第183話 自動小銃とロケットランチャー
武器を調達してからしばらくの間、私たちは吉永さんの指導の下荒廃した街で戦闘訓練なるものを行っていた。まあ戦闘訓練とはいっても武器の使い方と実弾射撃、そして危険にならないように安全のための留意点などを教えてもらう。
訓練するために全員で拠点のホテルを抜けてくるわけにはいかないので、今日訓練に来たのは私とあゆみ、栞さんと翼さん、未華さんと菜子様、そしてゾンビ対策として遠藤さんがいる。
いま私たちは、ある雑居ビルの3階にいた。
「じゃあ里奈ちゃん次はあなたの番よ。」
「は、はい!」
「多少の反動はあるけどしっかり握ってね。」
「はい。」
「そしてみんなはこれを撃つときに後ろには絶対に立たない事。吹き飛ばされたり火傷を負ったりするかもしれないわ。」
「「「「はい!」」」」
吉永さんは一人づつ撃ち方を教えているのだった。
「里奈ちゃんは下を見て。」
「はい。」
窓から下を見ると荒廃した街が広がっている。
「あそこに、青い車があるわね。」
吉永さんが指さす方向には、青のミニバンが停まっていた。分かりやすく色で指定してくれたらしい。
「はい。」
「あれが目標よ。」
「わかりました。」
「よく狙ってね。」
「はい。」
私が肩に担いでいるのは、鉄の筒のような物だった。私が良くやるゾンビゲームに出て来るロケットランチャーというやつ。ゲームではここぞという時に使える武器だったけど、こうして肩に担いでみると冷や汗が出て来るのだった。
「怖いわよね?」
「はい。」
もう、はいしか言えない。
「大丈夫よ。とにかく怪我をしないように、よく握って慌てて落としたりしないようにね。」
「はい。」
「狙いを定めたら、このレバーを外して引き金を引くだけよ。撃つときは合図をお願い。」
「はい。」
私は青い車を狙ってロケットランチャーを構える。少し重みがあるのでこれで狙いが定まっているのかどうかが分からない。
「撃ちます!」
カチ
バシュー
ドン!というような反動が来たが、武器を落とすまでには至らなかった。
弾頭は真っすぐ飛んで行ったが、青い車を外れて後ろのビルの窓ガラスを突き破り、建物の中で爆発したのだった。
「撃つ瞬間ぶれたわね。」
吉永さんが言う。
「すみません。」
「ふふ。謝る必要はないわ、どこの世の中にロケットランチャーが上手い女優がいるものですか。」
「は、はい。」
「怪我無く撃てただけでも凄いと思うわ。」
「ありがとうございます。」
吉永さんは私が自信を無くさないように、言ってくれているのだと分かる。さっき遠藤さんは吉永さんの言うとおりの的に当てていた。私はかすりもせずに後ろの建物を壊したのだった。
「貸して頂戴。」
空になったロケットランチャーを渡す。
「じゃあそのままこれを撃ってみましょう。」
「はい。」
次に渡されたのは長い銃だった。吉永さんは自動小銃と呼んでいた。
「このベルトを肩にかけて、そしてこの部分を肩につけるの。」
銃の後ろの部分を肩に押し付けて構える。
「そしたら、ここからのぞいて見て。」
「はい。」
「このスコープをのぞいて目標に合わせて撃つわ。さっきより反動が少ないと思うからやってみましょう。」
「はい。」
スコープを除くと車が散乱した道路が見える。青い車に照準を合わせてじっと見る。
「青い車が見えたら撃っていいわ。あとは微調整してみて。」
「はい。」
私は息を殺して引き金を引く。
パララララ
乾いた音と共に銃を撃つ。すると青い車の脇あたりの道路がはじけるのが見えた。少し左に銃をずらしてまた打つ。
パラララララ
青い車の窓は割れて、車体に穴が開くのが分かった。
「当たった。」
「そう、そう言う感じ。」
「でも…。」
「どうしたの?」
「相手が止まっていればこうして当たるかもしれないですけど、動いてたり迫ってきたら当てる自信がありません。」
「それはそうよ。あとは何回も何回も慣れるまで練習しなくちゃ。」
「はい。」
返事をしたものの、とても不安だった。私が練習しているのは軍の基地から持って来た武器で、これを使って狙うのは…
人間の可能性がある。
怖い。
ただそれだけだった。自分が言い出した生存者がいるのであれば、銃を撃った相手でも調べてみる必要があるのではないかという言葉。
だが…
実際にそれを実行するとなれば、こちらが完全武装していかなければいけないのだ。万が一相手の抵抗にあったならば引き金を引けるのか…
その時、指は動くのか。
あれから毎日自問自答している。
「銃を渡して。」
吉永さんに言われて銃を渡した。次に練習するのは未華さんだった。
私は離れたところにいる栞さん達の所に行く。
「どうだった?」
栞さんが聞く。
「怖かった。あれ本番で撃てるか分からない。」
「そうね。私もわからないわ。」
すると翼さんが言う。
「もしかしたら里奈ちゃん、生存者に会いに行かなきゃって言ったのを気にしてる?」
「そうです。」
「だとしたら里奈ちゃんが気にする必要はないわ。いつまでもこのままの状態で暮らして行けないのは皆が分かってる。むしろ勇気を出して言った里奈ちゃんに皆が奮い立った気がするわ。」
「そうしょうか?」
「里奈。間違いなくそうだよ。俺達はやらなきゃいけないんだ、子供達には未来がある。そう言った里奈の気持ちは痛いほどわかる。だからみんなでやるんだよ。」
「うん。」
遠藤さんが力強く言ってくれると心が落ち着く。私が言いだしたような気がしていて、責任を感じていたのだが少し肩の荷がおりた。
「え!未華さんうまいわ!」
吉永さんの声に私たちが振り向いた。
未華さんは恥ずかしそうにしながら私たちに照れ笑いをするのだった。