第03話:友達 ー長尾栞編ー
実家からの仕送りを開けてみると、お米が10キロとレトルト食品が2セット、チャーハンの素とインスタント味噌汁、調味料やマヨネーズ、チョコレートなどのお菓子が適当に入っていた。
詰め替えのシャンプーとコンディショナーも入れてある。
お米は地元のミルキーヒカリだった。やはりお米は地元産が一番美味しいと思う。
「お母さんったら。」
父は税理士の仕事をしていて、母は私が大学に出るのと同時にパートに出た。
私が一人暮らしで家を出たため、家族の面倒をみることがなくなり父が帰るまでの時間をもてあました結果・・介護専門の人材派遣会社のパートの事務で働き始めた。朝9時から3時までの仕事で週4日が丁度いいらしい。父は母が働くのを反対したが、母はそれをおして働きに出た。
父の稼ぎだけでも十分なのだが、母はせわしなく働いていたい人なのだ。
《私もその血を受け継いでいるのか、十分な仕送りをもらっているのにバイトしてるけど・・》
母の給料は母が自由に使えるので、私への仕送りが趣味みたいな感じだった。いきなりお母さんの名前でネットショップから服が届いたりする。今着ているジェラルタピクの部屋着も、母からの贈りものだった。
「あ。」
母の手紙が入っていた。
ー栞へー
あなたの事だからきちんと食べていると思うけど、買い物も大変だろうから食べ物を送りました。あとお気に入りのシャンプーとコンディショナーも入れておきましたよ。ではお正月に帰ってくるのを楽しみにしています。
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簡単な内容だった。いつもSNSで連絡とってるから特に手紙なんていらないような気もするが、心がこもっている感じがして温かかった。
「とりあえずご飯作るか。」
仕送りの食べ物をしまい込んでダンボールをたたみ、ご飯の支度をはじめる。お米はまだ前のが1キロくらいあるが虫のつかない米びつを買ってよかった。10キロ食べるのに何ヶ月かかる。
「また、お米買ってもらっちゃったな。」
とりあえず前のお米を食べ終わったら今回のお米を入れようと思う。お米はいつも夕方に2合炊いて残った物をフリーズ室に入れ、次の日の朝食にレンチンして納豆とお味噌汁やコンビニで買ったサラダと一緒に食べるようにしている。
お米をといで炊飯器のスイッチを押した。
ピッ
部屋に戻ってスマホを触ると SNSに通知が来ていた。
大学の友達のなっちゃんからだった。
ーしおりん今どこ?
家ー
ーくつろぎタイム?
そっー
ー行っていい?
いいよー
ーじゃ行くね
ご飯食べた?ー
ーまだ
じゃ一緒に食おうぜ!ー
ーわーい
まってるよん!愛しのなっちゃんー
ーわかったよハニー
SNSのやりとりを終えてなっちゃんを待つ事にする。なっちゃんとは入学からの友達で1番の仲良しだった。名前は真中夏希。わたしと同い年のピチピチの女子大生だ。
「じゃあなに作ろっかな?」
私はそれほど料理が得意ではなかったが、一人暮らしをはじめて少しは上達した。ありきたりな料理しか作れないけど、せっかく友達がくるし・・
冷蔵庫の中を見ると鶏肉が置いてあった。
「鶏肉かあ・・じゃあ。」
野菜室を見ると玉葱とネギ、ピーマンと、プチトマトが入っている。
「よし!決まり!」
野菜室から玉葱とピーマンを取り出して刻み始める。それをフライパンで炒めいったん皿にとりだした。次は鳥のささみを細かく刻んでフライパンで炒め塩コショウで軽く味をつけておく。火が通ったのでコンロのつまみをひねりガスを止める。
「なっちゃん来るまで待つか・・」
しばらくスマホでパズルゲームをしていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。
「はーい。」
「しおりん!来たよ」
「入ってー」
一階のドアロックを開けてあげてから、なっちゃんが部屋にあがってくるまで玉葱とピーマンを温め始める。
ピンポーン
部屋のインターホンがなった。
ガチャ
「どうぞどうぞ!」
「おじゃましまーす。」
「部屋で待ってて。」
なっちゃんがコートを脱ぐ。
だいぶ元気な格好をしていた。セクシーなんだけどいやらしくない。黒に白ロゴの入ったゆったりシャツと、ダメージデニムパンツをはいていた。腰のあたりが透けて見えるので、中は紐パンをはいてるんだと思う。
「なっちゃんーずいぶんセクシーやね?」
「そっかい?」
「何飲む?ミルクティーか麦茶だけど。」
「あ、わたし買ってきたよ!無糖紅茶!」
「あ、飲む―!」
なっちゃんは無糖紅茶2リットルと、クリームブリュレを二つ買ってきてくれた。
「これ好きー!」
「でしょでしょ。」
なっちゃんに買ってきてもらったクリームブリュレを冷蔵庫にしまう。
「なっちゃん座っててよ。」
「はーい。」
なっちゃんを部屋で待たせて手早く料理を作っていく。
「よし・・あとはケチャップでハートを描いてと。コンソメスープをそそいで・・」
よし!
ガラリと部屋のドアを開けて料理を運ぶ。
「お待たせ―!」
「うわぁ!おいしそう!ハートマークのオムライスじゃん!」
「特製の愛情入りよ。」
「しおりん・・俺に惚れてるな。」
「なっちゃん好きー♪」
女子大生ふたりの馬鹿会話が続く・・
「いただきます。」
「どうぞ!」
「んーおいしい。」
「よかったー!」
ふたりでオムライスを食べながらいろんな話をした。そして以前、私の身に降りかかった事の話になる。
「それよりさあ、しおりん大丈夫なん?」
「なにがよ。」
「あのこと・・」
「ああ、あれなー。」
それは少し前・・今から数ヶ月前の出来事だった・・
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