第37話 女医と医療関係者 ー長尾栞編ー
ホテルで助けた里奈ちゃんのマネージャー真下さんからの提案でロケバスに乗り換える事になった。
この軽自動車に5人乗るのは心もとなかったからだ。
「そこを左です。」
「はい。」
「あの駐車場です!」
「はい。」
誘導されるままに遠藤さんが軽自動車を走らせる。
「あれです。」
真下さんが指さす先に、15人ほど乗れそうなマイクロバスがあった。
「スタッフがきちんと停めてくれていたようです。」
「壊されてもいないみたいですね。」
遠藤さんが車から降りてマイクロバスの周りを見て回る。
「よし。」
マイクロバスの隣に軽自動車を駐車して一応鍵をかけた。
「平和な世の中になったら、自分の車を取りに来なければいけないですからね。」
・・それもそうだ。
「じゃあ乗り込みましょう。」
「ロケバスの鍵はこれです。」
真下さんからマイクロバスの鍵を預かってドアを開ける。
遠藤さんが運転席に行くので私は左隣に座る。
皆も離れずに全員が前の方に座った。
チュチュチュチュブーン
放置していた割にエンジンは普通にかかったみたいだった。
「じゃあ出発します。一応シートベルトを締めておいてください。」
それぞれがシートベルトを締める。
真下さんが遠藤さんの後ろに乗って、その後ろの席にあゆみちゃんと里奈ちゃんが一緒に座った。
ピーピーピーピー
バックをし始めると音が鳴った。
「この音を聞きつけて何も来ないと良いけど・・」
真下さんがポツリとつぶやくと全員が緊張した面持ちになる。
バックが終わるまで何かが近寄って来ることは無かった。
「とにかく私たちのマンションに向かった方がいいよね?」
「そうだな・・あそこには食料もあるし電気も通ってる。」
「えっ?食料・・」
真下さんが遠藤さんに聞いてくる。
「そうです。」
「私たち・・この4日くらい・・ほとんど水しか飲んでないんです。」
「えっ!では急いで家に戻りましょう!」
道路に出て走り出すがロケバスは大きくて、さすがに道路に乱雑に停めてある車を全てよけきれない。
「あの・・真下さん」
「なんでしょうか?」
「ここからの道路には車が乱雑に停めてあるんです。」
「はい。」
「おそらくぶつけて広げないと通れない道があると思います。」
「ああ!容赦なくぶつけてくださってかまわないですよ。」
「それを聞いて安心しました。」
そして狭くて通れないところは、マイクロバスで車を押し動かしながら進んだ。
「っていうか、ゾンビも人も全然いなくないですか?」
橋本里奈ちゃんが言った。するとあゆみちゃんが言う。
「確かにいないんだよね…でも私はゾンビたくさん見たんだよ!」
「私達も最上階のふきぬけから下をみたらゾンビらしきものを見ました。外にもいたと思うのですが・・あっというまにいなくなったように思います。」
瞳さんが言う。
「そうなんですね・・俺は実際は一度も見てないんです。」
「あの・・私も…」
「えっ?一度も?」
里奈ちゃんも驚いている。
「そうなんです・・」
俺が言うと、瞳さんは信じられないといった表情をしていた。
「そうなんですか・・一度も・・」
その後もマイクロバスは車を押しながら、避けれるところは車をさけて道路を進んでいく。
少し見通しの良い道路に出てスピードを上げ始めた時だった。
「うわ!」
遠藤さんが声を出した。
前を見ると車の前に人が飛び出してきていた。
キキー!
「えっ!!」
「きゃぁぁ!」
遠藤さんが咄嗟に急ブレーキを踏んで停まった。
「えっゾンビ?」
橋本里奈ちゃんが言う。
「え・・まずくない!?」
私が言うと、あゆみちゃんがいう。
「逃げましょう!!」
すると真下さんが言う。
「ちょっと!まって!!」
女の人が近づいてきて叫んでいるようだった。
「助けてください!」
女性だった・・白衣を着ていて・・どうやら医療関係者のようだ。
「えっと助けますね!」
「ゾンビじゃないと思うわ!」
「早く!」
プシュー
遠藤さんがマイクロバスの自動ドアを開けて女の人を入れた。
一瞬私たちはあっけにとられたが、その人が乗り込んで来て話しかけてくる。
「私はあのセントラル総合病院で働く女医です!助けて・・」
女医さんは一旦言葉を切った・・次に言ったのは・・
「というかどうして男性がいるの??」
女医さんは遠藤さんを見て驚愕の表情を浮かべた。
「えっ?」
遠藤さんがビックリしている。
男性だとなんだというのだろうか?
私は彼女が何に驚いているのか分からなかった。
それを不思議に思う間もなく矢継ぎ早に女医さんが叫ぶ。
「とにかく!あの病院にあと2人取り残されています!助けてください!」
美人だ・・30歳くらいの女医さんだった。
「病院から誰か走ってくる!」
私が言うと皆がロケバスの前を見る。
むこうから2人の女性が走ってきていた。
「あれは私の病院での仲間です!やっと生きている人間に会えたんです!助けてください!」
「も!もちろんです!」
「とにかく乗せましょう!」
真下さんが二人を乗せるように言う。
二人をバスに乗せると女医さんが叫ぶ。
「は・・はやくドアを閉めてください!」
凄く慌てていた。周りにはゾンビも何もいないというのに・・
「行きます!」
遠藤さんがまたマイクロバスを走らせるのだった。
女優の橋本里奈を助けた高級高層ホテルから帰る途中で医療関係者を助けた。
そしてようやく自分たちの町に戻って来た。
町が荒れている・・出かけた時より町が荒れ果ているみたいだ・・
「遠藤さん・・」
「ああ、栞ちゃん。出かけた時より町が荒れている。」
私たち二人の会話を聞いて全員に緊張が走るのだった。
ところが・・
人にもゾンビにも全く会うことなくマンションの前まで来た。
しかし・・!
「遠藤さん1階の不動産のガラスが割れてる!」
「本当だ・・」
ロケバスの中からマンションを見ると不動産会社のガラスが割れていた。
「でも誰もいないみたいです。」
「ゾンビでしょうか?」
「わかりません。」
「俺、ちょっと見てきます!ドアを閉めて!」
遠藤さんはドアを開けて外に飛び出し一人で不動産会社の前にいく。
この人・・すっごく勇気があるのか・・馬鹿なのか・・いずれにせよ凄い。
「大丈夫だ・・中には誰もいないみたいだ!」
たぶん遠藤さんも私もゾンビに会ったことが無いので、だんだんと麻痺してきているのかもしれない。
「いやいや!遠藤さん・・いきなり一人で降りるのは危険ですよ。」
女医さんが言う。
「あ・・すみません。それほど危険は無いと思って・・」
遠藤さんが調べてくれたので、全員バスを降りて不動産屋の中を覗くが誰もいなかった。
私は初めてゾンビを見てしまうのかと緊張していたが見る事はなかった。
「この不動産の入り口は表側だけだから、マンションの中には誰も入ってないと思います!」
遠藤さんが皆を安心させるように言う。
《しかし・・なぜこんなに荒れているんだろう?》
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