第30話 女子高生 ー長尾栞編ー
通りのむこうから走って来た子はどうやら女子高生だった。
遠藤さんは彼女を見るとフォークを体の前に構えて警戒していた。
女の子が話しかけてくる。
「わたし!人間です!あいつらじゃありません!」
「え?大丈夫なんですか?」
「感染もしてません。」
遠藤さんは慌てていたようだが、私から見ても女の子は普通の人だった。
「遠藤さん・・もたもたしてたら・・」
「そうですね。」
女子高生はセーラー服を着ていたが全体的に薄汚れていた。顔に泥や血?のようなものが乾いてこびりついている。髪の毛もごわごわしていた。
でもよく見ると綺麗に切り揃えられたショートカット、目が大きいクリクリ目の美少女だった。
「早く乗って!狭いけど!」
遠藤さんが後部座席のものを奥に押し込んで、座席を空けてあげていた。
彼女を座らせた後で薬局から持ってきたものも全部放り込んでいく。
「ごめんね!狭いけどちょっと我慢して!」
「いえ!大丈夫です!」
女子高生が答える。
「よし!」
「はい!」
遠藤さんは車を出発させた。
「大丈夫??」
「えーん、うっうっ、ひっく・・うあああ・・」
私が声をかけると女子高生はとにかく泣いていた。話を聞ける状況じゃなかった。
「遠藤さん。とにかく落ち着かせるしかないですね。」
「そうですね。月極駐車場じゃなくマンションに直接向かいます!」
車は私達のマンションに向かう。その間も後ろでは女の子が泣いていた。
「大丈夫だよ!もう大丈夫だよ!」
「うっうっ・・うわーん」
慰めれば慰めるほどに泣き止むことは無かった。
「あれ?栞ちゃん・・なんかこの辺荒れてない?」
「ホントだ・・えっ?大丈夫ですかね?」
マンションに近づいてきたが町が荒れているように見える。
「あんなに穏やかだったのに。」
「どうなんでしょう?大丈夫なんでしょうか!?」
マンションに近づくと町が出発した時より荒れているようだった。おかしい・・出ていく数時間前と違う気がする・・明らかに違う・・
「どうします?」
「とにかく・・おりましょう。部屋に戻ればなんとかなる。」
「あなたは大丈夫?歩ける?」
「あ・・はい・・お・・おちつきました。」
とにかくマンションに着いた。しかし駐車場やマンションの前の道路にも争った跡があった。
「出かける前と明らかに違うみたい。」
「そうですよね?」
車はマンション前の来客用の駐車場に停める。
「みんな!降りますよ。」
「はい。」
「君も。荷物持てるかな?」
「持てます。」
3人に緊張がはしった…降りて大丈夫なのだろうか?
車を降りてマンションの玄関を中に入っていく。中は特にそれほど乱れた様子もなかった。
「自動ロックを開けます。」
「ああ、お願いします。」
ピピッピピ
ガー
自動ドアが開いた。
皆で恐る恐る中に入っていく。
マンションの中に入っても誰もいなかった。
「車には荷物がいっぱいあるから何度か往復しないといけないな・・」
「じゃあみんなで一緒に動きましょう。」
「私も・・離れたくないです。」
3人は固まって歩く。
中に入って遠藤さんがエレベーターのボタンを押した。
「動きますね。」
「使います?」
「そうですね。物が多いし。」
エレベーターが降りてくる・・
《まさか・・エレベーターが開いた瞬間にゾンビが大量にでてこないよね・・》
ドキドキ
ガー
一瞬息を呑む。
が
エレベーターが開いたが中には誰もいなかった。
結局。
3人で部屋と車を3往復する事となり大量の物資を遠藤さんの部屋に運びこんだ。
「マンション内は大丈夫そうですね。」
「そうだね・・とにかく一度もゾンビを見る事は無くてよかった。」
「あの・・ここは安全なんですか?」
「今のところはそうらしい。」
女子高生も普通に話ができるようになってきたみたいだった。
部屋に入り鍵をかける。
「とにかく冷蔵庫に入るものは入れてしまいましょう。」
「はい。」
「手伝います。」
冷蔵庫と冷凍庫にしまっていくが、全部は入らなかったみたいだ。
「冷凍系の生鮮とかは全部入れたいし栞ちゃんの冷蔵庫を借りても良いですか?」
「はい・・怖いので、ベランダ伝いで行きましょう。」
3人でベランダに出て私の部屋に行く。窓ガラスは普通に開いた・・
カラカラカラ
誰も・・いなかった。前と全く変わっていない。
トイレもシャワールームにもクローゼットにも潜むものはいなかった。全く荒れていない。
電気はまだ来ているようだった。
「全部しまえましたね。」
冷蔵庫に入れるべきものは全て入れた。
「あの・・君は、怪我とかしていないかい?」
遠藤さんが女子高生を気遣う。
「はい。でも返り血とかを流したいです・・」
「シャワールームを使うと良いよ。でもガスが出ないから水だけど・・」
「使わせてください。」
疲れている様子の女子高生はシャワーをすることとなった。
「髪の毛も可哀想なことになっているわ。中に私のシャンプーがあるから使ってね。」
「はい・・ありがとうございます。」
「じゃあ俺達は向こうの部屋に行っているよ。」
「待ってください!ここに!ここに居てください!」
「あ・・ああわかった。」
高校生は遠藤さんにシャワールームの前に居て見張りをしてほしいという。
「あの・・電気でお湯を沸かすからちょっと待ってて。」
遠藤さんが電気湯沸かし器でお湯を沸かす。
シュー
お湯が沸いた。電気ポットも持ってきてシャワールームの前に置いてあげる。
「お湯が沸いたので使ってね。」
「ありがとうございます。」
ガチャ
女子高生が服を脱いでシャワールームに入っていったみたいだ。
シャー
「ひゃっ!」
冷たそうな声が中から聞こえてきた。
「桶に溜めてお湯で割ってください。」
「あ、すみません・・いきなり水をかぶったものですから。」
女子高生がシャワーを浴びている間に、着替え用に私の部屋着を用意してあげる。
「えっえっ・・ひっく、ひっく。」
シャワールームに部屋着を置きに行った時・・中から嗚咽が漏れた。
シャワーを浴びながら泣いている。
辛い思いをしてきたんだろう。
「話を聞いてあげなきゃ」
「そうだね。」
しばらく二人でシャワールームから彼女が出てくるのを待つのだった。
とうとう・・女子高生を拾ってしまいました。初めての生存者に遭遇して新しい生活が始まります。30話迄読んでいただきありがとうございます!ブックマークも増えてまいりました!感謝の気持ちでいっぱいです。評価を高く付けていただいているようでうれしく思います。何卒引き続きよろしくお願いいたします!
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