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第187話 経緯と指針発表

京葉臨海コンビナートで助けたのは9人。最初はたくさん人がいたらしいのだが、ゾンビに感染して処分したり、普通に病気で死んだりして減ってしまったらしい。


「みな驚いてたわね。」


華江先生が言う。


全員を拠点に連れて戻ったところ皆とても驚いていた。まさか高層ホテルで電気も使え、人間らしい暮らしをしているなどとは思わなかったらしい。彼女らにはすぐに食べ物を与え1日睡眠と休息をとってもらった。今は既存のメンバーに連れられ、全員がお風呂やヘアカットなどをしにいっている。


「でも見事に全員女性でしたね。」


「もともと男はいなかったらしいわ。」


私と華江先生が話をしていた。これからの事を皆に説明しなくてはいけないので、ホワイトボードを用意したり、プロジェクターを用意したりしていた。


「最初に接触した時の事はあまり覚えていないらしくて、銃撃したのも何度か襲撃にあったかららしいですね。」


「地方都市ではそんなこともあるのかもしれないわ、都会はゾンビが多すぎて普通の人間が住もうとは思わないだろうから。」


「そういう事なんでしょうね。」


残っていた9人は軽く衰弱していたものの、近隣の倉庫から食料などを入手して何とかやっていたらしく、緊急で治療しなくてはならない人はいなかった。


「わー。」

「ママ―! 」

「お腹減ったー。」


周りでは子供たちが遊んでいる。


展望台には子供達も全員が集まっていて、かなりの人数になっていた。そこに身支度を整え終わった人が一人また一人とやってくる。


「服をありがとうございます。」


白旗を掲げていたリーダーがやってきて皆にお礼を言っている。髪も洗って顔も綺麗にし服を整えると、さばさばとした雰囲気の小綺麗な人だったことが分かる。


「いいんですよ。」


華江先生微笑み返した。


「しかし…橋本里奈ちゃんに子供がいたなんて…。」


彼女は私のファンらしいのでショックを受けている。


「ええ、もちろんこういう世界になってから生まれた子だけど。」


「しかも…男性がいる…。」


「彼が私たちの救世主よ。これからそれを説明するから座っていて。」


「はい。」


彼女は皆の所に戻っていくのだった。もともと物怖じしない性格のようで、普通に元々いた人たちと話をしているようだ。


「先生。全員がそろいました。」


部屋に入って来た菜子様が言う。すると新しい人たちがまたざわついた。


「あの!」


リーダー的な女性が言う。


「はい?」


「もしかしたらですけど…菜子様ではございませんか?」


「そうです。」


「す、すごい!」


皆がざわつく。その気持ちは痛いほど分かる…だってこんなところにプリンセスがいるなんて想像もつかないから。


「橋本里奈に菜子様…。」


皆が私と菜子様に興味津々のようだった。私なんてもう女優でもなんでもないのに。


「えー、ではすみません。ご静粛に。」


あずさ先生が進行を始めた。


「私達はこれまでここを拠点として、物資の回収をしたりゾンビに対抗するワクチンや血清の研究をしたりしてきました。」


ざわざわざわ


やはりざわめきが起こった。


「皆さんが驚くのも無理はないと思います。実はこちらにいるのが大角華江先生といって、細菌学の権威なのです。外科の施術も出来ます。」


華江先生がぺこりと頭を下げる。


「そして私たちはここで暮らし続け、生存者を見つけては増やしてきました。残念ながら今までは男性の生存者を見つけたのは、遠藤さんの他には一人だけです。その男性は事故で死んでしまいました。」


そのまましばらくあずさ先生が、これまで自分たちがやってきた事、そして彼女らがどうやって生きて来たかなどの情報交換などを行った。


「ーーというわけで、今に至ります。」


あずさ先生の説明が終わる。


「では今度は私が。」


華江先生が前に出て、プロジェクターにデータを映し出した。


「このパンデミックがおきる前の経緯と、私たちが活動して来た期間で入手した情報を全て公開します。本来特許などに関する情報もあるのだけど、こんな世界ですから全てオープンにして話しますね。」


そして華江先生が最初に話すのはもちろんこの人の事だった。


「私達がこの世界を生き抜くための転機になったのは、彼の存在無くしては語れません。遠藤君こっちにきて。」


「はい。」


遠藤さんが前に来てお辞儀をする。


「彼のDNAには稀有な、いえ…稀有などという言葉では表現しきれない、科学では解明できないとんでもない力が備わっていました。」


プロジェクターに遠藤さんの…精子が映し出される。しかし昔と違って遠藤さんは恥ずかしがることもなく、真剣な顔でそこに立っていた。


「彼のDNAには半径1キロのゾンビ及び感染者の細胞を燃やしてしまうという、およそ信じる事の出来ない力が宿っていました。」


ざわざわざわざわ


やはりざわめきも大きくなる。少しざわめきが収まるのを待って華江先生が再び話を始めた。


「何よりも特筆すべき事は、彼のDNAは受け継ぐことができるという事なのです。受け継ぐゾンビを消去する能力は、男児として生まれる事か妊娠中にだけ作用するようです。女児として生まれた場合はゾンビは消去しないのですが、ゾンビウイルスに感染しないという利点を持っています。」


より一層ざわめく。そりゃそうだ、私だってその事実を知った時は滅茶苦茶、動揺したのだから。


「皆さんの周りで遊んでいるたくさんの子供の母親はここにいる人たちです。しかし父親は全て遠藤君となります。」


「すみません。」


リーダーがたまらず手をあげる。


「はい。」


「えっと、子供は人工授精により作られたとかですか?」


「いいえ。人工授精の機器もスタッフもいませんし、一度試してはみましたが受精する事もなく細胞は死んでいました。」


「という事は…。」


「はい、通常の性交渉を行い受胎して生むしか方法が無いのです。」


「‥‥‥。」


皆がシーンとなる。


うん。そう言う反応になるよね、目の前に立つ男性と全員が性交渉をしていて、子供を作ったという事実を知ったらびっくりするわね。


「続けていいかしら?」


「は、はい。」


その後もしばらく華江先生が研究結果の発表や、血清の作成に成功した事。そして今後の展開などについて図解で説明をした。


「というわけで私の話はここまで、次は吉永さんお願いします。」


「はい。」


次に吉永さんが出て来る。


「えっと、私も皆さんとそう変わりありません。ここに合流したのは1年くらい前です。」


今度はみなが黙って聞いている。現場でのてきぱきとした指示と武器などの扱いに慣れているのを見ているので、皆が吉永さんに一目置いているようだった。


「私は菜子様のSPとして宮内庁におりました。」


その後、吉永さんはこれから生存者に遭遇した場合の事や、物資回収の事、このグループ内での役割などについて細かく話はじめる。彼女が来てから本当に組織が潤滑に回るようになった。餅は餅屋というやつだと思う。


新しく合流した人たちは私達の先進的な取り組みについて、目を白黒させながら聞いていたのだった。説明会と質疑応答を時間を掛けて行い、その後の親睦会が始まる。親睦会は夜まで続き…案の定、華江先生とあずさ先生、瞳マネの酒飲みに付き合わされて…


次の日、大人たちは二日酔いに悩まされるのだった。

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