第27話 家を出る ー長尾栞編ー
いよいよ・・家から出る日が来た。
《大丈夫かな・・いきなり襲われないかな。》
とにかく恐怖で身がすくむ。
「栞ちゃん。これを持ってください。掃除機の筒の先にガムテープで包丁を括り付けた槍と、ダンボールをナップザックに貼り付けたからこれを体の前に背負うように。」
「う、うん」
遠藤さんに言われるとおりに、体の前を守るようにしてナップザックを背負い背中でカチリとベルトを締めて即席の槍を持った。
私は頷いて合図をおくる。
遠藤さんが恐る恐る・・ドアのカギを開けた。
ガチャリ
部屋の外に出るが、廊下には誰もいなかった。
「よし!誰もいないみたいだ!いくよ!」
「はい!」
廊下に出て注意しながらエレベーターの方に歩いて行く。
「栞ちゃんエレベーターが止まったりしたら、出られなくなるといけないから非常階段で降りよう。」
「そうですね・・」
階段の中に入る。
《薄暗くて・・怖い・・》
階段には特におかしなところが無かった。非常灯もついているし安全に降りることができた。
いつもエレベーターしか使ったことがないだけで前からこうだったのかもしれない。
《あれ?でも2階を通過したとき人の声がしたような・・》
遠藤さんは気がついていないようだった。気のせいかもしれないので黙っていた。
とにかく足早にマンションの入り口に来た。一階のドアロックは生きていて、電源が入っているらしく普通に開いて外に出る事が出来た。
私は掃除機の筒に括り付けた包丁の槍を構えて外に出る。マンションの外は思ったより荒れていないようだ。
「月極駐車場まで歩きます。」
「は・・はい。距離はありますか?」
「そこそこ。でも何とか頑張っていきましょう。」
歩いているうちに町が荒れていく感じがした。
《血痕がある?・・すっごく怖い。》
遠藤さんも相当怖がっているようだった。
無理もないと思う。こんな荒れた町に血痕が残っている・・そこを歩いているのだ・・どこから何が出てくるのかが分からない。周りを警戒するように歩いているため、じりじりとしか進めなかった。
「そろそろですか?」
《遠藤さんの自動車が停めてある月ぎめ駐車場に着くのはどれくらなんだろう?早く・・早くたどり着いて。》
「もうちょっとだよ!大丈夫だ・・大丈夫。」
遠藤さんも自分に言い聞かせるように私に言う。
「あそこです。」
遠藤さんが指さす方向に駐車場が見えてきた。
「えっとどこですか・・」
「あの黒い軽自動車です。」
「もう走りましょう!」
じりじり歩くのがもう怖くて怖くて走る事にした。
二人で車まで一気に走った。遠藤さんがカギを開けてくれたため助手席に飛び乗った。運転席に遠藤さんが飛び込んで来る。
《はやく!はやく!》
私は心の中でそう呟いていた。
チュチュチュチュチュチュン
《えっ?どうしたの。》
心なしか遠藤さんが焦っているようだった。
《車のエンジン・・かからないの?》
チュチュチュチュブオーン!
エンジンがかかったようだった!
遠藤さんが車を運転して月極駐車場を出る。道路には動いている車や歩行者はいなかった。
とにかく街がどうなっているかを見る必要があった・・
「ひどい・・」
「荒れ果ててる・・」
道路には乗り捨てられた車がそこら中に置いてあったが、何とか間を縫って走っていく事が出来た。でもどこで車が通れなくなるのかも分からない・・私は手に汗握りながら座っていた。
「業務用のスーパーに向かってみる。」
遠藤さんが言うので私は無言でうなずいた。
難航すると思っていたが・・あっさり業務用食品スーパーに到着してしまった。
「じゃあ!いくよ!」
業務用スーパーの駐車場には誰もいなかった。しかし車は散乱して置いてあり、車の間を走り抜けて業務用スーパーの自動ドアに一目散に向かう。
《怖い・・何もいませんように!》
「暴徒もいないようだ!走ろう!」
遠藤さんは手にフォークしか持っていないのに勇敢にも前を走っていく。
自動ドアの少し前に立って、中をのぞいてみる。
「だれか・・いるかな?」
「静かですね。」
「開くかな?」
ふたりで自動ドアの前に立ってみる。
ウィーン
「開いた!」
「開きましたね・・なにもいない・・」
「そうですね。」
「とにかく中に入りましょう。」
とりあえず二人で恐る恐る自動ドアの中に入っていく。
店内は電気がついていて明るかった。まるで普通に営業しているようだ・・どういうことだろう?暴徒なんか少しもいなかった。
二人は寄り添うようにして、じりじりと中に進む。
《怖い・・心臓が破裂しそう・・誰もいないのだろうか・・》
さらに奥に入っていくと、ガラスなど割れているところがある。散らかっているところも多少あるが、しかしそれほど乱れた形跡はない。
遠藤さんはさらに奥へと進んでいく。
《きっと遠藤さんはこの店で買い慣れてたんだろうな・・》
とにかく遅れないように遠藤さんについて行く。
「冷蔵庫があります。」
「ほんとですね。」
二人で冷蔵庫まで近づいてみると・・がっかりな結果だった。
冷蔵庫の中にあった肉はドリップが出て変色していた。軽く腐ったような匂いがする。
「これは食べられないです。。」
「ですね。」
どうやら肉は無理なようだった。
「こっちに冷凍庫が・・」
遠藤さんについて行くと、大きな冷凍庫ルームがありそこに冷凍肉があった。
「冷凍牛肉なら食べられそうです。」
「はい。」
「ちょっとカートとってきます。」
《えっ怖い。一人でこんなところにいれない!!》
「あの!私も行きます。」
二人で店頭にカートを取りに行くのだった。
次話:第28話 食料入手