第18話 忍び寄る影 ー長尾栞編ー
春休みがもうすぐ終わって私は2年生になる。
春休みが一番長いのにアルバイトも出来ず出かける事も出来ず、ほとんど何もすることがなかった。ウイルス拡散防止のため街に出かける事も控えていた。
買い物くらいしかする事が無い。
なっちゃんともあまり遊び歩けなくなってしまった。今日も部屋でなっちゃんとSNSでやり取りをしている。
-その後唯人君とはどうよ
それが・・ウイルスのせいで会えてないわ-
-まあ・・そうだよね。さすがにガンガン会えとは言えないわ。
SNSでは話してるけど、会ってないからそれほど進展が無い感じ-
-まったく困るよねぇ
まあ2年生になって学校が始まったらがんばるよ-
-だね。また近いうち一緒にご飯食べよ!今度はうちでたこパーだ。
わーい!楽しみー-
-じゃまたあとでね。
じゃね-
なっちゃんとのSNSでの会話も終わったので、ラマゾンで買った本を読むことにする。あまり出かけられないのでネットで買い物をすることも多くなり、実家の親からもなるべく外に出ないようにクギを刺されていた。
しばらく本を読んで過ごしていたが、ひとりでいるのがつまらなくなってしまった。
唯人君とはデートできていないし、キスから進展することも無く、前と変わらず友達のような会話が続いていた。
《そう言えば唯人君に料理をふるまう約束をしてたんだっけ。春休み中に呼ぼうと思ってたんだけどな・・》
まったくもってこのウイルスは厄介だった。海外の方がひどいらしく、日本はだいぶ抑えられているらしい。それでも拡大はしているようだった。
暇なのでテレビをつける。
テレビはどこもかしこもウイルスの話題ばかりで、気が滅入ってくる。
パチパチとチャンネルを変えていると変なニュースが流れていた。
アフリカの方で暴動が起きたということだった。病気に侵された人たちが暴れ出したというニュースだ。
「無理もないよね、こんな抑圧された世界じゃ暴動も起きるよ・・日本は平和で良かったかも。」
さてと。
実家から送ってもらったお米と、買いだめしておいた肉と野菜で回鍋肉を作ることにした。
キャベツとピーマンを切って下ごしらえする。豚肉を炒めてそこにキャベツとピーマンを入れ、市販の回鍋肉の元をいれた。その傍らでお湯を沸かしワカメを戻す。回鍋肉を炒めながら、だしが入った味噌を湯に解いて味噌汁を作った。
ご飯は炊いて冷蔵庫で冷凍していたものをレンジで解凍した。
昼は回鍋肉とみそ汁で済ませて、午後はまた本を読む。
《あーあ。こんな暮らししてたら太っちゃうよなあ。マスクしてジョギングでもしてくるかな・・》
思い立ったが吉日!
さっさとジャージを着て、髪を後ろで結った。
玄関に行きスニーカーを履いて家を出る。
走っていくと公園では桜が咲いていた。
「あー。サクラだ!」
ジョギングしながら花を見る。
実家より桜の花が咲くのは2週間ほど早く、この辺りは卒業シーズンに咲くのだった。
少し桜の花が散り始めていた。
「まもなく実家の方では満開なんだろうな・・」
ぽつりとつぶやいた。
なんだか少し実家が恋しくなった。年末年始に帰ったばかりだったが、ウイルスの蔓延でこんなに寂しくなるとは思ってもみなかった。
そんな寂しさを振り払うように少し走るスピードを上げた。
「ほっほっほっほっ。」
息をリズミカルに吐き出して軽快に走る。
走る私の脇を電車が追い越していった。
2年生の講義が始まるまではもうすぐ。
《後輩が入ってくるの楽しみだなあ・・どんな子がはいってくるんだろう?》
花見客で人がごったがえすはずの、この公園も今年はまばらだった。宴会している人も見かける事はなかった。
立ち止まって看板を見る。
看板には宴会は禁止と書いており、勝手に行うと町内会の人や警察に注意されるらしい。
橋に差し掛かって、川を見下ろすと一面ピンク色に染まっていた。花弁が浮いて綺麗だった。
ジョギングを辞めて立ち止まってじっと川を見る。
「キレイだなあ。」
なんとなく空を見上げてみると、澄んだ青空が広がっている。
《こんなに気持ちのいい空なのに、みんなマスクをして苦しそう。私も走りながらマスクしてるし・・早くこんなの終わらないかな?》
そんなことを考えてまた走り出す。
マンションにつくころにはイイ感じに汗をかいていた。
「ふぅ」
マンションの1階の集中ポストの所に来てみると。不在連絡票が入っていた・・
「あ・・また実家から仕送りだ。」
また仕送りを送ってくれたんだろう。お米はまだあるけど、あまり買い物にいけないので助かる。
「あれ?」
一階のオートロックの自動ドアが開けられていて、どうやら引っ越し屋さんがいるみたいだった。大家さんと業者の人が話ていた。
《あ、もしかして新1年生かな?》
そんなことを考えながら自分の部屋に上がっていく。
すると・・引っ越しして来たのは、私の部屋のお隣さんだった。
引っ越し業者さんがせわしなく出入りしている。
《あ、隣に新しい人が来たんだ?どんなひとかなあ・・嫌な人じゃないといいな。》
私は部屋に入り、着替えと下着を取り出してお風呂場に向かう。汗をかいたジャージを洗濯カゴに入れ、下着とブラを洗濯ネットにいれた。
シャー
シャワーをひねると勢いよくお湯が飛び出してくる。身体を濡らしてお湯を止めた。
ボディウォッシュを泡立てて、汗を丁寧に洗い流していく。
「ふぅ」
軽くため息をついた。
シャワーを浴び終わり、タオルで体を拭いて用意していた下着とブラをつける。そして部屋着を着て部屋に戻った。
携帯を手に取り、先ほどの不在票にあった運送屋さんの携帯番号に連絡をする。
「あの・・不在票があったんですけど・・」
運送屋さんといつものやり取りをして電話をきった。
ドライヤーをコンセントに差し込みテレビをつけた。
ボォォォォォ
ドライヤで髪を乾かし始めるのだった。
ひとりで静かにいるのが嫌なのでテレビをつけたが、ニュースはよく見ていなかった。
テレビでは、イギリスでもドイツでも暴動が起きたというニュースが流れていた。
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