第192話 懸念
俺と菜子様との子供って立場的にどうなるのだろう?
俺は皇族でもなんでもない一般人だが、母親が皇族でその息子なら天皇だよな?そもそも前天皇はゾンビになってるので、今は天皇不在の状況となっている。むしろ崩壊した世界のそれに何か意味があるのだろうか?
「どうしたの?難しい顔して?」
俺の隣には、ただの普通の女の子にしか見えない…というかただの女の子の菜子がいた。みんなは菜子様と呼んでいるが、取り立てて皇族として扱っているわけじゃない。
「いや、菜子と俺の子供ってどうなるのかなって」
「ああ、そんな事か。もう日本という国家は無いわ、そういうのとは関係ない一人の女として生きて行くだけよ」
彼女はこの世界になる前、その可愛らしい容姿でなかなかに人気があった。時折報道番組に出る事があり、その愛嬌のある容姿で国民の人気を集めていたのだ。そんなテレビの中の人が俺の隣で、飯を食っているのだ。それもそのはずで、今日の俺の相手は菜子だった。どちらかと言うと、この世界の前にプライベートが無かった菜子にとって、俺とのこんな関係でも十分楽しそうに見えた。目をくりくりさせてニコニコしている。
「一夫一婦制の日本でこんなことになるなんて」
「ほんとね、一夫百婦なんて尋常じゃないわ」
本当のことではあるが、彼女の冗談だ。
そんなことを言って笑う彼女は、どう見ても普通の女の子だ。意外に冗談も言うし、全く堅苦しくないのが彼女の特徴だった。普通の一般人の感覚と全く変わらない。恐らく俺達一般人が勝手に彼女を、《偉い人》として見ているだけなのだろう。
「何かしたいことは?」
「話が出来れば十分」
「そうか」
「ええ」
とはいえ、彼女との話はなかなか弾むものではなかった。偉そうにしてはいないといっても、住む世界が違った彼女の感覚はまた特別だからだ。
「この世界になる前の話でも?」
「いいわ」
「ずっとマスコミに追われていたように見えるけど、何かすればすぐにニュースになって、大変じゃなかった?」
「大変だった!でも慣れたという感じかしら。もちろん広く交友関係を広げるなんてできなかったけど、御婆様もお母様も良く話を聞いてくれたし、気を病むことは無かったわね」
「そうか。俺達一般人には、その苦労が分からないな。俺だったらきつかったと思うよ。本当に菜子はすごいな」
「そんなことは無いのよ。まあバッシングを受けた時は厳しかったけど、それも過ぎ去れば日本人は忘れてしまう。だから時間が解決するという感じだったわ」
「俺達が見ていたのは君のほんの一部だからね。それを全てわかったようにマスコミが書き立てて、本当に酷いなと思った」
「ふふ。もちろん心無い言葉ももらったけど、遠藤さんのように思ってくれる人も、たくさんいたから大丈夫だった」
俺とは全く違う悩みを抱いて生きてきたのだ。こんな世界になってしまっても、強く生きれるのはそういった経験があったからかもしれない。
そんな話をしながら二人の昼食が終わる。ルーティーン通りなら、午後はそのまま二人でトレーニングをして、一緒に仮眠をとる事になっている。彼女の要望で自分の順番の日は、1日そうしたいという事になった。まるで夫婦のように寄り添いたいと、そう言うのだった。
「じゃ、いこうか?」
「はい」
俺達はそのままトレーニングのためにダンスルームに移る。
「何する?」
「したいことあるよ」
「なに?」
「バスケ」
「したことあるの?」
「ない」
しかしここはダンスルームなのでバスケットゴールが無い。どうしようか迷っていると、菜子が言う。
「ゴールを日曜大工で作るって言うのはどうかしら?」
「それも良いね。ボールはあるのかな」
「それは回収しないといけないわ」
「次の回収の時にお願いしよう」
「我儘かしら?」
「俺の頼みなら通るよ」
「うれしい」
菜子が俺の腕に手をからめ喜んでいる。彼女はこの状況でも強く先に進もうとしているのだ。
「今日はどうしよう?」
「ダンスはどうかしら?」
「俺は出来ないけど」
「社交ダンスよ」
「そっちか。いずれにせよやったことが無い」
「じゃあ教えるわ」
そして俺は菜子と一緒に社交ダンスをすることになった。姿勢が大事だとか体を支える時の体幹だとか、いろいろと学ぶことがあった。一通り練習しているとだいぶ汗が滲んできた。普段のトレーニングで使っていない筋肉を、使っているようだ。これはこれで十分な運動になる。
「はあはあ」
「ふう」
「なかなかにたのしいね」
「音楽があればもっとたのしいわ」
「音楽か、それは直ぐに用意できそうだ」
「そうね」
「そろそろ部屋で休む時間だ」
「じゃあ行きましょう」
そして俺達はダンスルームを後にした、廊下には今日の家事担当の女性たちがいる。俺達はその中を歩いて行く、すると佐波梨美が洗濯物をもって歩いていた。
「梨美ちゃん」
「あ、遠藤さん」
梨美は栞や夏希の同級生で、女子大生時代にこのゾンビの世界に巻き込まれてしまった。彼女らもそろそろアラサーとなり、だいぶ大人になった。菜子も同じアラサーで、この二人は仲が良かった。
「梨美は家事担当か?」
「今日はそう、今日は菜子様の日だったわね」
「ええ。一日中一緒に居るの」
「楽しそうでいいわ。運動して来たの?」
「ダンスをね」
「そうか、遠藤さんはダンスは?」
「初心者だよ」
「いい運動になりますよね」
「息が切れた」
「わかる」
どうやら菜子は梨美もダンスに誘っていたらしい。そのうちダンス部が出来そうな感じだ。
「じゃあ今日は楽しんでね」
「ありがとう梨美」
「じゃあね梨美ちゃん」
「はーい」
すでに梨美とは子供を儲けていた。男の子でゾンビ消去の遺伝子を持っている事は確認済みだ。ここ皇居で一緒に暮らしている。
俺達は部屋に戻ると、すぐにシャワーを浴びる事にした。ルーティンではここから10分から20分寝る決まりだ。
「じゃあ菜子が先に浴びて来れば?」
「遠藤さんが先にどうぞ」
「わかった。じゃあ先に」
そして俺が先にシャワー室に入る。ガスはきちんと供給されているので、暖かいお湯が出るのがありがたかった。ボディーソープやシャンプーは使い切れないほどあるので、節約することなく使える。シャワーを出ると、菜子が代わりにシャワールームに入った。
「ふう」
一人になった部屋で俺はため息をつく。
毎日だ…。
今日の相手も昨日とは違う相手だというのに、まるで恋人のように過ごしている。この集団生活が始まってから、ずっとこの調子だったので、特に罪悪感を感じる事も無い。むしろ、恋人のように過ごしているのにも関わらず、まるで仕事をしているような気分になってしまう。いや…気分ではない、仕事をしているという感覚で間違いない。
「どうしようか…」
俺は自分のいろいろな問題に直面していたのだった。自分が精神的に満たされているのか、そして男性としての機能が終わってしまったらどうなるのだろう?という不安だ。年をとっても、今と同じような事ができるのだろうか?そもそも既に無理なのではないか?
「子供もいるんだし…」
俺はついつい一人の時にブツブツとつぶやいてしまう。どうしても葛藤が付きまとうからだ。
既に同じ遺伝子を持つ男児がいる。それであれば、俺はそろそろお役御免になってもいいのではないかと思う。皆と同じように回収に出かけ、生存者を見つければ助けて皆のために仕事をする。最初の頃のように…そうなってもいいのではないかと思うのだ。
だが…
華江先生が言うには、俺の遺伝子はオリジナルなので貴重だというのだ。一応実験の結果は、男児はゾンビ消去遺伝子を持って生まれ出ている。しかしそれは微妙に違う場合があるというのだった。突発的な出来事で、その能力がきれたり成長過程でどうなるか分からない以上は、成人して最初から能力が発現していた俺の遺伝子は重要なのだといっていた。
「どうしたの?難しい顔して」
菜子がタオルを巻いて出て来た。まるで彼女だ。
「なんていうか…将来的な事をいろいろと考えてしまう時があってね」
「まあ…そうよね。みんながそうだから仕方がないわね」
「ああ。まあ気にしないでくれ、そんなに大したことじゃない」
菜子がソファーに座って髪を乾かし始める。発電機が置いてあるのできちんと電源も来ていた。髪を乾かし終えた菜子が隣の部屋に行って、部屋着を着て戻って来た。
「ふう。あったまったわ」
「だね」
すると菜子が俺の隣に座って、俺の頭をスッと胸元に抱きしめてくれた。なんだか包まれるようで落ち着いた。
「あまり考え込まないように」
「ありがとう」
「えっと、今日はルーティーンを飛ばしてみる?」
菜子が言う。
「仮眠を飛ばすって事?」
「ここなら先生の管理も無いし、別にいいんじゃないかしら?」
菜子は吉永さんと同じように、杓子定規ではない柔軟な考え方を持っていた。俺の皇族のイメージは、もっと硬い考え方を持っていると思っていたがそうではない。凄く柔軟な人だった。
「わかった」
そして俺と菜子はそのままベッドに行って、シーツに潜り込むのだった。
「考えない、考えない。しー」
「ああ」
その言葉一つで救われた。俺は今日の菜子との日課を果たすのだった。そのまま眠りについて起きたのは夜の8時だった。
通常なら夕方に食事のために俺達をおこしに来るのだが、恐らくは吉永さんが気を使ったのだろう。誰もこなかったので、そのままぐっすり眠ってしまったようだった。
「腹減った」
「わたしも」
「飯まだ大丈夫かな?」
「キッチンに行けばなんかあるんじゃない?」
「行くか」
二人で服を着てキッチンへと向かう。するとまだ食事をしている人たちがいた。中期に助けた牧澤カレンと女たちだった。
「あ、終わった?」
牧澤カレンは、あまり気を使った話方を出来る人間では無かった。だが裏表のない純粋な人間だと分かった。最初はコイツ何を言うんだ?と言う事もあったが、皆が彼女の性格を知り、今ではそれが普通なのだと接するようになった。
「カレン、もうちょっとオブラートに包んで」
菜子が言う。
「ゴメン。なんていうか、日本語は奥が深い」
カレンはハーフだが、日本人との付き合いは長い。だがその癖が取れないらしく、ついついストレートな物言いになってしまうのだった。
「ふふふ」
「あははは」
菜子と俺はついつい引き込まれて笑ってしまう。牧澤ワールドにすっかり飲まれてしまうのだった。
「てか食べるでしょ?」
「あるならうれしいわ」
「あるよ」
牧澤カレンは俺達のために、食事を用意してくれるのだった。だがいつもの俺の自然食品を使った料理ではなく、レトルトとカップラーメンが中心だ。どちらも冷凍保存してあるものなのだが、かなり賞味期限が過ぎたものなので美味しくは無かった。だが俺以外はそういう食べ物を食べて生きているので、改めて俺は自分の置かれた特別な立場を理解する事が出来た。子供達にも栄養価の高い食べ物がふるまわれているが、女性が35歳を過ぎるころには食生活は変わってしまうのだった。
「ありがとう。美味しかった」
「どういたしまして」
牧澤カレンが屈託なく笑う。自分が既に俺との時間を過ごす事が無くなっている事に、何も思ってないと言えば嘘になると思う。だが俺の前では一切嫌な顔をした事が無い。
そう、実は女性は俺より切実なのだ。母体の安全な出産の年齢を過ぎると、医療がずさんな今、女性達には死の危険があるのだ。そのため安全策をとって、一定の年齢を過ぎると俺との交渉は無くなってしまうのだ。
「後片付け手伝うよ」
「あー、だめだめ。遠藤さんはしないで、私たちがやる事になってるんだから」
「そうか…わかった。ありがとう」
「いーのいーの!」
そう言って牧澤カレンは食器を片付けていく。
「じゃあごめんね。部屋にもどるね」
菜子が言う。
「うん。じゃあまた明日ね」
「また明日」
「おやすみ」
俺と菜子はキッチンを後にする。
「なんか大丈夫?」
「いや…考えされられちゃってさ」
「そうよね。でも生きて行くには仕方ないわ」
「ああ、分かってる」
俺達が歩いて行くと、梨美が一日の仕事を終えて部屋に戻る所だった。
「梨美!」
「あ、菜子様!お疲れ様。もうお休みになるのかな?」
「まだ寝れないかな」
「そうだ!良かったら梨美ちゃんも部屋に来ない?」
「いや今日は私の番じゃないし、菜子様の邪魔したくないし」
「あと何もないでしょ?行こう」
「それはそうだけど、いいの?」
「話をしよう」
「わかったわ」
そう言って、梨美が俺と菜子について来る。そのまま部屋に戻ってソファーに座った。
「今日はこのまま3人で寝ましょうよ」
「いいの?」
「ああ、俺もその方が良いかな」
「んじゃそうする」
俺達は梨美を含めて3人で話をする時間を作った。おそらく菜子は俺の精神状況を考えて、このような場を作ってくれたように思える。
「梨美、家事ご苦労さん」
「いえ、大したことはないわ。生存者救出に比べれば楽」
「俺はしばらく外に行ってないなあ」
「だよね」
「ああ」
「やはり息が詰まる?」
「そうだね」
「最初の20人くらいの時はこんな感じじゃなかったのにね」
「ああ。もちろん今の方がはるかに生活は楽だが、あの時は皆で必死にやってたよね。こんなことを考える余裕が無かったのかもしれないな」
「そうかもね」
梨美も俺と似たような事を考えているようだった。というか、恐らくみんなが同じような事を考えているのかもしれない。口に出さないだけで、不安が無いわけではないのだ。
「私も梨美も後、8年ってところかな。それまではまだ…」
菜子もさっきまでは考えないようにしていたようだが、牧澤カレンたちとの食事のせいでいろいろと考えてしまっているらしい。つい口走ってしまったようだった。
「ごめんね。みんなの悩みをよそに俺が不安になったりして、俺は男で、まだまだ猶予が残されているのに」
「ううん。そんなことないよね梨美」
「ええ。遠藤さんは何も悪くない」
「人工授精の設備も無いし、専門の医者もいない。ましてや荒廃した世界にそんな設備と人員を完備する病院なんてありえないもの」
梨美と菜子がフォローしてくれる。二人はどちらかといえばおとなしめの性格で、大和撫子という雰囲気だが、こういう時に本音で話してくれるから好きだ。
「まあそうだよな。代理母なんていうのも無理だろうし、華江先生も実際の性交渉で受精するしか方法が無いと言ってる」
俺が言う。
「高齢になった時に命の保証もないし、子供になにかあれば対処できないのよね」
「そうだね菜子。確かに正論だし華江先生の言う通りなんだけど、やっぱり人間は杓子定規ではいかないよなあ」
「ほんとそれ」
「ほんとよね」
俺達は3人で自分たちの悩みを吐き出すのだった。
「俺も不安があってさ」
「えっと、最初の頃に起きた事よね?栞から聞いてる」
梨美が言う。最初の事と言うのは、俺が不能になってしまった事件だ。なんとか克服したものの、やはりその不安は今でも付きまとうのだった。実際に何度かダメだったこともあり、その日の担当の女性には大きな迷惑をかけたことがある。
「そうよね。私も極力、遠藤さんにはそう言う思いをさせたくないと思っているの」
なるほど、菜子がなるべく1日を使って俺と居てくれているのは、俺を気遣ってのことだったのか。俺はてっきり俺となるべく長く居たいからだと思っていた。
申し訳ない。
「最初は、過激な事もあったしね」
「梨美も聞いてるか?」
「おねえさん組がマンネリを打破するために、いろいろな事をしたと」
「そうなんだよ。それはそれで何とかなったと思うが、次第に感性が麻痺していってダメになりそうだったんだ」
「ダメにならなくてよかった」
「辛うじてね」
「とにかく制度的なものは仕方が無いとして、人間の感情の部分を何とかしないといけないとは思う」
菜子がしみじみと言う。俺もその通りだと思うし、梨美も同じことを考えているようだ。だからといって、なにか打開策を思いつく事も無かった。
「そうだな。まだ大丈夫だとは思うが、幹部を集めて話し合う必要がありそうだな」
「だね」
「そうね」
幹部と言うのは初期のメンバーの事だった。それぞれに役割を持って、所属長のような仕事をしているのだ。
幹部のメンバーは18人。
髙橋優美、大角華江、北あずさ先生、牧田奈美恵、長尾栞、真中夏希、川村みなみ、佐波梨美、高田あゆみ、橋本里奈、真下瞳、吹田翼、吉川沙織、北原愛菜、白岩麻衣、畑部未華、春篠宮菜子、吉永奈穂美
だが話し合いをするにしても、十分な根回しが必要になりそうだ。特に変な先入観を持たれても仕方ないし、こちらも何か含みがあるわけでもない。ただ純粋に皆の気持ちを守るために、何かできないかを話したいだけだった。
「もう終わった人もいるしね…」
そう、既に子供も生まれ、妊娠を避ける年齢になった人もいるのだ。
大角華江、北あずさ先生、真下瞳、吉永奈穂美の4人だ。他のみんなはまだアラサーだったり20代半ばだったりする。その4人と他の人たちでも意見は違うはずだった。
「吉永は大丈夫」
菜子が言う。
「確かに彼女はかなり柔軟だ。誰か不安になっている人がいれば、妊娠の可能性が無いように一緒に手伝ってくれる時もある」
「彼女はそう言う人だから」
「真下さんは、里奈ちゃんが幸せならいいって感じたから問題ないわよね」
「そうだな」
女優、橋本里奈のマネージャーだった真下さんは、既に自分の子供もいるが、里奈のことを同じ子供のように思っている。恐らくはスムーズに話を聞いてくれるだろう。
「って事は、やっぱり先生達か」
「そうなるわね。彼女たちは悪気があって、この制度を作った訳じゃない。将来の人類のために日々研究を重ね、最善だと思っている事をしているわ」
菜子が言う。
そしてそれはその通りだった。彼女たちは何もこの組織を独占しようとしているわけではない。むしろその逆で、可能性を感じて自由に子孫を増やす事を推奨している。だが母体の危険性を唱えたのも彼女達だ。一定年齢を超えたら性交渉を無くすというのは、一部修正の余地がありそうな気がする。
「だけど、遠藤さんの精子はとても貴重な物。やはりそこをどうするかを提案していかないと、難しいと思う」
「ああ」
「そうね」
「梨美は栞さんや夏希ちゃんと仲がいいわよね?」
「元は同じクラスだからね」
「彼女らの根回しは、梨美が良いと思う」
「わかったわ。彼女達なら分かってくれると思う」
「そうよね。明日は我が身だもんね」
「ええ」
梨美はおとなしい感じの女性だったが、こういう時に心強い。責任感があって、みんなのために何が出来るかをいつも考えている。
「じゃあ私はまずは吉永、そして吉永と一緒にエネルギー担当の沙織さんと愛奈さんを説得するわ」
「わかった。じゃあ俺は優美を通じて、仲が良い麻衣に話してもらおう。あと翼は優美の会社の先輩だし話しやすいかもしれないから、翼も俺が」
「おねがいします」
「まずは軽く、みんなの考え方を探る方向で」
「だな。一気には出来ない、少しずつ時間をかけてするしかないだろう」
俺が各拠点を回るのだから、一番やりやすいと思うのだが、女性たちの本音を完全に引き出せるかは微妙だ。まずは同じ考えを持つこの3人から輪を広げていくとよさそうだ。
「あら、やだ。こんな時間」
「あ、そうね。遠藤さんも疲れたでしょ」
「疲れてはいないけど、漠然としていた悩みに、解決の方向性が見えてきた気がする。今日はぐっすり眠れそうだ」
「私も」
「同じく」
そう言って俺達は、キングサイズのベッドに3人で潜り込むのだった。少しも時間が経たないうちに二人が寝息をたてはじめる。今日の話でよほど心に溜まっていた物をはきだしたようだ。二人の寝顔を眺めつつ俺も睡魔に襲われるのだった。