第32話 生存情報 ー長尾栞編ー
あゆみちゃんの友達の家には結局誰もいなかった。
あゆみちゃんの携帯のSNSでは、朝まではいたはずなのに家族ごと消えてしまったのだ。
《怖かった・・荒れはてた道を歩くのは本当に怖い。何も起きなくて本当によかった。》
私は高校生のあゆみちゃんの前では、あまり怖がらないようにしていた・・しかしものすごく怖かった。
ただ私が怖がればあゆみちゃんは恐怖で動けなくなってしまいそうだ。彼女は怖い思いをしてここにたどり着いたのだ、少しでも安心させようと思うのだった。
部屋に戻り3人でへたり込むように座って黙り込む。
しばらくして・・遠藤さんが話す。
「だれも・・いなかったね。」
「・・・・・」
あゆみちゃんの返事がなかった。
「あゆみちゃん?」
「あ・・すみません・・」
あゆみちゃんは極度の緊張や恐怖疲れでウトウトしてしまっていた。おそらくは数日寝ていなかったんだろう。緊張がとけて眠くなってしまったらしい。
「あゆみちゃん。横になろうか?」
「はい・・」
私が声をかけると、あゆみちゃんはそのばに疲れて寝てしまった。
スースー
そっと毛布を掛けてあげる。
あゆみちゃんが寝ている横で二人で話す。
「栞ちゃんなんか…このマンションの駐車場なんだけど気がついた?」
「うん…出かける前より荒れてるような気がする」
「だよなあ。ゾンビきたのかな?」
「でもぜんぜんいなかった。」
「どういうことだろう。そもそも街中にゾンビなんて、いなかった気がしない?」
「いない気がした。」
「うーん。」
遠藤さんとはタメ口の方がずっと話しやすかった。より彼に近づけたような気がした。
情報の伝達を考えてもタメ口の方が早く伝わりそうな気がする。
とにかく二人でいろいろと考えてみるのだが、全く解決することはなさそうだった。
よくわからなかったので、二人は疲れもあり眠くなってしまった。
「寝ようか?」
「うん」
よく考えると・・狭い部屋にベッドがあり布団が敷いてあるのだが・・布団はあゆみちゃんに占領されてしまっていた。
「あ・・俺ソファで寝るから。」
「私がソファで寝る。」
「じゃんけんにしよう。」
結局、遠藤さんが負けてソファに寝る事になった。私はベッドを貸してもらえた。
ベッドは、ほんの少し男臭かったが逆に安心して眠る事が出来そうだった。
電気を消して3人は眠りについた。
「おはようございます。」
あゆみちゃんが遠藤さんを揺り動かす声に、私も目覚めた。
「おはよう。」
「おはよう。」
「とりあえずなんか食おう。」
遠藤さんが台所に行く。
「あ、私も手伝う。」
「あ、二人は座ってて。」
「うん。」
「はい。」
少し待つと遠藤さんが冷凍野菜をチンして出してきた。
ブロッコリー、カリフラワーにマヨネーズをつけて食べ、あとはレンジで出来るフライドポテトに軽く塩をふって3人でつまむ。
「昨日の夜から普通に食べてますけど、食料は大丈夫なんですか?」
あゆみちゃんが聞いてくる。
「ああ、俺達はこうして3食毎日食べて2週間くらいここにいたから・・その時よりかなり大量に食品を確保しているし大丈夫だよ。」
「なんか久々に続けてご飯を食べました。」
「家族ではそんなに食べてなかったのかい?」
「ああなる前にあまり食料を買ってなかったので、そう長くはもちませんでした。」
「そうか・・」
「食料を探しに外に出たのが・・運の尽きだったかもしれません。」
「そんなことは無いと思うわ、いずれ無くなれば生きていけなくなる。正解だったと思う。」
「はい・・」
しかしいくらここでご飯が食べれるからと言ってもこのままでは前に進めない。
「まずは・・あゆみちゃんの事を教えてくれない?」
私から優しくあゆみちゃんに話を聞くことにした。
「はい・・私は高校2年生なんですが、両親と兄と一緒に家に閉じこもっていました。」
「うん。」
「それで・・食料がなくなっちゃったので、学校の連絡網のSNSで連絡を取り合って、クラスの家族同士で集まる予定でした。」
「そうなんだ・・それで集まる事は出来たの?」
「いいえ。計画実行日に向けて日がたつにつれ、一人づつ連絡が取れる人が減っていってしまって・・」
「そうなんだ、私や遠藤さんと同じだわ。」
「そうだな・・俺は家族だけだけどな。」
「あ・・」
「そうなんですね。」
「そ、それでどうなったの?」
「この裏に住む友達が最後まで連絡出来ていた友達でした。」
「でも・・だれもいなかった・・」
「はい。」
遠藤さんが何か考え込むように聞く。
「それが昨日の出来事ってことか。」
「はい」
「私たちが食料調達から出かけて帰ってきたら・・・」
「街が荒れていた。あゆみちゃんの友達もいなくなっていた。」
「ということね。」
遠藤さんと私が出かける前までは、このあたりに人がいたということかもしれない。
でもそういうことなら同じような境遇に陥っている人はいるはず。
「ということは、まだ家に潜んでいる人が居るかも知れないな…」
「そうね。助けられる人がいるかも知れない。」
遠藤さんも同じことを考えていたようだった。
「遠藤さん。もしかしたらこのアパートのどこかの部屋に人がいるということはないかしら?」
「あるかもしれない。それが第一歩かも・・」
「だ・・大丈夫でしょうか?」
「3人なら何とかなるんじゃないか?いざというときは俺が止めるから。」
「はい・・」
まずは自分達が住むマンションを調べることになったのだった。
次話:第33話 生存者捜索.