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第176話 屠殺にドン引き

何年ぶりだろう。


本当に何年ぶりかの新鮮な肉。


私たちは鹿を捕獲し食料にする計画を立て、その計画を実行したのだった。今は大人チームが吉永さんから解体作業を教えてもらっていた。次は私達が教わる番だが最初はかなり抵抗がある。だけど医療チームは全く抵抗が無くすんなり覚えられそうと言っていた。


「やはり華江先生はさばくのがお上手。」


吉永さんが言う。


天才外科医の華江先生にしてみれば、人間も鹿もおなじような要領なのかもしれない。


「そうかしら?まあこれで貴重なたんぱく源を確保できると思うと抵抗はないわ」


捕えた鹿を華江先生医療チームが念入りに調べたところ、ゾンビの毒性も他の病にもかかっておらず、食用に適しているとの事だった。その結果2頭の鹿を捕えてきてさばく事になったのだった。


既に最初にさばかれた肉を愛奈さんと沙織さん、翼さん、未華さんが食堂へと運んでいった。私は次にさばかれる肉を待っていたのだった。それをもって食堂に行き仕込みをすることになっている。


「あら、里奈ちゃん真っ青よ。今日はやめておいたら?」


吉永さんが言う。実は2頭目の解体には私も参加する事になっているのだ。


「大丈夫です。」


「えっと、栞さんも大丈夫。」


「は、はい!やれます。」


私と栞さんだけが青い顔をしてそれを見ていたのだった。2頭目はまだ檻の中で生きていた。それを見つめて更に青い顔になる二人。


「里奈。吉永さんもああ言ってるし今度にしたらいいんじゃない?」


あゆみが言う。


「みんながやっているのに、そんなわけにはいかない。」


「無理することないのに。」


「私もやれます。」


「里奈…栞さん…本当に大丈夫?」


吉永さんが心配そうに言う。


なぜあゆみは平気なんだろう。私と同い年とは思えないほどしっかりしている。目の前で鹿がさばかれているというのに、冷静にそれを見て覚えようとしていた。


「梨美ちゃんは断念したわよ。」


瞳マネが言う。


梨美さんは解体が始まったと同時にふらふらと座り込んでしまった。今はベッドに横になっている。


「まあみんなこれから慣れていかないと、生きるための事だからね。」


あずさ先生が言う。


「まあまだ子供たちには見せられないけど。」


麻依さんがいった。


今、子供達を託児ルームでみているのは、夏希さんとみなみさん、後参入組のふたりの4人。彼女らはくじ引きの結果、今回の解体レクチャーに参加しないことになっていた。夏希さんは栞さんにしきりに変わってあげる、って言ってたんだけど、栞さんが頑なに断った。そんな事もあり、栞さんは解体レクチャーを止めるわけにいかないと思ってるらしい。


「よいしょ!」


遠藤さんが鹿の足を持って反対側にひっくり返した。


「やっぱり力仕事は男の人ね。頼りになるわ。」


吉永さんが褒める。


「いや、俺早く食いたいんで。」


ばらばらになった鹿を前にして言う遠藤さんは確かに頼もしい。目の前のこれを見て食欲が湧くなんて…


「遠藤さんも覚えが早いわよね。」


「俺ひとりでもできるようになりたいなって。そしてもっといっぱい獲って冷凍庫を満タンにしたいんです。」


そういえばそうだ。この人食料で冷凍庫が埋まっていると落ち着くんだった。私達と知り合う前から、業務スーパーに行っては肉や食料を小分けにして、冷凍庫をいっぱいにするのが幸せとか言っていた。言ってみれば食料確保オタクとでもいうのだろうか…


「そのため大量の冷凍庫確保したんだしね。」


優美さんが楽しそうに言う。遠藤さんが楽しがっているのを見てうれしいのだろう。


「ガスもまだ湾岸沿いのタンクにはあったし。」


「ほぼ私達で使っているから。」


遠藤さんと優美さんが笑いながら言う。


逞しい。


確かに。都心側のエネルギー関連の会社にはまだガスもガソリンも保存されていた。ガスでホテルの地下タービンを回して暖房や調理などを行っているから、今はエネルギーには困っていなかった。


「湾の向こう側の銃を持った人達は、こっちには来ないみたいですね。」


私が言う。以前の遠征の時、銃撃して来た人達の事だ。


「都心にはゾンビの大群がいるからね、簡単にこっちにはこれないはずだよ。いつもガス会社の門を開けて来るのはそのためだし。」


遠藤さんの言う通りだった。


私たちが生きるためのいろんな施策が生まれた。ガス会社や倉庫の会社などの門を開け放つのは、他の人間が容易に近づかないようにだった。


そして私たちの生き方もだいぶ変わった。一旦こちらから生存者を探すのをやめ、今いる26人と遠藤さん、そして17人の子供達で生きていこうと決めた。


活動していて生存者を見つけた場合のみ助ける。それ以外こちらから動く事をやめる。そしてガスや物資回収の時は、銃やショットガンを持ち歩くようになった。この荒廃した世界ではこれがベストの選択肢だったのだ。


「さあ1頭終わったわ。食堂に運びましょう。」


「はい。」

「よいしょ。」

「意外に重いわね。」


それぞれに言う。


目の前の鹿の残骸を見ながら、いつか私も人を撃つかもしれないと思うと…また吐き気が襲ってくるのだった。

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