第23話 隣人 ー長尾栞編ー
なっちゃんと梨美ちゃんとの連絡が途絶えて早くも1週間がたった。
私の食料も底を突いて数日が過ぎていた。
1日1回ほんの少しのご飯とレトルトを小分けしたものを食べていたが、すでにそれも無くなっていた。
お腹が減りすぎてまともな考えが浮かばない。少しめまいがするようだった。
何も手につかなかった。そろそろ自分も一人で外に出かけなければならない・・そう思っていた。
「なっちゃん・・梨美ちゃん・・どうしちゃったのかな・・」
ポロポロと涙が出てきた。
《思い切ってこのまま外に出かけたら、特に問題なくコンビニで買い物とか出来ちゃうんじゃないか?》
危ないのはなんとなくわかるが冷静な判断がつかない。
ひとりでは怖くてシャワーも浴びていなかった。シャワーを浴びている時に何かあったらどうしようと思っていたからだ。いつ何が起きるか分からない・・極限の精神状態だった。
そんな時・・
カラカラカラカラカラ
隣の部屋のベランダの窓が開く音がした。
《えっ!人だ!隣に人がいたんだ!まだ外に出ていないんだ!》
そっと窓を開けて隣をのぞくと、引っ越しの時に挨拶をしにきた男の人が外を見ていた。
勇気を振り絞って声をかけてみることにした。
「あの・・」
「うわぁあ」
驚かせてしまった・・
「はい!」
男性の返事が裏返っている。
「あの・・無事ですか?」
「なんとか…、そちらは?」
「まだ、なんとか…ただもう限界です。」
「どうしたんですか?」
「食料が…」
「あ!それであれば俺がなんとか出来ます。防火戸を破りますんでこちらにきませんか?」
「いいんですか?」
「助け合いましょう!」
部屋と部屋の間のベランダを遮る壁を破ってくれた。私はそこを通り隣の部屋に行く。
「いま食べ物の準備するから待ってて。」
優しい声でご飯を用意してくれると言ってくれた。
彼が作ってくれたのはステーキ醤油で味付けした豚肉と、ブロッコリーとブドウジュースだった。
お腹がペコペコだった私は、はしたないと分かっていながらも勢いよく食べ始めた。
《おいしい!おいしいよぅ・・。辛かった・・》
あっというまに作ってくれたご飯を平らげてしまった。
「落ち着きましたか?」
男の人は私に声をかけてきた。あくまでも優しく紳士的な態度だった。
「はい、ありがとうございます。」
「相当疲れてますね。」
優しい言葉に思わず涙があふれてきた。本当にもうだめかと思っていたから・・
「えっぐ、ええ、えーん。」
つい子供のように泣き始めてしまった。私は涙を止める事が出来なかった。
「ほんとに、ほんとに不安で!まさか隣に人がいると思いませんでした!」
「俺もまさか隣に人がいたなんてびっくりしました。」
「音を立てないように、じっとしてました!」
堰を切ったように話し出す。
「あ!俺は遠藤近頼です。」
「私は長尾栞です。」
お腹が膨らみ、隣人の遠藤さんの言葉に安心した私は・・ついウトウトし始めた。眠たくて仕方がなかった・・ヤバい!しらない男の人の前で寝てしまいそうだ。
「あの、すみません。寝ていないので…」
「あ、部屋に戻りますか?」
本当に遠藤さんは紳士的だった。自分の部屋に戻れというが・・私はそれをためらった。
「いえ、ここで眠ってもいいですか?」
つい言ってしまった。知らない男の人の部屋に眠ってもいいかと聞いてしまった。しかし・・一人の部屋には戻りたくなかった。怖さと不安でいたたまれなくなる・・
「ああ、かまいませんよ。どうぞこちらでお休みください。」
ベッドを貸し出してくれた。
「いえ・・床で結構ですから・・。」
と私が言うと遠藤さんは頑なに断って来た。
「長尾さん相当疲れているみたいだからベッドで眠った方がいいですよ。俺が床で寝ますからゆっくり眠ってください。」
「あの・・あの・・シャワー浴びてなくて汚くて・・」
「いいからいいから!」
きっぱりと言われ、私は断る事が出来ずになすがままにベッドに横になる。するとあっというまに意識が遠のいていくのがわかった。
《やっと‥眠る事ができる・・》
私は意識を手放した。
朝起きると遠藤さんはまだ床で眠っていた。彼も疲れていたのだろう。
私がもぞもぞと起き始めると彼も気が付いたようで起きてきた。
私はあまりもの安心感に放心状態だったが、遠藤さんにお願いをしてみることにした。
《どうせ部屋に戻っても心細いだけだった・・出来たらここで・・》
「あの…ここで一緒にすごしていいですか?」
思い切って大胆な提案をしてみる。
「いいですよ。俺も2人なら心強いです。」
快い返事をもらった。しかしこのままでは私の着替えも何もない・・自分の部屋に取りに行かなければいけないのだが、なぜだろう?一人になるのがとても不安だった・・また一人になる!そんな怖さが襲ってきた。
「あのう・・部屋に着替えや調味料を取りに行きたいんですが、一緒に来てもらえないでしょうか?1人になるのが怖いんです!」
「もちろん!お安い御用ですよ」
遠藤さんは紳士的だった。普通についてきてくれるという。
自分の部屋に戻った私はまず収納ボックスに向かう。
まず着替えの服と下着を確保した。
「あとは・・」
その後キッチンにいって油と調味料をとった。
「あの・・油と調味料・・使うかわからないですけど・・」
「いや・・助かります!調味料はいくらあっても助かる。」
そう言ってくれた。
その後で私はトイレに行って生理用品と化粧ポーチを持ってきた。
「あとベッドの上の布団を・・」
「ああ俺が運びますよ!任せてください!大丈夫です。」
遠藤さんが布団を運んでくれた。いろいろと必要物をもって遠藤さんの部屋に戻る。
「安心しました。遠藤さんありがとうございます。」
「いいんですよ!力を合わせてきりぬけましょう!」
本当に安心だった。一人の時よりもだいぶ力が湧いてくる。
ただ・・これから・・どうするんだろう?
その不安は無くならなかった。
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