第34話 生存者からの連絡 ー長尾栞編ー
とにかくマンション内をひと通り探すだけで、滅茶苦茶に精神と体力を消耗してしまった。特にゾンビから逃げるわけでもない、死体を見たわけでもないのにだ。
「どうしたのかな?食料を求めて出て行って帰って来れなくなったとか?業務用食品スーパーにも争った形跡はあったけど、物も無くなってなかったし。」
とにかく人が消えてしまった。いま街は暴動も起こった感じがしないほど静かだ。
私と遠藤さんが話をしていると、あゆみちゃんが私たちの話にひっかかったようで話はじめる。
「えっ?スーパーに行って帰ってきたんですか?」
「そうだよ。」
「ゾンビはいなかったんですか?」
「ゾンビも人も誰もいなかったけど…。」
「人はいないと思いますが・・」
ゾンビがいるはずなのに人はいるはずがない?何を言っているのかいまいちわからなかった。
「なんで?あれほど食料があるのに?人がいないの?」
「だからこそです。」
私も遠藤さんもあゆみちゃんの話がみえてこなかった。
《食料があるのに人がよりつかない?なんで?》
続けて、あゆみちゃんが言う。
「あの出会った時の薬局にもゾンビいなかったですか?」
「いなかったよ。」
遠藤さんがきっぱりと答える。
「それならば・・たまたま運が良かったのかも知れませんよ。」
「たしかに俺たちもそんな気がしたけど。」
「そうよね、あんなに食料も薬品もあるなんてビックリしたわ。すでに持ち出された後だと思ってたから。」
確かにそうだ・・
「えっと、ゾンビが待ってるからスーパーには入れないんです。普通は…」
あゆみちゃんが言った。
ゾンビが待ってる・・それはどういうことなんだろう?
遠藤さんも不思議顔をしていた。私にもさっぱりわからない。
「知恵があるってこと?ゾンビに?」
「そうじゃなくて本能みたいな感じです。たぶんネットで言ってました。」
「本能??」
遠藤さんがポカンとした顔になった。正直隣で聞いている私も訳が分からない。
するとあゆみちゃんが息をすって私たちにわかりやすく説明しだした。
「えっとサバンナのワニって水辺に潜むじゃないですか?水辺によってくる動物を捕まえて食べるためですよね。ゾンビは知恵というより、本能的にそこに人間が来ることがわかってるみたいなんです。食品や薬が売ってるところに人が集まるとわかって潜むらしいんです。元人間だし体が覚えてるみたいな?」
「あーそういうことか…てか俺たちが行ったとこにはゾンビはいなかったよ?争った跡はたくさんあったけど…」
「それが、不思議なんですよね?争った形跡があるなら、やつらは絶対いるはずなのに…」
うん・・確かにあゆみちゃんの言うとおりなら、業務用スーパーにも薬局にも人が集まるから、そこにゾンビが罠をはるように待ち受けてないとおかしい。それなのに・・私たちが行った先にはどこにもそれらしきものはいなかった。
3人でいくら考えても、その原因は分からなかったので考えるのをやめた。
「まあとりあえず疲れちゃったしさ、昼飯にしようよ。」
遠藤さんの提案に私たち二人はうなずく。
「落ち着いたらお腹減って来ました。」
あゆみちゃんは若いからもうお腹が減っちゃったみたいだ。
「うん、食える時に食っといた方がいいよ。」
「わかった。」
「わかりました。」
遠藤さんと一緒に台所に立つ。遠藤さんはホットケーキミックスを緩めに解き始めた。
「あ!パンケーキですね。それならさらりと食べられそうですね。」
電気ホットプレートでパンケーキを作ってくれた。
「おいしそうなにおい。」
「遠藤さんて男性なのに手際がいいですよね。」
「そうだね・・俺の趣味だからね。」
そして遠藤さんはパンケーキにバニラアイスを添えてくれた。デザートに桃缶を用意し食欲が出るようにグレープフルーツの炭酸ジュースを飲みながら食べる。
スイーツだらけだけど・・
《確か・・極限の緊張のストレスはゲップで緩和できるって聞いたことがあるけど・・、男の人の前でゲップをするのはちょっと抵抗があるな。》
「おいしい!」
「パンケーキ好きー!」
私とあゆみちゃんはテンションが上がった。やっぱりパンケーキはおいしい!
「そうか、そいつは良かったよ。」
3人でパンケーキを食べて落ち着いた。
「で、今後どうしよう?」
遠藤さんが私達に聞いてきた。
「そうですねテレビもやってないし。ニュースとか情報もとれないですよね?」
あゆみちゃんの言うとおりだった。テレビもすでに放映してないしSNSでも情報が取れなくなってしまった。どうすべきか・・それは自分達で判断しなければならない状態だった。
あれから3週間なっちゃんも梨美ちゃんも唯人くんも雷太先輩も誰とも連絡がつかない。あのあと華絵先輩や麻衣先輩や公佳先輩とみなみ先輩のサークルグループSNSに情報を流してみたが、一人として既読がつかなかった。
「さてと・・どうしたものか悩むわ・・」
「俺としてはしばらくは食料が持つ今だから、少しずつ捜索範囲を広げていくのが良いと思ってる・・」
「でも・・怖いですよね。」
あゆみちゃんが青い顔で言う。
怖いが・・でもそれをやらなければ前に進めなそうだ。
3人では道は開けそうにない。
皆で深刻に考え込んでいる時だった。
ブーブーブー ブーブーブー
あゆみちゃんのスマホが鳴った。
「ん?電話?」
あゆみちゃんがスマホに出てみる。
「出た!あゆみ?生きてる?」
「生きてる!里奈も生きてたんだ!」
どうやらあゆみちゃんに知り合いの生存者からの連絡が入ったようだった。
やはり・・生存者はいる。
私達はようやく一歩前進したのだった。
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