
女医さんが早めにシャワーを終えて出てきた。
「ふう。ありがとう。」
全員がさっぱりしたところで円になって情報交換をし始める。
《ただ私は良いんだけど・・皆がノーブラのままTシャツやジャージを身に着けているので、バストトップが気になるんだけど・・》
遠藤さんの顔を見るとそれに気が付いたのか・・目線を下に向けていた。
集まっている人は今までの極限状態から解放されて、そこまで頭が回っていないようだった。
《まあ・・しかたないか・・》
どうせ遠藤さん一人だし。
私は気にするのをやめた。
次話:第39話 消えるゾンビの謎 ー長尾栞編ー




