第180話 回収は楽しくしよう
私たちが京浜コンビナートに着くと、そこは荒廃した街が続いていた。完全に人間の気配はなく私達が良く見る風景となっていた。
工場や倉庫の門もあけ放たれており、閉めるまもなくゾンビの襲撃にあった事を物語っていた。
「かなり荒れてますね。」
「そうだね。」
「恐らくは生きている人はいないでしょうね…。」
「そう思う。」
私と遠藤さんが話している通り、この工業地帯はかなり荒れており人が住んでいる気配は全くしなかった。
「でもこうなってくると物資の保存状態が気になるわね。」
吉永さんが言う。
「ですね。とにかく使える物資があればいいのですが…。」
遠藤さんも自信なさげだった。
「でもこれまでもこういう状況はありました。以外に食べられるものもありましたし、主食に使える原料なんかあったらいいですよね?」
「そうね。とにかくみんなで探すしかないわね。」
そして私たちは一つの倉庫にやってきて車を降りる。私たちが乗っているのは先行しているRV車だった。後ろについて来たマイクロバスに向かって歩いて行く。
「では俺達が先に内部を確認してきます!みんなはここで待っていてください!」
遠藤さんがマイクロバスのみんなに指示を出していた。
私が車を降りると。
すんっ
臭いがした。
これも嗅ぎなれた臭いだ。腐った体が動いていた世界の臭い。やはりこの地区はゾンビにやられてしまったらしい。だが遠藤さんや子供たちが来た事によってゾンビが消滅したのだった。
「ここまで壊滅的だと逆に物資があると思うよ。今までの経験上。」
遠藤さんが言う。
「ですね。人間は物資を回収なんかできなかったでしょうから。」
「だとあの千葉のコンビナートの生き残った人たちはよっぽど運がいいのか、はたまたサバイバルの知識に長けた人が居るのかだね。」
「そうですよね。よく遠藤さんのような力を持たずに生きていますね。」
私が言う。
「案外人間はしぶといものよ。千葉のコンビナートでなくても、私達だって皇居で生きてたじゃない。まだまだ生存者がいる確率はあるわよ。」
「確かに。」
「山の中とか離島とか可能性はあるんじゃないかしら?」
「ですね。」
となれば、やはり華江先生の薬は必要だと思う。生きている人が居る可能性があるなら絶対にそれを使う日が来るはずだった。
「こっちじゃないかな?」
遠藤さんが言う。
既にこういう状況になるとだいたいどこに何があるのかが分かるのだった。ここ何年かの回収暮らしで完全に体に染みついているのである。
私たちが建物の中に入っていくと、やはり内部は暗かった。
「いつもどおり。」
そう言って発電機を台車に乗せてライトを着けた。そのまま台車を引きながら建物の内部に入っていく。
「たぶんこっちじゃないかな?」
遠藤さんがどんどん進んでいく。
「ビンゴ!」
どうやら倉庫を見つけたようだった。
「おおー!どうやら穀類の原料みたいですね。」
吉永さんが言う。
「これは助かる!」
穀類がこのような状況で保存されていると虫が湧く。しかし海外からの輸入品は若干農薬が強めなのかそれほど虫の被害が無い事が多かった。そこにあったのは乾燥した大豆やトウモロコシの豆だった。
「ほぼ手付かずみたい。」
「こんな広い倉庫がこれだけ無事なのは久しぶりじゃないですか!?」
私たちは手放しで喜ぶのだった。
「とにかく車に詰めるだけ詰んで行こう。」
「ええ。」
一度マイクロバスに戻ってみんなに伝える。するとみんなが慣れた手つきで台車を下ろして、カゴを乗せて倉庫の中に入っていくのだった。
「主食はうれしいね。」
私が瞳マネに言う。
「本当ね。これでしばらくは皆もお腹いっぱい食べられるんじゃないかしら。」
「ほんとだ。」
ちょっとウキウキした。あれだけの穀類の袋があれば間違いなくみんなのお腹は膨れる事だろう。
マイクロバスへと次々物資を運び出していく。最近は缶詰や鹿の肉とコメばかり食べていたような気がするので、豆料理なんかにありつけそうだ。
「遠藤さん。」
私は一緒に運び出していた遠藤さんに聞く。
「トウモロコシの豆があったって事は…ポップコーンとか作れますかね?」
「ああ、いいね!間違いなく作れるよ…というかあれポップコーンの材料だね。」
「あ、やっぱり!お菓子!お菓子が食べれる!」
「ポップコーン食べながら皆で映画見るとかね。」
「賛成!それやろう!」
私がウキウキして言うと、吉永さんや瞳マネがくすくすと笑った。
あれ?私もしかしたら子供っぽかった?
少し顔が赤くなる。
「俺ちょっとやってみたいことがあるんだよ。」
「え?やってみたい事?」
「ヨーチューナー達が動画でやってたのを見た事あるんだけど。」
ヨーチューナーというのは、動画を作ってそれを公開して広告収入でご飯を食べている人たちの事だ。
「うん。」
「巨大バケツでポップコーン!」
「おもしろそう!」
「どうせなら面白い事したいよね!」
「うん!」
よかった。遠藤さんの方が子供っぽくはしゃいでいるし、私が浮かれたってどうってことない。
私はバケツポップコーンを想像しながら、意気揚々とポップコーンの袋を運び出すのだった。