表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/199

第177話 たのしい焼肉パーティー

私は結局、鹿肉の下ごしらえの作業を免除された。鹿の解体作業を見て具合が悪くなった私と栞さんは、部屋で夏希さんから介抱されているのだった。


「だから言ったじゃない代わるって、しおりん。」


顔の上に濡れたタオルを乗せてベッドに横たわる栞さんが、夏希さんからさすさすとさすられていた。


「だって、慣れておかないと今後だめかなと思ったのよ。」


「もおー。」


夏希さんが栞さんを優しく怒っているが、これは日常風景だった。夏希さんは栞さんに甘い。


「里奈ちゃんも無理するから。」


「すいません。」


「まあ謝らなくても良いけど、それでどうするの?2人とも。」


「私はパス。」

「私も無理です。」


「そうなんだー梨美もダメらしいし、とりま2人はここで寝ててね。」


「なっちゃんは行くの?」


「もちろんよ!私は食うわよー。」


「逞しいですよね。」


「だって生きていかなきゃだし!」


夏希さんは強い。特に子供を産んでからは強さに磨きがかかった気がする。このグループの中でもいつも明るくて、ムードメーカーのような存在だった。


「生きて行かなきゃ…か。じゃあ私も行くー。」


「行かないっていったじゃん。大丈夫なのしおりん?」


「栞さんが行くなら私も。」


「里奈ちゃんまで?」


「やっぱり慣れないとダメだと思うので。」

「私も。」


いったいどこに行くのかと言うと…


今日の夕方には、さばいた鹿肉で焼肉パーティーをする事になっていたのだった。私と栞さんが、夏希さんについてエレベーターで一階に降りていく。


「きっと遠藤さん張り切ってるよ。」


「うん。」

「はい。」


私も栞さんも乗り気じゃない返事をしてしまう。


「コラー!遠藤さんガッカリしちゃうよ!」


そうだ。せっかく遠藤さんがノリノリで準備してるのに水を差すわけにはいかなかった。


「楽しみです!」

「そうだね、たっ食べるぞ!」


私が空元気でいうと栞さんもつられた。


「まあほどほどにー。」


焼肉会場はホテルの玄関前。大型車のバリケードと金網に囲まれているので安全だ。最近は野生動物も見かけないので、皆も日光浴などをするようになった場所だ。外に出るルールとしては遠藤さんか息子たち、妊婦を含めた3人以上で行動する事だった。


既に遠藤さん達がバーベキューセットを用意して火をおこしていた。皇居から合流した何人かも一緒に手伝って準備をしている。


「えんどうさーん!」


夏希さんが手を振って近づいて行く。


「お!大丈夫かい?」


「なんか復活したみたいです。」


夏希さんが明るく言った。


「大丈夫!」

「私も。」


栞さんと私がカラ元気を出す。


「ならいいんだけど、そろそろ厨房から肉が降りて来るから待ってて。」


「わかりましたー。」


しばらくすると麻衣さんと翼さんと未華さんが子供達を連れてやってきた。麻衣さんはこのグループの託児所を預かる長として、いつも子供たちの面倒を見てくれていた。


「みんなも座りなさいー」


麻衣さんが言うと、子供達はおりこうさんに敷物に腰かけた。


翼さんが押す手押し車にはまだ歩けない子達が4人乗っている。未華さんは赤ちゃんを抱っこしていた。


「おまたせー!」


その後で華江先生とあずさ先生、吉永さんと、愛奈さんがトレイに乗った大量の肉を持ってきた。その後ろから瞳マネと沙織さんと奈美恵さんが、豆の缶詰やご飯ジャーなどを台車に乗せて持ってくる。古米だがコメの倉庫を見つけたため最近は主食にこまらなかった。コクゾウムシが入っているけど、洗えば流れるので全く問題はなかった。


「あら?里奈大丈夫なの?」


瞳マネが言う。


「復活です。」


気を使わせないようにふるまった。


「お待たせしましたー。」


「ジュースとお茶と焼酎と、ワインもあるよー。」


優美さんが言う。


「やったー!」

「ナイス!」

「わー!」

「あら、うれしい。」


あずさ先生、華江先生、瞳マネ、吉永さんが喜んでいる。


あゆみと菜子様と優美さんが3人で飲み物を運んできたのだった。。


なんだかみんなが楽しそうなので、だんだん気持ち悪いのを忘れて来た。どうやら私と栞さんだけがまいっていたようだ。あとは梨美さんか…


と思っていたら、みなみさんと一緒に梨美さんもやって来た。


「梨美ちゃん大丈夫かい?」


遠藤さんが声をかける。


「なんとか。」


「無理しないでね。」


「はい。」


結局全員がそろって網の上に肉を乗せ始める。


パチパチ


炭がはじけて煙が立ち上り始めた。濃厚ダレで味付けした肉が焼けてあたりに香ばしい匂いが漂い始めた。


「うおおおお。うまそう!」

「お腹減りましたー。」

「美味しそうね!」

「本当に久しぶりの肉だわ。」

「いい匂い!」


皆が焼き肉の匂いにテンションが上がる。私もこの匂いを嗅いでいるうちに食欲がわいて来た。すっごくいい匂いがしてお腹が鳴る。梨美さんもどうやら匂いに誘われて復活してきたようだ。


「子供たち―おいでー。」


「はーい!」

「わー!」

「おなかすいたー!」


小さな子供たちがてくてくと肉を焼くあずさ先生の所に行く。


「並んで―。」


麻衣さんが言うと子供たちは並んだ。


小皿に盛り付けた焼き肉をもらって子供たちが食べ始めた。


「うまーい。」

「これなーに?」

「もっとたべたーい。」


この子達は生まれて初めてバーベキューというものを体験しているのだった。自分の息子も含めて子供たちがこうやって楽しんでいるのを見ると、鹿を獲ってきて正解だったなと思う。


「パパ―!ちょうだーい。」


「ほれ!」


遠藤さんが近づいた子の皿に肉を入れてやっていた。


ここにいる子達は全員が遠藤さんの子供。皆がパパと呼ぶのは遠藤さんだけ。でも私たちはそんな風景が普通になっていた。


「みんなも食おうぜ!」


「わーい。」


箸とタレが入った皿をもって焼き網の周りに近づいて、勝手に焼いて食べ始める。


「肉はたくさんあるから食べて―!」


吉永さんもテンションが上がっている。


「ごはんほしいー。」


「どうぞー!」


あちこちで楽しい食事が始まった。その雰囲気に私も栞さんも梨美さんも一気にテンションが上がり、バクバクと食べ始めるのだった。


おいしい!


あの気持ちの悪さはどこかに行ってしまった。


今までの缶詰の食事とは違い、生きている幸せが実感できた時間。皆が生き生きとしてそれぞれが思い思いに食べている。


私は焼肉と一緒にしみじみとその幸せを噛みしめるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おいしく食べて供養するのが日本の古からの流儀だよ? 命を分けてくれたシシガミにっ感謝を! 海や川の魚も大事に食べて供養しよう! それが神道の流儀だよ?人間は殺さねば生きられないからね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ