第31話 友達の家 ー長尾栞編ー
助けた女子高生がシャワーを浴び終わったみたいで声がかかる。
「あの!浴び終わりました。」
男の遠藤さんだとまずいと思い私が中に入る。
彼女はバスタオルで裸の体を隠して立っていた。
「あ、綺麗になったね!よかった。」
出来るだけ優しく声をかけた。
「ドライヤーで乾かしてあげるね。」
「ありがとうございます。」
ボォォォォォォォ
ドライヤーをつけて強で乾かし始めた。ショートカットなのですぐに乾く。
「髪の毛、柔らかいね。」
「そうですか?」
「キレイな髪。」
「ありがとうございます。」
ドライヤーをクールに切り替えて仕上げをする。
台所からは料理をする音が聞こえて来ていた。遠藤さんが料理を作ってくれているらしい。
「とりあえず、私の下着でごめんね・・」
「いえ、すみません。」
下着をつけてみるとパンティは丁度よかったが、ブラが少しゆるそうだった。
「ごめん、サイズはこれしかなくて。」
「いえ・・私が小さいんです。」
「えっと全然小さくないと思う。」
「そうですか?」
「着てきた下着と制服は洗っちゃおうね。ちょっとしわになっちゃうかもだけどアイロンもあるから大丈夫。」
「はい・・」
彼女の制服と下着を網に入れたりしながら洗濯機に放りこんで、洗剤を入れスイッチを入れる。
ゴーンゴーン
洗濯機が音を立てて回りだした。
「あとこの服、着てみて。」
「はい」
女子高生は私の用意した服を着てくれた。
「ゆるいかな?」
「丁度いいです。」
「よかった・・」
「かわいい・・」
「気に入ってくれたみたいでよかった!」
「ありがとうございます。」
洋服を着させてシャワールームを出た。
おいしそうな匂いがしていた。
「遠藤さんがご飯作ってくれたみたい。」
食卓には今日仕入れたお肉を焼いたものと、缶詰、ご飯が用意されていた。
「ああ、上がったかい?キレイになったみたいで良かった。」
「服もサイズがあって良かった・・」
「ありがとうございます。」
「とにかくご飯食べようよ!」
遠藤さんが3人分のご飯を用意してくれていたので、テーブルの周りに座り皆でご飯を食べ始めた。
よほどお腹が空いていたようでぺろりと全部食べた。
私と遠藤さんも食べ終わり・・
私は遠藤さんに目配せをする。(もうおちつきましたよ・・)
遠藤さんが女子高生に身の上を聞いてみることにした。
「俺は遠藤近頼でこちらは長尾栞ちゃん。君の名前は?」
「高田あゆみです。」
「どうしてあんなところに?」
「・・それが・・みんなゾンビになっちゃって、兄さんが最後まで一緒にいたんですが…その…ゾンビに捕まってしまって、結局私ひとりが隣町まで逃げてきたんです。」
「どうして危険を冒してまでこのまちに?」
「友達の家族が全員無事だって聞いてたからきたんです。SNSで連絡とってて…」
「友達の家って?」
「このマンションの裏です。」
「えっ?」
「でも今日の昼まえあたりから既読がつかなくて…」
あゆみちゃんの話から考えると私たちが出かける前までは家族はいたんだ・・この街の荒れようからすると・・私たちのいない間に暴徒に襲われた?
「この裏か…見にいってみよう。」
遠藤さんが行ってみると言う。
「いいんですか?」
「朝までは繋がってたんだろ!まだ可能性はある」
「はい。」
遠藤さんは掃除機の筒に包丁をくくりつけた槍を構えて先頭に立つ。
「じゃあまた外にでるよ!」
「はい!」
「はい!」
遠藤さんは部屋に鍵をかける。私たち3人はあゆみちゃんの友達の家に行くことにしたのだった。
「また階段で降りよう。」
「そうですね。」
「はい」
1階まで降りて自動ロックを開けて外に出る。
とにかく私とあゆみちゃんは遠藤さんから離れないようにかたまって歩き出す。
マンションの裏手に行くには、路地を回り込んで行かなければならなかった。マンションの前の道路を歩き十字路まで恐る恐る歩いて行く。
《・・・やはり・・朝出ていく時より荒れている気がする。そして・・人気も無くなったような・・みな家の中に潜んでいるのだろうか?》
十字路を回り込み、あゆみちゃんの友達の家の前に着く。
「ここです。」
家は綺麗なお家だった。東京の一軒家なのでお金持ちかもしれない。
《家には入れるんだろうか?》
「じゃあ行くよ!俺から離れないようにね。」
「わかりました・・」
「・・・・」
あゆみちゃんの顔からは血の気が引いている。今まで相当怖い思いをしたのだから当たり前だった。
遠藤さんが掃除機に包丁をくくりつけた槍をかまえ進んでいく。
彼がそっとドアノブを握って開けてみた。鍵はかかっていなかった。
「入るよ」
遠藤さんの声に私たち二人はうなずいた。
玄関を開けて中に入っていくと、特に何も乱れた様子はなかった。
ひとつのドアの前に立ち遠藤さんが即席槍を構える。
「ゴクリ」
遠藤さんの喉がなった。
ガチャリ
ドアが開く。
中には・・誰もいなかった・・ただ・・
部屋には争った跡があった。血飛沫も飛び散っていた。
私達に一気に緊張がみなぎる。
「なにがあったんだ。」
「争ったような跡がある。」
「他の部屋も見てみよう。」
台所に向かうが・・そこにも誰もいなかった。ものが散乱していたが変化はない。
「2階は・・どうかな。」
とにかく遠藤さんについて行くしかなかった。もう・・心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
怖くて怖くてたまらなかった。
手をつないでいるあゆみちゃんも震えている。
階段を一歩一歩上がっていく。
ギッ
音がして思わず3人とも立ち止まってしまう。音は・・自分たちの足音だった・・
「い・・行こう。」
二階について部屋の扉の前に立つ。
「開けるよ・・」
キィ
ほんの少しだけ音を立ててドアが開く。
しかし・・部屋には誰もいなかった。中は荒れていて争った形跡があった。
もう一つ奥のドアが空いていた。
そっと近づいてドアの外から部屋の中を覗いてみる。
「誰も・・いない。」
2階にも誰もいなかった。しかし争った形跡があり、争いながら家の中を移動したようだった。
「だれもいないね?」
「いませんね。」
「どこにいっちゃったんだろう?」
「あ、誰かの携帯電話が落ちてる。」
「誰のかな?」
「えっと・・このスマホカバーは友達のです。」
あゆみちゃんの友達の携帯がそこに落ちていた。
あちこち探すと数台のスマホがあったが持ち主は誰もいない・・
「誰もいないな…」
「逃げたんでしょうか?」
「わからない。」
「とにかく・・ここに居ても仕方がない。」
「いったん戻りましょう。」
いったん遠藤さんの部屋に戻ることにした。
また外を歩いて戻るのも緊張するとにかく3人は固まって歩くのだった。
マンションの入り口まで暴徒に会う事も人に会う事もなかった。
《ただ・・明らかに町は朝よりも荒れている・・》
次話:第32話 生存情報.




